去る10月8日、YouTubeの『USミリタリーチャンネル』に衝撃的な動画があがった。
『戦闘機から魚雷【軍艦を一発で撃沈】米空軍の革命兵器"クイックシンク"』
動画では、浮かんでいる船の真横の海面に突然、空から投下された何かが落ち、直後に爆発。一瞬で船が撃沈する様子が描かれている。まさに"クイックシンク(即撃沈)"だ。
第二次大戦中、大日本帝国海軍の急降下爆撃機は敵艦上空4,000mから急降下し、高度450mで250kg爆弾を投下、艦に命中させたが、一発轟沈のケースはなかなかなかった。さらに、雷撃機も魚雷を高度20m、距離1,000mから発射。これも両舷に複数発命中させなければ撃沈は不可能だった。ただ唯一、潜水艦から発射される重魚雷は、一発撃沈可能であった。
フォトジャーナリストの柿谷哲也氏は感嘆する。
「考えましたね。2000ポンド(約900kg)爆弾に精密誘導装置『JDAM』を取り付けて、戦闘機から艦艇の真横に落とし爆発させ、船体を真っ二つにします。一瞬で撃沈、クイックシンクです」
なぜ、船体に命中もしてないのに、艦艇は轟沈するのだろう? 海上自衛隊の潜水艦「はやしお」艦長、第二潜水隊司令を歴任した元海将で、現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏にそのメカニズムを解説していただいた。
「船は船底が極めて脆弱です。 対艦ミサイルは甲板、舷側に穴を開けるだけで船は沈まない。今の魚雷は船体に直接当てるのではなく、船の真下で爆発する。すると、水中で巨大なバブルが発生して、そのバブルが急速に収縮し、海水がジェット噴流となり海面に上がる。
これが凄まじいパワーで、船体を船底から一瞬で貫きます。ドーンと巨大な水柱が上がり、ほぼ同時に船は真っ二つになる。対戦車成形炸薬弾はモンロー/ノイマン効果で装甲を貫きますが、これの水中版といってもよく、クイックシンクは潜水艦発射用長魚雷と同じ効果があるのです。
海上自衛隊ではこれまで、潜水艦の魚雷で水上艦を2隻、実験で沈めていますが、私の同期が『水上艦に乗るのが嫌になった』と言っていましたよ。水上艦がただの鉄の棺桶と証明されました」
とある戦争映画の海戦シーンでは、艦長が『総員退去!!』と命令する猶予もなく即、轟沈していた。
「日本では"長魚雷"と呼ばれている重魚雷は一本2~3億円しますが、一隻約1,800億円のイージス艦を沈められるのですから、費用対効果がいい。しかし、このクイックシンクは普通の爆弾にJDAMをつけるだけだから、さらに安い3万ドル(約435万円)ですんでしまうんです」(伊藤元海将)
さらにいえば、クイックシンクは、ウクライナで活躍している一発2,300万円の対戦車兵器「ジャベリン」の5分の1の価格で手に入れることができる。こちらは、台湾侵攻を試みる中国への対抗措置として、台湾にとって有効な手立てになる可能性があるというのだ。
「中国は台湾を侵攻するとなると。海を渡らないとならないので、大量の艦艇が渡海します。そこにこのクイックシンクは、とても有効な武器になるでしょう。なにしろ、普通の爆弾に付ければ全弾クイックシンクになるというのは凄いですね」(伊藤元海将)
1発435万円で、1隻1,200億円の中国海軍055型巡洋艦(1万2,000トン)を轟沈できるのなら、費用対効果は抜群だ。
まさにそうなれば"海のジャベリン"となる。台湾に供与されたF16Vに搭載可能なのか、元・航空自衛隊302飛行隊隊長の杉山政樹・元空将補に聞いてみた。
「積むことは出来ると思いますよ。その重さと大きさで、一機に何発搭載できるかが分かります。艦艇からどのくらい離れたところから投下するのかは、まだ不明です。今回の動画は着水して船底で爆発するまでのものでしたので」(杉山空将補)
公開された情報では、拡張翼付きJDAMが高高度投下すると、射程150kmで空対艦ミサイルと同程度の射程となる。空対艦ミサイルで一発撃沈は不可能だが、クイックシンクは一発撃沈可能だ。
「台湾の東側に回って、海上封鎖を試みる中国海軍艦艇をクイックシンクで次々と沈めてしまえば、それができなくなる。この作戦は考え直さないといけませんね」(杉山空将補)
つまり、海戦の前に台湾のF16Vを全機地上か空中で撃墜しなければ、中国は勝てない。したがって中国の台湾侵攻は、第二次大戦で英独が繰り広げた「バトルオブブリテン」のような空中決戦から始まるのではないか。
「米国は陸軍を投入しなくても、海空軍で台湾の航空・海上優勢を獲ればいい。台湾侵攻しようとしても無駄でしょ、となるのではないでしょうか」(伊藤元海将)
米海空軍の航空戦力に守られた、クイックシンク搭載のF16Vが飛び回る。
「中国がいま一生懸命作っている空母は、クイックシンクの恰好のターゲットになります。そうすると、空母をつくる意味がなくなってしまうんですよ」(伊藤元海将)