昨年11月のアメリカ中間選挙で負け同然の辛勝に終わった共和党。その元凶とされている男、トランプが大統領選へまさかの立候補を宣言! またトランプが帰ってくるのか!?と思いきや、同じ共和党のホープでフロリダ州の人気知事のデサンティスが立ちはだかるという噂が......。って、こいつもけっこうヤバいやつなの?
■トランプのせいでもう始まっちゃってる
アメリカ中間選挙が終わったばかりで、「次の大統領選挙って2024年じゃないの?」と思う人も多いかもしれない。
しかし、「民主、共和両党の大統領候補を選ぶ予備選に向けた動きは、大統領選挙が行なわれる前年の春~夏頃に本格化するというのが一般的です」と語るのは、上智大学教授でアメリカ現代政治が専門の前嶋和弘氏だ。
「春頃に立候補することを表明し、夏にはテレビで討論して、お互いに政策をぶつけ合います。しかし、今回は前大統領のトランプが昨年11月にフライング気味で立候補を表明しました。これを受けて、現職のバイデン大統領も年明け早々、正式に出馬表明するのではないか、といわれており、通常よりさらに早いスタートになっているのです」
とはいえ、昨年11月の中間選挙ではトランプが推した候補の落選が目立ち、共和党内でも「トランプの賞味期限切れ」が表面化したといわれていたはず。
それに、現在80歳とすでに高齢のバイデンも、大統領選が行なわれる年には82歳。当選したら、その次の大統領選が行なわれる年には86歳(!)になっている計算だ。2020年の大統領選とまるで代わり映えしない、トランプ(76歳)とバイデンのおじいちゃん対決じゃ、面白くなさそうだ。
そんな対決を、一気に盛り上がるレースにする可能性がある男がいる。現フロリダ州知事のロン・デサンティスだ。
「44歳の若いデサンティスが立候補するとなれば、民主党側も『高齢のバイデンでは厳しいか』というコトで、現副大統領のカマラ・ハリスや現カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム、現政権で運輸長官を務めるピート・ブティジェッジなどを検討し始めます。
この世代交代を好機と見た共和党側でも、キリスト教福音派の支持が厚い前副大統領のマイク・ペンスや、元国連大使のニッキー・ヘイリーなど、ほかの候補が次々と出馬する可能性が高いんです。
さらに、それに対抗して民主党では現在81歳と、バイデンより高齢のバーニー・サンダースや、その愛(まな)弟子で弱冠33歳のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員なども参戦してくる可能性もあり、一気に混戦模様になりそうなのです」
しかし、デサンティスはまだ手を挙げていない。
「昨年11月の中間選挙以降、共和党内でデサンティス待望論が盛り上がっているのは事実ですが、デサンティス自身は現時点で態度を明らかにしていません。その理由は、おそらくトランプです。
トランプは若くて強力なライバルの出馬を止めようと『私はデサンティスの妻以外で、彼の不都合な秘密を最もよく知る人間だ』と、半ば脅迫まがいの言葉で牽制(けんせい)。
実際にトランプがどんな秘密を握っているのかはわかりませんが、彼の言う『秘密』が事実か否かにかかわらず、自分の敵を攻撃してダメージを与えるというのが彼の常套(じょうとう)手段ですから、デサンティスとしても警戒せざるをえないでしょう」
ちなみに、現フロリダ州知事のデサンティスが大統領選に向けた資金集めを始めるには、大統領選への出馬を宣言する必要があり、トランプが早々と出馬宣言した理由のひとつもおそらくは、デサンティスより先に大統領選の資金集めを始めるためだという。
先日も「アメリカにはスーパーヒーローが必要だ」と、トランプがスーパーマンや宇宙飛行士など、ヒーローの姿に扮(ふん)したデジタルトレーディングカードを1枚99ドル(約1万3600円)で発売して、4万5000枚が即時完売した。トランプに売り上げが入るのかは不明だが、アピールに余念がない様子に変わりはない。
■人気のために演じているのかも?
