昨年末に日本政府が「新安保3文書」を策定するのに先立ち、防衛省が新たな無人機の導入を検討しているとの報道が次々と流れた。その目的は、無人機大国・中国に対抗できる「無人機部隊」をつくること。いったいどんな戦力が必要なのか? どんな戦いが予想されるのか? 専門家の解説を基に緊急シミュレーションを行なった!
■想定は台湾有事。尖閣を奪還せよ
昨年12月に日本政府が決定した新安保3文書では、「無人アセット防衛能力」の強化がうたわれている。
その第1弾として防衛省は2023年度に、ウクライナの戦場で大活躍しているアメリカ製特攻自爆ドローンのスイッチブレードや、対戦車攻撃を得意とするトルコ製のバイラクタルTB2、さらにイスラエル製の対レーダードローン・ハロップなどを試験導入。25年度以降に攻撃型無人機を数百機配備する予定だ。
自衛隊が無人機戦力の拡大を急いでいるのは、言うまでもなく無人機大国・中国の存在ゆえだ。海上自衛隊潜水艦はやしお元艦長、元第二潜水隊司令の金沢工業大学虎ノ門大学院教授・伊藤俊幸氏(元海将)はこう語る。
「中国軍の無人機に対して自衛隊に対抗する戦力がないことを、日本は今まで見て見ぬふりをしてきましたが、ウクライナの戦場でもあれだけ無人機が活躍している。もし5年後に台湾有事が発生したら、中国は当然、無人機を大量に投入してくるでしょう。そこで今回、ようやくまとまった予算がついた形です」
特に問題となるのが、有人戦闘機の活動空域よりも低い高度の空域だ。元航空自衛隊302飛行隊隊長の杉山政樹氏(元空将補)が言う。
「日米の航空戦力は、東シナ海における中国空軍の有人機との戦いには勝てます。また、空自がすでに運用している無人偵察機RQ-4グローバルホークや、海上保安庁が運用し海自に偵察情報を提供するMQ-9Bシーガーディアンも、米軍が全世界でその能力を証明しています。
しかし問題は、有人戦闘機や大型無人偵察機の活動空域より低高度の、中小型無人機が地上戦力と連携しながら低速度で行動する空域です。ウクライナはこの空域を優位に活用し戦果を収めてきましたが、沖縄周辺の空域では、中国軍の多数の小型ドローンによる"飽和攻撃"に対して現状の日本は無力なのです」
今回は陸・海・空自衛隊「無人機部隊」の作戦行動を理解するために、以下のような状況を想定する。
●202X年、中国軍が台湾へ侵攻を開始。
●中国軍の大量の各種ミサイルによる先制攻撃で破壊された沖縄の日米航空戦力の再配備を防ぐために、中国は尖閣(せんかく)諸島・魚釣島(うおつりじま)を占拠し、ロシア製の最新鋭対空ミサイル「S-500」の配置をもくろむ。
●米軍は台湾防衛に戦力を投射。日本には魚釣島を奪還し、S-500の設置を防ぐことが求められた。
沖縄・嘉手納(かでな)の在日米空軍は台湾防衛の中心戦力だ。尖閣にS-500が設置されてその活動が抑え込まれれば、戦況は一気に台湾陥落へと傾きかねない。
なお、こうしたケースでは新安保3文書により新たに設置される予定の統合司令官が、陸・海・空自衛隊に出動命令を下す。自衛隊の無人機部隊は、中国軍をどうやって尖閣から撃退するのか? 専門家による予想・提言を基にシミュレーションしていこう。
■ステップ①敵部隊の上陸を阻害
近年、尖閣周辺では中国海警局の公船が常時4隻活動している。海警は日本でいう海保に当たる機関だが、軍の下部組織でもあり、大型のヘリ搭載船に76㎜速射砲を搭載するなど強力に武装している。
海保は必ず数隻の巡視船を伴走させ、お互いに「退去せよ」とやり合っている。......と、ここまではすっかり日常になってしまった光景だ。
しかし、その日は違った。
