2月7日にロイターは、ウクライナ東部でロシア軍兵士が24時間以内に1030人戦死、2日間で計1900人戦死したと発表。2月9日の共同通信の報道では、米シンクタンクの戦争研究所の分析によれば、ロシア軍は東部地域に自動車化狙撃師団、戦車師団、空挺師団の3師団を投入したとのことで、激戦が確かに始まっている。
この戦況を受け、中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)はこう話す。
「師団規模になっているのは、突撃歩兵チームが多く戦闘に参加しているのではないかと考えられます。ウクライナ軍(以下、ウ軍)はロシア軍突撃歩兵の、損害を顧みず何派にも及ぶ激しい攻撃に耐えなければなりません」
2月9日の産経新聞の報道によると、独の戦車・レオパルト2の一個大隊30両が3月に、同じく2月9日のCNNの報道によれば、英の戦車・チャレンジャー2も3月に第一陣が到着。それまで、ウ軍の最前線は脆弱な状況だ。
しかし、わずかな光明も見える。1月31日のロイターの報道によると、米国は20億ドル強の軍事支援を用意しているが、そこに通常は射程距離80kmしかないハイマース(高機動ロケット砲システム)用に、射程距離150kmの地上発射型小直径爆弾(GLSDB)が含まれているようだ。
「ハイマース150(この記事ではGLSDB弾使用の射程150kmの兵器をこう呼びます)の懸案は弾薬の問題だけなので、すぐに使用が可能。迅速な戦力の発揮が期待できます。激戦の東部にいま、どうしても欲しい兵器です」(二見元陸将補)
報道によるとロシア軍は、最前線後方の砲兵隊弾薬備蓄、兵士駐屯地を、ハイマース80(既に供与された射程80kmの兵器をこう呼びます)の射程外に配備している。
「ロシア軍はこの戦法で砲兵火力がずっと砲撃し続けることが可能で、最前線の歩兵部隊がやられては新しい部隊を投入してずっと攻め続けられる。これでウ軍防御部隊が疲弊し、防御陣地が崩れていっています。
しかしハイマース150があれば、80km以遠にある弾薬集積場、歩兵駐屯地を狙って潰せるのです」(二見元陸将補)
では、どう潰していくのだろうか?
「砲兵部隊の持つ一日分の弾薬を<段列>と言いますが、ここからハイマース150で破壊していきます。
次に、現在のロシア軍の凄まじい砲撃量から推定すると、80km以遠の弾薬集積所の広場には、弾薬が野積みになっていることが予想されます。それをハイマース150で破壊していきます。
その後方には、列車に載せて輸送してきた弾薬を積み下ろしする弾薬集積所と弾薬庫があります。そこもハイマース150で撃ち抜くのです」(二見元陸将補)
公開された情報によるとGLSDB弾頭は93kgで、厚さ1.8mの鉄筋コンクリートをも貫通可能。弾薬庫でも余裕で破壊できる。
「ロシア軍が兵站基地を最前線から150km以遠に設置すると仮定した場合、輸送車両の平均速度を毎時30kmとすると往復で10時間はかかります。これがさらに200kmよりも遠くなると、往復で13時間となります。
補給は『一夜行程』と呼ばれ夜にやりますから、車両を増加させ昼間の輸送を行うか、輸送量を低減して補給をしなければならない状態になります。弾薬補給を制限されるということは、攻撃衝力の低下を意味します。凄まじい砲撃は影をひそめるでしょう」(二見元陸将補)
残るは最前線で対峙する、塹壕にいるロシア軍の突撃歩兵チームをどうするかだ。
「M777 155mm榴弾砲の出番です。まず、短延期信管を使います。この砲弾はぐっと地面に潜ってから爆発しますから、ロシア兵は溜まらず塹壕から出ます。次に、上空で爆発する曳下射撃と着発の黄燐発煙弾を混合して射撃を行います。これは一例ですが、このような射撃によって歩兵を撃破します」(二見元陸将補)
ここでウ軍に戦車があれば、機甲師団が最前線を突破し、塹壕地帯を蹂躙可能だ。
「夏以降にならなければ戦車と装甲車が十分に揃わないので、砲兵とドローンの活躍に期待することになりそうです。ここが踏ん張りどころとなるでしょう」(二見元陸将補)
そのハイマース150だが、最前線に届いたという報道はまだない。今、ウ軍は持ち堪えるしかない。
「ハイマース150が来れば主力は東部、1/4は南部に配備。首都・キーウが危うくなれば、東部のハイマース150を機動します。首都防衛戦では地形縦深が無いので、迷わずベラルーシ領のロシア軍策源地をハイマース150で叩き潰します。ベラルーシ軍に対しては『あなたたちではなく、ロシア軍に攻撃しています』というロジックを説明します。F16戦闘機の供与がなくても、ウ軍にとってハイマース150があれば大分助かるのです」(二見元陸将補)
だからロシア軍は、ウ軍が英独戦車を使う前に、雌雄を決しようとしているのだ。