「どうして戦争は起きたのか。感情論や道徳論は一回おいて、論理的に考える必要があります。この戦争は、日本が長年見て見ぬふりをしてきた戦争のリアルさを突きつけてるんです」と語る豊島晋作氏 「どうして戦争は起きたのか。感情論や道徳論は一回おいて、論理的に考える必要があります。この戦争は、日本が長年見て見ぬふりをしてきた戦争のリアルさを突きつけてるんです」と語る豊島晋作氏

ロシアがウクライナに侵攻するひと月も前に、動画配信サービス『テレ東BIZ』の『豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス』ではすでに"ウクライナ戦争"の呼称を用い、起こりうる展開を解説していた。

不幸にしてその後、事態は「最悪のシナリオ」をなぞることになる。同コンテンツのキャスターである豊島氏はなぜそこまで見通せていたのだろうか。

動画の大反響を受けて急遽(きゅうきょ)執筆された『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」』(KADOKAWA)では、彼が大学院で専攻した国際政治学の考え方と膨大な資料に基づいて、世界情勢の読み方が説かれている。キーワードは、国ごとの「論理」だ。

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――豊島さんは2016年から19年まで、テレビ東京の英ロンドン支局長とロシアのモスクワ支局長を兼任されていたそうですね。当時はロンドンに住まれていたのでしょうか?

豊島 はい。月の半分くらいはロンドンにいて、時々モスクワ支局に行って管理業務やロシアでの取材を行ない、あとの時間は別の国で取材、という生活でした。日本人の社員は私ひとりで、あとはロンドンにもモスクワにも2、3人のローカルスタッフがいる体制です。

――ウクライナ戦争に関する解説動画が大反響を呼んでいますが、ロシア政府の意図を読み取るのに、モスクワでの経験は生かされましたか?

豊島 ロシア人の世界観を知ることができたのは大きいですね。私がいた頃、イギリスではロシアの元二重スパイが毒殺されかけたスクリパリ氏事件があって、「ロシアっていまだにこんなことするんだ」というイメージを持たれていました。

ところがロシア人のスタッフは「なんでいつも俺たちばかり悪者にされるんだ」という意識で。本書にも書きましたが、ロシアでは「ナポレオン戦争の頃からヨーロッパに散々やられてきた」という被害者意識が根深いんです。

私は両方の立場を見てきた人間として、ウクライナ戦争が始まる前からロシア側の言い分を伝える動画を配信していました。

――戦争が始まってから、ロシアのスタッフと連絡を取られたことはありますか?

豊島 もちろんです。彼らはやはり、自分たちの国が起こした戦争に対して複雑な思いを抱えているようでした。悪いと思う一方で割り切れない部分もあるような......。

――本書では国ごとに異なる「論理」を知ることが大事と説かれていますね。

豊島 はい。国家間の対立には、感情的な要因もありますが、その根底にある論理について知ることで、少し冷静に考えられるようになると思います。

――バルト3国やスウェーデンといった、ロシアに近い北欧の国々も紹介されています。中でもフィンランドの話が非常に興味深かったです。わざわざ伝説のスナイパー、シモ・ヘイヘの博物館にまで足を運ばれたそうですね。

豊島 フィンランドの人って、サウナが好きで平和的なイメージがあると思いますけど、実は敵に回すと世界でいちばん手ごわいのがフィンランド兵なんです。特に冬の戦争で彼らに勝てる者はいません。

その象徴的な存在として、かつてソ連軍を震え上がらせた「白い悪魔」こと、シモ・ヘイヘを取り上げました。しかし、フィンランドの場合、戦後は徹底して旧ソ連、そしてロシアを刺激しないようにしたんです。これがこの国の生き残るための論理です。

――そのフィンランドも、200年近くも中立をうたっていたスウェーデンも、今回のウクライナ侵攻を受けてNATO加盟を決めました。これはプーチン政権の失策と受け取れます。また、ロシア軍は戦場でも情報戦でも精彩を欠くようですが、どういった背景があるのでしょう?

豊島 やはり、14年のクリミア併合のときにうまく勝ちすぎて、慢心があったのでしょう。逆にウクライナのほうはあのときの敗戦のショックが大きく、サイバー攻撃においてはおそらく世界最強のNSA(国家安全保障局〈米〉)の下でトレーニングを受け、その成果でロシアのサイバー攻撃を防いでいます。

それにウクライナ軍にとっては自分たちの土地を取り返す、という正しい戦いなので、ロシア軍よりも士気が高い。

――本書ではリアルな"台湾戦争"のシナリオにふたつの充実した章が充てられていますね。

豊島 ウクライナ戦争だけにしちゃうと、どうしても人ごとになってしまうので。

――日本の読者に、より身近な問題として考えてもらいたいということでしょうか?

豊島 そうですね。私は専攻が国際政治だったんですけど、今の時代に国家と国家がここまで正面切って戦争をすることになるとは思っていませんでした。このタイミングに自分が報道する側として居合わせているのは稀有(けう)なことだと思います。

では、どうして戦争は起きたのか。感情論や道徳論は一回おいて、論理的に考える必要があります。そうじゃないと、万が一、また何かが起きたときに、冷静な思考が飛ぶ可能性があるんです。この戦争は、日本が長年見て見ぬふりをしてきた戦争のリアルさを突きつけてるんです。ここから学んでおかないと。

――現代日本は国際社会に対し、どのような姿勢を示しうるのでしょうか?

豊島 まず、平和を希求する点において、日本国民は世界のどこよりも強い。そして過去の戦争に関して、加害者の意識と被害者の意識を共に持っている稀有な国民です。その論理を踏まえた上で、現実的な安全保障を考えてゆく必要がある。

――なるほど。最後に、キャスターとしての今後のご活動についてお聞かせください。

豊島 私はおそらく、テレビ東京の中でも初めての、地上波とYouTubeのハイブリッド型キャスターです。従来のテレビは広く浅く知りたいニーズに応える仕事でしたが、今は決まったテーマを深く伝える活動ができます。

もしかしたら今後は、より「物書き」の側に近くなっていくのかもしれません。テレビのニュース原稿は、昔は「2、3分で読むものを書け」と言われてきたのですが、これからはもっと長い時間のものを書く時代になっていくと思うので。

ちなみに私の動画1回の配信には、1万字くらいの原稿を用意します。こうした活動スタイルの後輩を育てていきたいですね。

●豊島晋作(とよしま・しんさく)
1981年生まれ、福岡県出身。テレビ東京報道局所属の報道記者、ニュースキャスター。2005年3月東京大学大学院法学政治学研究科修了。4月テレビ東京入社。政治担当記者として首相官邸や与野党を取材した後、11年春から経済ニュース番組『WBS』のディレクター。16年から19年までロンドン兼モスクワ支局長として欧州、アフリカなどを取材。現在、『Newsモーニングサテライト』の解説メインキャスター。ウクライナ戦争などを解説した『豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス』動画はYouTubeだけで総再生回数4000万を超えている

■『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」』
KADOKAWA 1650円(税込)
YouTube『豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス』のウクライナ戦争、中国の台湾侵攻関連動画は総PV4000万超。深く、わかりやすい解説で圧倒的反響を呼ぶ気鋭の報道記者、豊島晋作の初単著にして、必読のノンフィクション。なぜロシアはウクライナ侵攻へ突き進んだのか? 中国の台湾侵攻リスクに日本人はいかに備えるべきか? ウクライナ戦争以後の世界を考える上で必読の一冊

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