先月末に配信されたデイリー新潮の記事によると、民間軍事会社「ワグネル」は兵員不足に悩むロシア軍のために刑務所の囚人から志願兵を募集。3000人を集めた後、わずか10~14日間ほどの訓練で前線に送り、全員が戦死したと言う。
かつてアフガンに義勇兵として参戦後、アジアのカレン民族解放戦線やクロアチア外人部隊に所属、数々の激戦を傭兵として経験した高部正樹氏はこう語る。
「ボスニア内戦の超激戦の際も戦死したのは約3割。なので、3000人中900人が戦死して、残りはウクライナに脱走したと思われます。一般人にとって、敵兵を殺すか殺さないかの壁は結構大きいのですが、その点、囚人の中にはその歯止めがかからない連中もいます」
囚人部隊の小隊長殿は元死刑囚らしい。
「刑務所内には階級があります。それを軍隊に転用して、コソ泥は二等兵、強盗は軍曹、将校は死刑囚、という階級付けも考えられます。ロシアマフィアの中には何十人も人を殺した人間がいてもおかしくありませんので」
現に10月4日、ロシアのプーチン大統領は、「ワグネル」の司令官に38人殺した終身刑囚のブトリンを任命したそうだ。まさしく最恐である。
では、囚人部隊には短い時間の中で、どのような訓練が施されているのだろうか。前線に出る前にクロアチア外人部隊で行われていた訓練について、高部氏はこう語る。
「どんなベテラン兵の部隊でも、チームプレイの訓練を4~7日間やります。しかし、囚人は軍隊の兵隊とすればド素人。ワグネルは10日から2週間程度やったとのことですが、銃を渡し、匍匐(ほふく)前進などの基本的な動きだけ教えて最前線に出すのでは、すぐ死ぬと思います。まさに自分のいたアフガン流です」
1990年代、高部氏はソ連軍と「ムジャヒディン(ジハードに参加する戦士)」として戦っていた。ある日、アジトでAK47ライフルを渡され、一弾倉分試し撃ちをし、数日歩いてとある斜面を登り切ると、そこが戦場だったことがあるという。
「アフガンでは100人新兵が来れば、そのまま100人前線に送り込みます。そのなかで一年後に10人残っていれば、彼らがベテランになる。事前に2週間も訓練してくれる『グネル』はアフガンよりいいと思いますよ」
ロシア軍の招集兵はもっと酷いらしい。9月30日のForbesの報道によれば、ロシア陸軍は招集兵をわずか1~2日の訓練を受けさせただけで最前線に送り込んでいる。
「それは、アフガンで我々がやっていた方法をソ連軍が学び、それをいままたロシア軍がやっているとしか思えないです。30万人招集して1年後に三万人のベテランが残る。ロシア陸軍1BTG(大隊戦術軍)が600人とすると、50個BTGの凄い戦力となります。
ただ、いまは当時より兵器の質が上がっているので、死ぬ確率は2倍になっていると思います。なので、単純計算すれば30万人招集すれば、1年後に1万5000人残って25個BTGですね。100万人動員すれば5万人生き残って、ベテランの83個BTGができます」
このやり方は、第二次世界大戦でソ連軍が対ナチスドイツ戦で、自国民約3000万人を殺して勝利した戦いと同じだ。
「そうかもしれません。戦場で生き残れるかどうかは、運の要素が一番大きいです。アフガンでは10%は運良くて生き残れましたが、今のウクライナ戦争では5%程度です」
サバイブできる確率が限りなく低い中、もしロシア軍にウクライナ戦争の最前線に配備されたらどうすればいいのだろうか?
「まず、弾薬庫警備などの後方勤務はハイマース(高機動ロケット砲システム)の標的になるだけです。なので、前線勤務を希望します。しかし、前線に行くまでBTR(装輪装甲車)に乗ったら155mm777の砲撃で戦死です。
アフガン時代ならば、最前線の塹壕では、ヘリが飛んできたら地面にへばりついて動かなければ見つかりませんでした。しかし、今の無人ドローンは動かなくても見つけますからね」
これではどこにいても戦死だ。
「ですので、ウクライナ軍は、黒焦げになって悲惨な死に方をしたロシア軍兵士の死体の映像などをネットに上げます。同時に、ロシア軍捕虜を優偶する映像を流します。
すると、ロシア軍の新兵はウクライナ軍の捕虜になるまで、戦って抵抗する意思が薄れてきますね。とにかく、自分だけ何とか戦場でウクライナ軍の捕虜になって助かろうとします」
壮絶なサバイバル戦だ。
「ロシアは怖い所だと思いました。これは国軍のやりかたではなく、ゲリラの戦い方です。何の役にも立たない兵を、大量に最前線に送る意図が分かりません。プーチン大統領は通常戦では引く気はない。長期戦になりますね」
1945年、スターリンは自国民3000万人の犠牲を出して、ドイツの首都・ベルリンを陥落させた。プーチンはまた自国民を何万人も殺すことで、キーウに行くつもりなのか...。