出る幕ナシでも負け戦に挑むバイデン(民主党)。でも結局、裏にいるのは復活を狙うトランプ(共和党) 出る幕ナシでも負け戦に挑むバイデン(民主党)。でも結局、裏にいるのは復活を狙うトランプ(共和党)

来週に迫ったアメリカ中間選挙。政権交代はないため、日本での注目度はあまり高くないが、今後のアメリカの運命を決める重要な選挙だ。

それなのに、共和党からはヤバい候補者が出てたり同時開催の州知事選は移民送りつけ問題で揺れてたりとめちゃくちゃになっているみたい! そんなカオスな中間選挙の面白がり方を解説! ちなみに今回のキーワードも、結局「トランプ」です!

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■負けて当然の民主党。重要なのは「負け方」

アメリカ政治の今後を大きく左右する中間選挙(11月8日投開票)が、約1週間後に迫っている。

大統領任期4年の2年目の年に行なわれ、議会下院(435議席)の全議席と、上院(100議席)の約3分の1の改選に加えて、全米50州中36の州の知事選が同時に行なわれる今回の中間選挙。

その結果は、民主党バイデン政権の前半戦に対する評価を問う〝通信簿〟であると同時に、今から約2年後に迫った次の米大統領選での「ドナルド・トランプ復活」の可能性を占う上でも重要な意味を持つことになるという。

「とはいえ、すでにある程度、結果が見えちゃってますから、選挙としてはあまり面白くないんですよね」と語るのは、アメリカ政治、特に保守層の動きに詳しい政治アナリストの渡瀬裕哉氏だ。

「下院で共和党が大勝するのは確実視されてますし、接戦といわれる上院でも10月に入って共和党が大きく支持を伸ばしています。先日、私が話した共和党関係者も『この勢いなら、上院でも共和党が民主党を数議席上回れそう』と話していました。

これを共和党側の〝自信〟とみるか〝油断〟ととらえるかは微妙なところですが(笑)、いずれにせよ、共和党側がかなり優位な選挙戦を展開していることは間違いないでしょう」

しかし、これは意外なことではない。上智大学教授でアメリカ現代政治が専門の前嶋和弘氏はこう語る。

「そもそも、アメリカの中間選挙では大統領の政党、つまり政権与党が負けるものなんです。生活の不満は現政権にあると考えるのが当然ですし、中間選挙で緊張感を持たせるという意味もある。

第2次世界大戦後に行なわれた20回の中間選挙の結果を平均すると大統領の政党が下院で26議席、上院は4議席も減らしています。

上下両院で与党が勝利したのは、アメリカで共和党・民主党の2大政党制が生まれた1854年から数えても、1934年(ルーズベルト大統領)と、同時多発テロ直後の2002年(J・W・ブッシュ大統領)の2回だけ。

実はバイデン大統領は就任からの2年間でほぼすべての公約を実現しています。任期前半にこれほど多くの法案を通した大統領は珍しいのですが、それだけ頑張ってもやはり政権与党が中間選挙で勝つのは難しいのです」

前嶋氏は「注目すべきはその負け方」だと強調する。

「どこまで負けを抑え込めるかが重要で、下院は共和党の勝利が確実といわれているだけに、接戦といわれる上院選挙に注目すべきです」

《ジョージア州》

では、上院選で注目すべき対戦カードを見ていこう。ちなみに、すべてに共通するキーワードは「トランプ」だ!

