「米空軍がもし、クリミア大橋攻撃をするのならば、F15Eストライクイーグルを使用します」(杉山空将補) 「米空軍がもし、クリミア大橋攻撃をするのならば、F15Eストライクイーグルを使用します」(杉山空将補)
ロシアの要衝・クリミア半島と本土を繋ぐ唯一の陸路であるクリミア大橋で、10月8日に大爆発が発生し、車両用道路の片側車線が崩落。また、平行して走る鉄道橋を通過中だった貨物列車の燃料タンク車7両でも、火災が発生した。10月12日にロシア政府は、クリミア大橋の全面復旧は2023年7月になるだろうと発表した。

この"爆発"の一件を受け、元・航空自衛隊302飛行隊隊長の杉山政樹・元空将補はこう話す。

「ロシアのプーチン大統領の威信を傷つけるのが目的であれば、この仕掛けは大成功でした。ウクライナ側の反撃が成功するにつれ、世界各国は慎重な姿勢を取り始めましたが、G7対応をうまくやった結果、支援体制へと引き戻す事に成功しましたね」

ウクライナにとって重要な一手となったこのクリミア大橋の爆破。ではその攻撃のやり方とは何だったのか? ウクライナ軍の切り札であるハイマース(高機動ロケット砲システム)も155mmM777榴弾砲も射程外で、前出の杉山元空将補も「ウクライナ空軍の空爆の可能性はないですね。米軍ならば可能ですが(写真キャプション参照)」と話す。

「搭載する爆弾は破壊力の大きい2000ポンド爆弾だと予測されます」(杉山空将補) 「搭載する爆弾は破壊力の大きい2000ポンド爆弾だと予測されます」(杉山空将補)

「クリミア大橋攻撃はピンポイントでやらないとダメなので、対地攻撃用のJDAMを付加します。精密なピンポイントの空爆になると思います。クリミア大橋を破壊するには、F15E爆撃部隊だけで36機、援護する戦闘機などを加えると総勢100機の大編隊になるでしょう」(杉山空将補) 「クリミア大橋攻撃はピンポイントでやらないとダメなので、対地攻撃用のJDAMを付加します。精密なピンポイントの空爆になると思います。クリミア大橋を破壊するには、F15E爆撃部隊だけで36機、援護する戦闘機などを加えると総勢100機の大編隊になるでしょう」(杉山空将補)
そんななか、国際政治アナリストの菅原出氏はこう推測する。

「情報機関が金を出して工作し、遠隔でトラックを爆破させたのでしょう。トラックの運転手は全然知らなかったでしょうね。中東ならばどこでもやっている"テロ"です」

さらに、元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補はこう分析する。

「通常の爆破工作ならトラックに数トンで十分ですが、ロシアの報道によると22トンの爆薬を積んでいたといいます。そこには高熱を発するテルミット材が入っていたのは間違いないです。

もし、この爆破工作をウクライナがやったとすれば、狙いは別にあったと思います。私は、ウクライナのクリミア大橋攻撃のタイミングは、ドニエプル川右岸(西側地域)をロシア軍から奪還した後だと考えていました。それが早まった理由として考えられるとすれば、ウクライナがクリミア大橋を攻撃することが、ロシア軍が核兵器を使うレッドラインになるのかどうか確認したかった、ということです」

去る7月18日に東京新聞は<ウクライナのアレストビッチ大統領府長官顧問は(中略)クリミア橋(総延長19キロ)について「技術的に可能となれば攻撃対象となる」と発言した。ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は「実行に移せばウクライナにとって終末の日になる」と警告した>と報じている。すなわち、橋を攻撃することが、ロシアの核兵器使用を左右するレッドラインになる、ということだ。

その推測の答えはすぐに出た。10月10日から11日にかけて、ロシアからウクライナに向けてミサイルが計103発撃ち込まれたが、それらは全て「通常弾頭」だった。

「クリミア大橋への攻撃はレッドラインではなかったです。核兵器の使用までには、まだ何段階か過程があります」(二見元陸将補)

この状況を鑑みれば、ウクライナの首脳部は凄まじい"賭け"に出たのだ。

「これでウクライナ軍はドニエプル川西側地域の包囲網を狭めていき、へルソン州の首都を奪還します。市街地に入ると投降者がたくさん出ることが予想されるので、受け入れだけで相当な時間がかかります。投降しないロシア軍兵士は、徹底的に打撃(砲撃)で潰していくでしょう」(二見元陸将補)

その時、ウクライナ軍はドニエプル川を渡るのだろうか?

「いえ、渡りません。次はサポリージャ地域南部を狙います。ロシア軍はクリミア大橋を爆破されて、核兵器を使いませんでした。つまり、サポリージャ原発の核自爆はないので、突っ込みます。そのまま南の海岸線まで行き、ロシア軍が使ったクリミア半島の陸路、補給路を遮断します。

そして、東西に分断したドニエプル東側地域とサポリージャ地域南部をハイマースで徹底的に叩いた後、クリミア大橋を落とします。その後、孤立し補給の制限を受けるクリミア半島にいる数万人のロシア軍を掃討していきます。ただ問題は、クリミア大橋を落とせるかです。航空攻撃は難しいため、ウクライナ軍の射程内に捉える必要があるからです」(二見元陸将補)

地対艦ミサイル・ネプチューンの射程280km。再び、クリミア大橋の1回目の攻撃を成功させた情報機関から金をもらった組織が、もう一度試みるのか? ロシア軍の大反撃はあるのか...。

「ロシア軍が100万人を動員できれば、まずそのうちの50万人をベラルーシに集結させ、ウクライナの首都・キーウに10万人ずつ送り込み、最初の10万がやられたら次の10万、と攻撃威力を落とさずに攻撃の衝撃力を与え続けます。これを計5回行うことができればキーウ陥落まで持ち込める可能性があるでしょう。そして夏を待ち、南部地域に対して態勢を整え攻撃していく選択肢があります。ただし、それができるのは最短でも2024年1月になりそうです。

現状、ロシア軍がウクライナ軍に勝てる方法は少なくなってきていると思います。一度、休戦に持ち込み、その間に体制を立て直してから再度、開戦するというやり方はあるかもしれません」(二見元陸将補)

クリミア大橋が完全に破壊できなかったウクライナ軍。米国がハイマースで発射可能な射程300kmの地対地戦術ミサイル・ATACMS(Army Tactical Missile System)を供与すれば、橋の完全破壊は容易だ。

しかしその時こそ、ロシアはレッドラインを超えたと判断し、核兵器を使う可能性は今より高まることは間違いない。

「そして、そこには爆撃誘導する米空軍特殊部隊CCT(U.S Air Force Combat Control Team戦闘管制部隊)が必要です。トラックを使えばあれだけの爆発を一瞬に遂行できますが、空爆ではあれだけ集中的に一瞬で攻撃するのは無理です。クリミア大橋を空軍機の空爆で破壊するのは難しいのです」(杉山元空将補) 「そして、そこには爆撃誘導する米空軍特殊部隊CCT(U.S Air Force Combat Control Team戦闘管制部隊)が必要です。トラックを使えばあれだけの爆発を一瞬に遂行できますが、空爆ではあれだけ集中的に一瞬で攻撃するのは無理です。クリミア大橋を空軍機の空爆で破壊するのは難しいのです」(杉山元空将補)