昨年の11月26日に世界を驚愕させるような報道が駆け巡った。報じたのは英誌『スペクテーター』。かつて『ニューズウィーク』誌のモスクワ支局長を務めた元記者が寄稿したその記事によれば、米国がポーランドのミグ29戦闘機30機をウクライナに供与すれば最新のF16戦闘機を与える、との取り決めが突如中止となり、その裏には米中の秘密合意があったという。
ミグ29供与の件は、本ニュースサイトでも昨年3月に伝えた。(ウクライナへの戦闘機供与が引き起こす、第三次世界大戦の可能性とは? )
この記事で、航空自衛隊302飛行隊隊長で外務省に勤務経験もある元空将補の杉山政樹氏は、「世界は全面核戦争の危機に瀕し続けることとなる。だから、この作戦は最初から止めた方がいいと思います」と発言。そして、その供与は寸前になって実際に中止された。
中国の裏での動きとは、米国がポーランドのミグ29戦闘機のウクライナへの提供を止めるならば、中国人民解放軍はロシア軍とコンタクトをとり、「核使用を止めさせる」心づもりがある、との打診が米国にあったと言うのだ。
前出の杉山元空将補は、この線はあり得ると言う。
「中国はウクライナ戦争に関しては当時、中立の立場で冷静に米ロを見て、行司役に立っていたと思います。そこでまず米中の大国同士の話の中で、『核戦争になるので戦闘機の供与はやめた方がいい。その代わり、ロシア軍がウクライナで核兵器を使わないようとりまとめる事はできる』と助言したのでしょう。
国軍同士の間では冷静にクールなは話は出来ます。だから、中国は絡んでいると思います。バイデン米大統領の周辺もミグ29の供与を止められなくなっていた時に、やっと中国が出てきて止められた、と言うレベルの話です」(杉山元空将補)
ただ果たしてミグ29戦闘機30機にそんなに威力があるのだろうか?
「戦略兵器になり得る航空戦力であるウクライナ空軍のミグ29、30機。これをロシア軍から見ると、自国領内に攻めて来られる脅威があります。
次にミグ29はロシア空軍の戦略爆撃機を撃墜可能で、その爆撃機から撃った核兵器搭載巡航ミサイルならば撃ち落せる。それは、核大国を自称しているロシアの戦術核が封じられる事を意味します。
そのカードが無くなるとロシアは完全に追い詰められた鼠になり、核兵器を使う可能性が高まる。だから、ミグをウクライナに与えると、核戦争のエスカレーションラダーを上がっていく事になるのです」(杉山元空将補)
「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」。ロシアが核兵器をウクライナ戦争で使えば、世界は第三次世界大戦になっていたはずだ。
「この件ではやはり中国は偉かったと思います。核戦争になる第三次世界大戦を、結果的にあの時点で防げたのですから」(杉山元空将補)
そして3月上旬、ウクライナ戦争はウクライナ国内だけの局地戦争でやる事が、中国の仲介により米ロ間で暗黙の了解となり、戦争は続いていた。
そんな矢先の昨年12月5日、ロシア国内の2か所の空軍基地が無人機の攻撃を受け、ロシア空軍戦の戦略爆撃機・Tu95が2機損傷を受けた。ロシア軍の内規によれば、戦略爆撃機が攻撃を受けた場合、核兵器で反撃してよい事になっている。
そのロシアへの攻撃に使われたのが、ウクライナ軍が改造して蘇らせた、旧ソ連が開発した偵察用無人機・Tu141。これに爆薬を搭載させて1,000km飛び自爆させたのだ。
「自立航法装置・INSを付けた状態で70年代の機体を精密誘導するのは無理なので、最終的な誘導はロシア空軍基地近くにいたウクライナ軍の特殊部隊がしたと思います。米国はこの攻撃にはノータッチだと強調していました」(杉山元空将補)
いよいよ核戦争の梯子をロシアは上がり始めるのだろうか。
「それはないと思います。ロシア軍はウクライナ国内の発電施設を、無人機と巡航ミサイルで徹底的に叩いています。そに攻撃に核兵器は必要ありません。今、ウクライナとロシアは報復攻撃をやりあっている状況なのです」(杉山元空将補)
昨年暮れの12月21日に米国を電撃訪問したウクライナのゼレンスキー大統領は、バイデン米大統領からパトリオット地対空ミサイルを供与された。
「1基だけです。沢山与えるとロシアの核ミサイルを無力化することになるので、再び第三次世界大戦の危機になるからです。
これで3月は良かったのですが、これまで中国はゼロコロナ対策でストップさせた反動で、国内で凄まじいコロナ渦になっています。中国政府は国内をあまりにもコロナ封じで締め付けすぎて、14億人の人民が食えなくなり始めている。こうなった中国はかなり厳しいです。
これから中国は内政に追われ、米ロの間を取り持っている場合ではなくなる。現在は、昨年3月に核戦争を止めた"落し所"が無くなっている状況なのです」(杉山元空将補)
世界は再び、全面核戦争の第三次世界大戦の危機中にある。