まずは、南部のジョージア州。ここでトランプ前大統領の全面的な支援を受け、共和党の上院議員候補に選ばれたのは元プロアメリカンフットボール選手で、総合格闘家としても活躍したハーシェル・ウォーカー候補(60歳)だ。

「今回の選挙では『人工妊娠中絶』の是非が大きな争点のひとつになっていて、ウォーカー氏も選挙戦では保守的な共和党支持層に向けて『妊娠中絶反対』や『家族の価値を取り戻そう!』と熱心に訴えていたのですが......。

なんと、そのウォーカー氏自身が過去に交際相手を妊娠させ、小切手を渡して中絶を迫っていた事実や、複数の婚外子がいることが発覚したんです」(前嶋氏)

さらに離婚した元妻から「頭に銃を突きつけられ『脳みそをぶちまけてやる』と脅された」という告発まで......。

ウォーカー氏自身はこうした疑惑の一部を否定した上で、「当時は解離性同一障害(※いわゆる多重人格)だったので覚えていない」などと、最近、辞任に追い込まれた日本の某大臣もビックリの言い訳まで飛び出したが、さすがに支持率が低下し始めており、直近の世論調査では民主党現職のラファエル・ワーノック候補が55%とウォーカー氏(45%)を上回っている。

《オハイオ州》

続いて、中西部のオハイオ州。共和党の上院議員候補に選ばれたのは、トランプの支持者に多いとされる、アメリカの没落した白人労働者層の悲哀を描いた自伝的ベストセラー小説『ヒルビリー・エレジー』の著者、J・D・ヴァンス候補(38歳)。

「実はこのヴァンス氏、もともとは民主党の支持者だったんです」

そう語るのはアメリカ在住で米国の政治や社会に詳しい作家の冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)氏。

「日本でも『トランプ支持者の心情を描いた作品』みたいなイメージで話題になった『ヒルビリー・エレジー』ですが、作者のヴァンス氏にはそんな意図はなかったそう。ところが、あの本がそういう形で注目され、いつの間にか共和党の上院議員候補に担ぎ上げられちゃったのです。

自伝にも書かれているように、ご本人は貧しいヒルビリーの町から苦労と努力を重ね、かつては海兵隊員として身を尽くすなど、正義感も愛国心も強く、以前はトランプのことを批判していました。

しかし、今回の選挙ではトランプの応援が決め手となってオハイオ州の予備選を制し、彼自身もトランプのことを『自分の生涯で最高の大統領だ!』などと持ち上げて候補に選ばれたのですが、その裏では葛藤もあったのか、一時は選挙活動をやめそうになるなど悩んでもいたようです。

共和党の中には典型的なトランプ主義者もいれば、彼のように、内心トランプのことを良く思っていなくても『選挙で民主党に勝つにはトランプ支持者の票も必要だ』と現実的に割り切っている人たちも少なくないのです」

真面目に努力を重ね、貧しいヒルビリーから抜け出したのに、書いた本のせいで嫌っていたトランプに担ぎ上げられ、上院議員候補にまでなって、もう取り返しがつかなくなっちゃってる彼の哀歌(エレジー)に思いをはせると、なんか気の毒な気もしてくる......。

一方、民主党の対立候補、ティム・ライアン氏(49歳)はヴァンス氏を「過激なトランプ支持者」と批判しつつ、自らはあえてリベラル色を抑えて保守に寄って無党派層にアピール。両候補者ともどっちつかずな選挙区で、勝ちを手にするのはどっち?

《コロラド州》

ちなみに、各州の候補は、それぞれの党が党内で行なう「予備選挙」で選ばれるが、前出の渡瀬氏は「共和党の支持層では今もトランプの人気が高く、各州の候補選びでもトランプ系の候補が勝つケースが圧倒的に多い」と話す。

しかし、いわゆる〝接戦州〟では、無党派層の支持が勝敗を左右するため、ともすれば過激な主張をしがちなトランプ系の候補だと、大事な無党派層の票を逃してしまう可能性があるのだという。

「そうした州では、むしろ非トランプ系の共和党候補が出たほうが選挙で勝てる可能性は高い。

例えば、コロラド州の共和党候補者を決める予備選では『前回の大統領選結果は盗まれたモノで、本当の大統領はトランプだ!』と主張していたロン・ハンクス候補が、共和党内の反トランプ派で、トランプの不正選挙批判を否定したジョー・オディア候補に敗れました。

着目すべきは、そのオディア候補が、圧倒的に民主党が有利だといわれるコロラド州で民主党現職のマイケル・ベネット候補といい勝負を繰り広げていること。ここを共和党が取れば、民主党には大きな痛手になるはずです」(渡瀬氏)

反トランプ派の勝利は、共和党のトランプ依存からの脱却の契機になるかも?

