百里基地のエプロンに並ぶ戦闘機。右からインド空軍Su30MKI、空自飛行教導隊F15DJ、空自第三飛行隊F2A。写真をよく見ると分かるが、Su30のエンジン後方ノズルは、左右で下方への角度が異なり上下に自由に動く。これで凄まじい機動飛行が可能となる百里基地のエプロンに並ぶ戦闘機。右からインド空軍Su30MKI、空自飛行教導隊F15DJ、空自第三飛行隊F2A。写真をよく見ると分かるが、Su30のエンジン後方ノズルは、左右で下方への角度が異なり上下に自由に動く。これで凄まじい機動飛行が可能となる
1月24日の茨城新聞の報道によれば、航空自衛隊(以下、空自)とインド空軍の初めての戦闘機共同訓練に関して、茨城県小美玉市にある空自百里基地で双方の部隊の司令官が記者会見し、中部航空方面隊司令官の坂本浩一空将が「対戦闘機訓練や対迎撃訓練はほぼ計画通りに進捗している」と説明する一方、インド空軍西部航空コマンド司令官のパンカジ・モーハン・シンハ中将はこの日、空自のF2戦闘機に同乗し、「操縦士の素晴らしい飛行技術を見ることができた」と語ったという。

その現場に筆者と、カメラマン・柿谷哲也氏がいたのだ。

ロシア原産のインド空軍機「Su30MKI」と、原型は米国製F16だが両翼胴体は日本が設計・製造した空自「F2」、そして米国設計の空自飛行教導隊「F15DJ戦闘機」の3機が並んだ風景は壮観だった。

F2はF16を元に作られた。Su30が大型の機体であることが分かるF2はF16を元に作られた。Su30が大型の機体であることが分かる

Su30MKIは複座(座席がふたつあること)戦闘機。西側ならばFA18スーパーホーネット、F15Eストライクイーグルと同等で、敵地への侵入攻撃を主任務とする。Su30の2つのエンジン排気口ノズルは上下に動き、『コブラ』と呼ばれる急速垂直上昇をして、追随する敵戦闘機を前に飛び出さすなど、F22ラプター並みの凄まじい機動飛行が可能である。
 
空自のF15、F2とSu30にそれぞれ同じ技量を持ったパイロット同士が搭乗し、一対一で空戦したら、空自機はまず勝てない。中国空海軍とロシア空海軍は、このSu30を保有している。すなわち、その勝てない相手が来襲する可能性はゼロではない。

この日、インド空軍西部航空コマンド司令官、パンカジ・モーハン・シンハ中将はF2Bの体験搭乗をしたこの日、インド空軍西部航空コマンド司令官、パンカジ・モーハン・シンハ中将はF2Bの体験搭乗をした

この日、インド空軍Su30の訓練相手は空自第三飛行隊のF2だった。しかしこの訓練の場に、空自戦闘機部隊に空戦を教え導く最強の「飛行教導隊」が4機来ていたのだ。その謎が解けなかったので、元教導隊長で航空支援集団司令官の山田真史元空将に話を聞いてみた。

「教導隊は空自戦闘機部隊に対する敵役を演じ、彼らの戦闘能力を向上させるのが主たる任務です。敵役の演じ方、戦法を研究する立場にあるので、戦技に関する観察、分析など様々な能力に長けています。

日本は国策として、仮想敵機は持っていません。教導隊は色々な敵機役をやりますが、Su30は未知であり、知らない事は一番の脅威です。その分からない敵機と同じ機種であるインド空軍のSu30と訓練をすれば、戦い方のオプション、引き出しが増えます」

シンハ中将は、F2パイロットの操縦技術に感嘆していたシンハ中将は、F2パイロットの操縦技術に感嘆していた

冒頭でも書いたように、記者会見では中部航空方面隊司令官の坂本浩一空将は「対戦闘機訓練や対迎撃訓練はほぼ計画通りに進捗している」と発言していた。

「対戦闘機訓練言えば、ACM(Air Combat Manoeuvring 空中戦闘機動)の事ですから、恐らくドッグファイトの基本はやっているんじゃないですかね。F2の後ろにSu30がついて攻防をはっきりさせて始める場合もあれば、相対して始める場合もあります。

迎撃訓練はいわゆる「要撃戦闘訓練」で、たとえばインド空軍のSu30が訓練空域に侵入してきて、それを空自のF2が迎撃する。これは相手の戦法を読みながら機動をします。教導隊パイロットが複座のF2Bの後席に乗っていたかもしれません」(山田元空将)

西側戦闘機で大型と言われる手前のF15よりSu30は大きい。週プレNEWSはインド空軍Su30と空自F2との共同訓練になぜ飛行教導隊が来ていたのか、その謎に迫った西側戦闘機で大型と言われる手前のF15よりSu30は大きい。週プレNEWSはインド空軍Su30と空自F2との共同訓練になぜ飛行教導隊が来ていたのか、その謎に迫った

訓練終了後、両者は下りてきて「デブリ」と呼ばれる反省会を開く。そこでは、お互いに相手機をどう落としたか、両者の機の速度、相対距離、どこでどのようにミサイルを発射したのかなどを図面(これを機動図と呼ぶ)に描き、説明する。今回もそれを日本とインドでやった可能性は高い。

「そこで両者の飛び方の機動図を描けば、インド空軍Su30の戦法が見えてきます。『えっ、こんな所でミサイルを撃ったの?』とか、『ここで撃てるの?』と言うだけで、彼らのセンサーであるレーダー、搭載しているミサイルの能力が分かってきます」(山田元空将)

その時教導隊のパイロットが同席していれば、色々な事が分かってくる。空自教導隊は中国空海軍と、本家のロシア空海軍で運用しているSu30の敵機役を演じなければならない。そのリアリティは上がるのだろうか?

「教導隊は事前に彼らが想像していたSu30の戦法と照合して、『あぁ、合致しているね』とか『ちょっと考え方を変えなきゃいけないね』というのを今回持ち帰っているんじゃないですか。

今回の合同訓練で得た情報を集約して、今後、教導に行った際の訓練でいろいろなシミュレーションをしてくるのは十分に考えられますね」(山田元空将)

2月以降、教導訓練を受ける空自飛行隊は、凄まじくリアリティのあるSu30の飛び方を会得した教導隊と訓練する。それは有事の際、空自が日本の空を守るのに必ず役に立つ戦闘テクなのである。

それを学ぶ機会を与えてくれたインドは、真の日本の友好国かもしれない。