中国軍の台湾侵攻が開始され、無数の弾道ミサイルと巡航ミサイルが台湾と沖縄に向けて発射された瞬間、海警船のヘリ搭載庫から多連装発射機を搭載した車両が引き出された。
そこから"中国版スイッチブレード"と称される自爆ドローン「蜂群」48機が一気に発射。ほかの3隻も同様の動きを見せ、約200機が海保船に飽和攻撃を仕掛けた。
火災で次々と沈没していく海保船。一方、海警船からはヘリが離艦し、魚釣島に接近。リぺリングで海警特殊部隊があっという間に上陸した。
海保船が自爆攻撃で炎上・沈没し、海上保安官に死傷者が出るという事態。間もなく自衛隊に出動命令が下る。ところが、対ドローン用レーザー兵器を搭載している米海軍イージス艦とは異なり、海自艦艇はドローンの飽和攻撃に対して無力だ。
基地を出た海自イージス艦は尖閣には向かわず、アメリカから購入したトマホーク巡航ミサイルの発射準備を完了させ、後方待機となった。
中国側は、海警特殊部隊が占拠した魚釣島に陸軍部隊を上陸させようとしていた。臨時の埠頭(ふとう)を造り、沖縄・嘉手納の米空軍戦闘機を離陸した直後に撃墜できる射程600㎞の対空ミサイルS-500を設置するためだ。
この設置を妨害することが自衛隊の絶対任務となる。
ここでまず投入したいのが、5年前に海自が導入を検討していると報じられた無人戦闘攻撃機アベンジャーだ。アベンジャーは最高速度マッハ0.6、航続距離2900㎞で最大20時間飛行可能。武装はヘルファイアミサイル、さらに精密誘導装置JDAMを搭載できる。
「もともとは中国艦船や北朝鮮船舶の『瀬取り』を監視する目的で導入するつもりだったと思いますが、アベンジャーに搭載されるJDAMは、敵艦近くに着弾して船底を狙って爆発し、一発で撃沈させることが可能な爆弾『クイックシンク』を2発使える。沖縄と鹿児島・鹿屋(かのや)に10機配備しておけばいいでしょう」(前出・伊藤氏)
■ステップ②低空域航空優勢の獲得
それでも有人・無人の大兵力で押す中国軍が尖閣に上陸を開始した場合、統合司令部は陸自に出動を命じる。
すでに攻撃ヘリ部隊の全廃を決め、西部方面無人偵察機隊(無偵隊)を運用している陸自について、元陸自中央即応集団司令部幕僚長の二見龍(ふたみ・りゅう)氏(元陸将補)はこう言う。
「これは偵察です、こっちは攻撃ですとバラバラに運用しても効果が薄いので、今後は無人機装備を体系化し、偵察から整備・補給・攻撃まで網羅できる部隊の創設が必要です。6個中隊、1500名規模を沖縄に配備するのがいいでしょう。
それと、中国相手に戦うには敵の無人偵察機、無人自爆機を撃墜する『対無人機用の攻撃無人機』がどうしても必要です」
現状では輸入に頼っているが、今の日本の航空技術で、このような攻撃型無人機の開発は可能なのだろうか? 三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所でF-2戦闘機の開発に初期段階から参加し、現在は航空コンサルタントとして活動している陶山(すやま)章一氏が解説する。
「防衛省にはかつて訓練用の無人標的機UF-104Jや多用途小型無人機などを開発した実績がありますから、無人攻撃機も開発は可能でしょう。低コストで使い捨て可能な小型攻撃機、大型の対物攻撃機の2機種に分けて開発するべきだと考えます」
このうち、対無人機戦闘に投入されるのは大型の対物攻撃機だ。世界各地の武器見本市で無人機を取材しているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう語る。