■「移民バス問題」に揺れるNY州知事選

一方、州知事選挙で注目したいのは、国境からの不法移民問題を抱える南部のフロリダ州&テキサス州と、伝統的にリベラル派で人権を重視するニューヨーク州だ。

「共和党の有力者で、トランプの後継者とも名高いフロリダ州のロン・デサンティス知事と、トランプの腹心のひとりであるテキサス州のグレッグ・アボット知事がバイデン政権の移民受け入れ政策への不満を訴えるために、不法移民をバスや飛行機に乗せ、ニューヨークや首都ワシントンなどに大量に送り込むという、かなり過激な抗議行動を展開しています。

これに対し、当初は人権を重視し『われわれは最大7万5000人の移民を受け入れる』と豪語していたニューヨーク市のアダムス市長でしたが、南部から続々とバスで送り込まれる移民の数が膨大になり、ついにはニューヨーク市で非常事態宣言が出るまで追い込まれてしまいました」(冷泉氏)

そのあおりをモロに受けたのが民主党のキャシー・ホウクルニューヨーク州知事で、治安の悪化も相まってここにきて支持率が大きく低下。

逆に〝移民バス〟を送りつけた側のフロリダ州やテキサス州では、このアピールが成功し、州知事選での共和党候補の支持率が上昇。無党派層も共和党になびき、中間選挙全体でも共和党に対する追い風となっているようだ。

■トランプ復活を占うトランプ派の戦い

では、今回の中間選挙はアメリカや世界にどのような影響を与えるのだろうか?

「下院で共和党が多数となるのはほぼ確実で、バイデン政権後半は民主党の望むような法案が通らない『レームダック状態』となることは間違いありません。だからこそ、民主党が上院で多数派を維持できるのかが重要です。

現在の上院の議席数は50対50のイーブンですが、与党が不利とみられる中間選挙で、今回の改選分の3分の1が入れ替わった段階でも民主党が上院の多数を占められていれば、民主党としては善戦したといえるでしょう。

一方、共和党が接戦州を制して、上院でも多数を占めた場合、バイデン政権の後半は完全に手足を縛られることになり、地球温暖化対策などの環境問題などは後回しで、インフレ対策やエネルギー問題が重視されます。バイデン氏としては、残りの2年間は大統領権限が強い外交面で存在をアピールするしかなくなる。

ただし、民主党も共和党も今のところ、ウクライナ戦争への対応や対中国への警戒感などの外交面で大きな違いはないので、その意味で言えば、日米関係にも大きな変化はなく、むしろ強化される方向だと思います」(前嶋氏)

また、前出の冷泉氏は両党の分断の可能性を指摘する。

「民主党も共和党も、それぞれ内部に亀裂を抱えながら、今は選挙のためにまとまっていますが、選挙後にはおのおの分断が進む可能性もある。特に、現在79歳と高齢のバイデン大統領を擁立する民主党では、世代交代の議論が活発化するでしょう。

一方、共和党では、トランプ派の候補や彼が応援した候補が勝てばトランプの影響力の強さが証明され、彼自身が次の大統領選に立候補する可能性も出てくる。

逆に負ければ、フロリダのデサンティス知事のような『次世代のトランプ』への世代交代が進むかも。そういう意味では、共和党の今後の方向性を決める選挙でもあるのです」

日本を含む世界の未来は、再び「トランプ劇場」に巻き込まれるのか。来週の中間選挙は接戦州に注目しよう!