ちなみに、トランプに対抗する共和党の有力候補として、次の大統領選の鍵を握ることになりそうなデサンティスとはどんな人物なのだろうか? アメリカ在住の作家、冷泉彰彦氏はこう語る。
「2019年からフロリダ州知事を務め"若いトランプ"とも称されるデサンティスは、コロナ禍で『学校や企業、レストランなどがマスクの着用を義務づけるのを禁止』という"コロナ対策を対策する"政策を打ち出したり、メキシコ国境を越えて不法に入国した大量の移民を強制的にバスに乗せてニューヨークやワシントンに送りつけたりと、トランプ顔負けの"ポピュリズム的トンデモ政策"が目立つ若手政治家です」
しかし、こういった政策が保守層にウケており、絶大な支持を集めているという。
「彼はLGBTQなど、性的マイノリティの多様性尊重にも否定的で、フロリダ州の小学校や幼稚園などの教育機関で性的指向や性自認について議論することを禁じた、通称『ドント・セイ・ゲイ(ゲイと言ってはいけない)法』を制定。
これを批判したフロリダ州にあるディズニーワールドとも対立。一方的に優遇税制と特別自治権を打ち切るなど、かなり強引な手法も目につきます」
うーん、ある意味、トランプ以上にヤバそうだが、一方で"賢いトランプ"とも呼ばれるデサンティスは、名門のイエール大学を卒業後、ハーバード大学の法科大学院で学び、海軍特殊部隊の隊員としてイラク戦争にも参加、勲章も受けるなど、輝かしい経歴の持ち主で、一連の"トンデモ政策"も、人気獲得のためにトランプ的なポピュリストを演じている可能性もあると冷泉氏は指摘する。
「今年2月には『自由を選択する勇気』と題した自伝を出版する予定ですが、これもおそらく大統領選への出馬を意識した動きでしょう。
すぐに感情がむき出しになるトランプと違い、デサンティスは冷静で、したたかな面を持ってるので、同じく1980年代に"極右のトンデモ政治家"と思われていたロナルド・レーガンが、大統領に就任してから激変したように、デサンティスも実際に大統領になれば大化けするかもしれません」
■予備選に負けてもトランプは出馬する!?
それでは"若いトランプ"のデサンティスと"元祖トランプ"が共和党の予備選で対決したらどうなるのか?
昨年の中間選挙以降、トランプの影響力は低下気味なため、現状ではデサンティス有利とみる声が多いが、共和党支持者の中には、熱烈なトランプ信者が依然1割程度いるといわれており、「その存在は無視できない」と前出の冷泉氏は語る。
「しかも、3年前の大統領選がそうだったように、仮に共和党の予備選でデサンティスが勝利したとしても、敗北という選挙結果をトランプとその支持者たちが素直に受け入れるかは別問題。
仮に予備選でデサンティスに敗れたトランプが共和党を離れ、『第3の候補』として大統領選に打って出るようなことになれば、事実上の党分裂で共倒れという、共和党にとって最悪のシナリオになりかねません」
トランプという爆弾を抱えてしまった共和党がどういう動きを取るのか。今回の大統領選は予備選挙からも目が離せない。
「アメリカの大統領選は4年に1度公開される娯楽映画みたいなモノで、候補者の中で誰が国民を惹(ひ)きつける物語の主人公になれるのかが鍵になります。
役者として見れば、トンデモ系ポピュリスト・エンタテイナーのトランプのほうが一枚上手ですが、一方のデサンティスはポピュリスト的側面だけでなく、『若き新人の成長物語』という、これまたアメリカ人の好きなストーリーを持っている。アメリカはどちらの物語が見たいのか。それが命運を分けるでしょう」(前嶋氏)
見どころは、"元祖トランプ"と"若いトランプ"のふたりが繰り広げるポピュリズムパフォーマンス合戦だ!