「敵の無人機を撃墜するには、強力な妨害電波を照射するための電子戦装備と発電装置を搭載する必要があり、機体は大型化します。この電子戦大型無人機と、敵機の位置を正確に探知するレーダー搭載無人機が、2機編隊で任務に当たります。陸自には空中戦闘の訓練を受けたパイロットがいませんから、新たな教育シラバスも必要でしょう」
陸自・無人偵察攻撃即応連隊(仮称)の作戦をまとめてみよう。まず、広域な島嶼(とうしょ)地域をスキャンイーグルなどの無人偵察機で監視。敵の無人攻撃機や自爆機を発見したら、前述の無人戦闘機小隊(2機編隊)が現場に急行し、電波兵器で敵を撃墜して低空域の航空優勢を獲得。そして、敵の無人機が発進した場所を特定する―ここまでがワンセットの作戦任務となる。
■ステップ③島の奪還・制圧
もしこれが2030年代の話なら、すでに新安保3文書の「防衛力整備計画」に記されたスタンド・オフ・ミサイル連隊が完成している。敵の無人機が近くの艦艇から発進していれば地対艦ミサイル、島から発進していれば島嶼防衛用高速滑空弾、さらに遠くの空母や揚陸艦から発進していれば長射程の誘導ミサイルで、発進源を叩けばいい。
しかし、まだこれらのミサイル能力が未完成な2020年代には、日本側も無人機による対応がファーストチョイスになりそうだ。
ここで投入されるのが、24年をめどに新設される陸自と海自の共同部隊「海上輸送部隊」に属する揚陸艦だ。前出の二見氏が解説する。
「この揚陸艦に搭載したいのが、ドイツのラインメタル社が完成させた対空砲スカイレンジャー35HELを搭載した新型対空戦車です。毎分1200発発射可能な35㎜機関砲、対空ミサイル、対ドローン高出力レーザー砲を装備し、中国軍の無人機スウォーム(集団襲来)攻撃に対しても有効です」
このスカイレンジャーに加え、ウクライナの戦場でも大活躍している特攻自爆ドローン・スイッチブレード、多連装ロケットシステム・ハイマースを搭載した揚陸艦は最大船速で尖閣へ向かう。
「陸自の無人機偵察による情報を基に、魚釣島への距離300㎞まで近づいた時点で、周辺の中国艦艇に向けてハイマースから射程300㎞の精密誘導弾エイタクムスを発射。中国艦艇を無力化しながら尖閣へ向かい、距離40㎞まで近づいたらスイッチブレードをどんどん射出します」(二見氏)
これを援護するのがイスラエル製の対レーダードローン、ハロップだ。先島諸島の基地から次々と発射されたハロップは、最大9時間の飛行時間を生かして尖閣周辺空域で待機。ハロップは完全自律飛行できるが、石垣島の地下に通信基地を設営しておけば、尖閣諸島まで通信範囲に入るため、有人誘導へと切り替えることも可能だ。
ハロップは敵のレーダー波をキャッチすると、その発進源へ自動的に突っ込み自爆する。こうして敵の対空兵器を無力化すれば、揚陸艦から次々と射出されるスイッチブレードは撃墜されることなく、すでに島へ上陸している中国軍部隊や周囲の船舶に自爆特攻攻撃を仕掛けることができる。これが陸自版・ドローン飽和攻撃だ。
「さらに、可能であれば魚釣島とその南北の小島には、イスラエル製の『LANIUS(ラニウス)』を配置しておきたいところです」(二見氏)
LANIUSはイスラエルが開発した小型無人兵器で、飛行時間は7分しかないが、時速72キロで飛行展開し、待ち伏せ・捜索・敵味方識別を行なう。岩盤に見せかけた太陽電池で充電しながら待機し、敵を発見すると離陸・急速接近して自爆攻撃。いわば"スマート飛行地雷"だ。
これはあくまでもひとつのケーススタディでしかないが、大量の無人機を投入してくる中国軍に対し、日本側も各種無人機で迎え撃つ体制を整える必要があることは明らかだ。自衛隊「無人機部隊」は今後、どう進化していくのだろうか?
(写真/柿谷哲也 航空自衛隊 米海軍 米海兵隊 BAYKAR Technology Rheinmetall Defence)