去る1月14日の神奈川新聞の報道によれば、横浜港のアメリカ陸軍ノースドックに今春、米陸軍の小型揚陸艇部隊(兵力280人、艇数13隻)が新たに配備されるようだ。この部隊配備の意味について、同基地の前に住むフォトジャーナリストの柿谷哲也氏に話を聞いた。
「朝鮮半島有事の際には、両国はお互いに港湾施設を爆撃します。その後、物資を揚陸する際にこの部隊を使います。日本周辺に関していえば、米陸軍は北朝鮮との戦争だけではなく、中国の台湾侵攻も当然視野に入れています。
横浜港にあるアメリカ陸軍のノースドックは、ヨーロッパや中東など世界に5カ所あるアメリカ陸軍の事前集積部隊のうち、インド・太平洋軍が管轄する事前集積ストック4(APS-4)の舟艇を配備しています。
インド・太平洋軍の管轄するエリアは太平洋からインド洋にかけての地域ですが、横浜のAPS-4の舟艇は、主に朝鮮半島有事の際に破壊された港湾に代わって補給拠点となる、砂浜の海岸に車両や物資を陸揚げするために準備されてきました。
これまでは年に一度、カリフォルニア州の部隊が横浜に保管してある舟艇の整備や訓練のために来日してましたが、今後は横浜に常駐することとなり、訓練の回数を増やすことになると思われます。
訓練を増加させる理由は、本来の目的である朝鮮半島に加え、沖縄本島を含む日本の島嶼や台湾などまだ含め、有事における陸軍装備の補給を念頭に置いているものなのです」
加えて、朝鮮半島有事・台湾有事の各種演習に参加した経験を持つ元米陸軍大尉・飯柴智亮氏はこう解説する。
「この小型揚陸艇部隊はLCU(Landing Craft Utility)と呼ばれるもので、これは"臨機応援な使い方が出来る"という意味です。陸軍LCUは大きな湖、河川、近距離の海で車両の水上輸送を担当します。ただ、長距離輸送、悪天候下の輸送は不向きです」
一体どんな局面でこの部隊が投入されるのだろうか。
「戦闘が行われている最中、いわゆる制空権・制海権が確保されていない戦火の中ではLCUは動きません。ただの的になってしまいますから。敵の攻撃で港湾施設が破壊された場合、戦況が落ち着いた後、その施設の修復を担当する工兵部隊の車両と人員を輸送する任務を遂行します」(飯柴氏)
以前から朝鮮有事だけに対応しているのではないらしい。
「先島諸島を舞台にした机上演習では、台湾有事に米国籍民間人を台湾から宮古島に避難させる際に、このLCUを手配する任務を担当しました。
演習ストーリーでは、台湾から宮古島に米国籍民間人を避難させる要請に対し、日本政府が中国に気を遣い難色を示す、と言う非常に実践的なシナリオでした」(飯柴氏)
この部隊の最大の働きは、港湾施設が徹底的に破壊された戦後にある。何もない砂浜沖に港を作る能力を持っている。
「その上陸の流れは、次の通りです。
①ビーチの沖合に戦車や車両、物資を満載した事前集積船が到着し錨泊
②横浜に保管してある艀(はしけ)を繋げて長い浮桟橋を作り、船とビーチに桟橋を作る
③ 横浜に保管してあるLCU2000型揚陸艇、平タグ、LCMなどを浮桟橋に接岸させ、事 前集積船から車両や物資をこれらの舟艇に載せる
④ビーチ側の艀に運ぶ
こうして、あっと言う間に大型船から陸揚げできる港湾機能がビーチに完成します」(柿谷氏)
また、橋頭堡から大量の補給物資や燃料基地の拠点とさせることも可能だ。
「これくらいの規模の上陸演習に参加した事がありますが、米陸軍はかなり手慣れていますよ」(飯柴氏)
『週刊プレイボーイ』の本年6号で掲載された特集『台湾有事ウォーゲーム「自衛隊大損害シナリオ」は現実となるのか?』にてとり上げた米有名シンクタンクのシミュレーションによれば、中国の侵攻により台湾空海軍は全滅し、港湾施設は破壊される。その際には、この横浜に展開している米陸軍小型揚陸艇部隊が横浜ノースドックに事前集積されている資材を使い、台湾沿岸部に揚陸施設を作る必要性が出てくることが予想される。
米陸軍はその目的のために横浜に人員装備を事前配置しているのだろうか?
「その場合、揚陸施設を作るには、米陸軍の政治的な判断が必要となります」(飯柴氏)
ではその時、自衛隊の出番はあるのか。
「台湾防衛は日本の防衛ですから、積極的に参加すべきと自分は考えます。しかし、台湾まで上陸するようなことはないと思います。LCUの燃料補給はじめ、米軍がスムーズに動けるように作戦の支援を行って欲しいと言うのが個人的な意見です」(飯柴氏)