イギリス、ドイツ、イタリアのユーロファイター・トランシェ1型は供与されるのか注目だ(写真:柿谷哲也)イギリス、ドイツ、イタリアのユーロファイター・トランシェ1型は供与されるのか注目だ(写真:柿谷哲也)
2月8日のロイターの報道によると、ウクライナのゼレンスキー・大統領が英国を電撃訪問し、スナク英首相と会談。英国はNATO(北大西洋条約機構)の最新戦闘機でウクライナ空軍(以下、ウ空軍)パイロットの訓練を確約したという。

NATO各国が持つ空軍機各種がウクライナに集結し、新谷かおる先生の漫画『エリア88』(※1)が現実化するような展開である。そこで、実際にNATOからウクライナに供与可能な戦闘機に関して、事情に詳しいフォトジャーナリストの柿谷哲也氏に推定していただいた。

ドイツとイタリアにあるトーネード多用途戦闘機は、高速での低空侵入からの爆撃を得意とする(写真:柿谷哲也)ドイツとイタリアにあるトーネード多用途戦闘機は、高速での低空侵入からの爆撃を得意とする(写真:柿谷哲也)

「英国からはユーロファイター・タイフーントランシェ1型を50機提供可能です。これと同型機がドイツのEF2000で33機余っています。イタリアは同型機を28機装備。計111機の第4.5世代ジェット戦闘機のタイフーン編隊で、ロシア空軍第一線機と互角以上に戦え、要撃任務に使用可能です。

ドイツとイタリアの空軍は、さらに古い多用途戦闘機・トーネードIDSを計160機保有しています。スペインは若干のFA18Aが余剰です。

さらにフランスは、2022年に退役したミラージュ2000Cを100機保管中です。これらの機は対地攻撃能力が高く、ウクライナでの対地攻撃に有効です」(柿谷氏)

仏は昨年ミラージュ2000Cを退役させた。保管されている機体はウクライナに供与される可能性はある(写真:柿谷哲也)仏は昨年ミラージュ2000Cを退役させた。保管されている機体はウクライナに供与される可能性はある(写真:柿谷哲也)
スペインのFA18Aは新しいタイプのEF2000に更新中だが、自国の空軍力を削っての供与はあるか(写真:柿谷哲也)スペインのFA18Aは新しいタイプのEF2000に更新中だが、自国の空軍力を削っての供与はあるか(写真:柿谷哲也)
機数が判明しているだけで371機。400機近い大編隊のウ空軍戦闘機部隊が結成可能だ。400機の大編隊で一気にロシア空軍殲滅空戦は可能なのか?

新谷先生の『ファントム無頼』を読んで、F4パイロットを目指した元航空自衛隊302飛行隊隊長の杉山政樹氏(元空将補)がこう言う。

「戦闘機と言う機械モノは、1回飛ぶ毎に半分くらい故障します。フレアが出ない、自己防御装置が出来ない、レーダーが不具合、ミサイルのシークエンスが合わないなど、ほんのちょっとした機械モノの不具合で戦闘ミッションに使えなくなる。5回飛べばほとんど飛べる戦闘機は残りません。

ウクライナは『エリア88』と同じですぐ周りに戦闘空域があり、離陸後20~30分したらすぐに帰ってきてまた上昇する。一日5回飛ぶのは当たり前で、想定される飛行回数が物凄い数になる。なので、わずか一日の出撃で全戦闘機が枯渇してしまうわけです」(杉山元空将補)

2月11日のFNNライムオンラインの報道によると、2月9日にEU首脳会議に出席したゼレンスキー大統領に対して、スロバキアが自国のミグ29戦闘機の供与を前向きに検討していると発表した。

スロバキアには空対地対レーダーミサイル・HARMを撃てるミグ29戦闘機が12機ある(写真:柿谷哲也)スロバキアには空対地対レーダーミサイル・HARMを撃てるミグ29戦闘機が12機ある(写真:柿谷哲也)

当ニュースサイトで柿谷氏が同国に取材し、NATO仕様でHARMミサイル搭載可能のミグ29戦闘機12機がウクライナに行くとの情報をキャッチした。すなわち、この12機とポーランド空軍のミグ29戦闘機30機の計42機がウ空軍に行く。

「すでにミグ29のパーツはウクライナに行っているのではないでしょうか。だからゼレンスキー大統領は『ミグ戦闘機をくれ』とはどこでも発言していません。このミグ29編隊はNATOの高性能機が来るまで、繋ぎとして使います。

ベラルーシで演習していた航空優勢を獲る組織戦闘をロシア空軍が北から仕掛けてきたら、ウ空軍ミグ29編隊は北側のベラルーシから入ってくるロシア空軍戦力を防空戦闘で止めながら、空から東部の地上戦を支援する対地攻撃をやらないとならない」(杉山空将補)

ポーランド空軍はNATO仕様のミグ29戦闘機を30機保有(写真:柿谷哲也)ポーランド空軍はNATO仕様のミグ29戦闘機を30機保有(写真:柿谷哲也)

その対地攻撃任務が『エリア88』的になるようだ。

「まさに『エリア88』の世界だと思います。ベテランで実戦経験のあるパイロットが操る単機を東部空域に放ちます。その機は空対空用ミサイルと空対地用爆装をして混戦状態の中を飛び、ロシア空軍機を見つけたら撃ち落し、地上目標があれば爆撃します。

しかし、危機を察知したら自機が落とされない様にすぐに帰る。そういう事ができる老練なパイロットを単機で放ちます」(杉山元空将補)

ミグ29で持久するならば、後からやってくるNATOの高性能機の機種は何がいいのか?

「F16でしょうね。多数機でネットワーク戦を展開するには約一年間の訓練期間が必要ですが、その間にウ空軍整備員はポーランドなどで訓練し、補用品はF16で全て回せるようにします。

供与されるF16は100~200機になると思われますが、そのうち運用できる50~60機で地上と連携したネットワーク戦が可能となり、自分たちがロシア軍に獲られた自国領土を取り戻すための航空優勢を獲れることになります」(杉山元空将補)

ベルギーとオランダからは、近代化改修済のF16Aをウクライナに供与可能だ(写真:柿谷哲也)ベルギーとオランダからは、近代化改修済のF16Aをウクライナに供与可能だ(写真:柿谷哲也)

2月19日のロイター電によると、ミュンヘン安全保障会議の合間にウクライナ当局者が米議員に対して、バイデン米大統領にF16戦闘機の供与を働きかけるよう、頼んだと言う。

「ベルギーとオランダはF35Aに更新中で、射程180kmのAIM120ミサイルが搭載可能の近代化改修済みF16Aに余剰が出るかと思います。」(柿谷氏)

援軍の早期の到着が望まれる。

※1『エリア88』
小学館のマンガ雑誌『少年ビッグコミック』にて1979~1986年まで7年間連載された、傭兵戦闘機パイロット空戦漫画。主人公の風間真(かざま しん)の魅力的なキャラクターに加え、F14トムキャット、F5タイガー、A4スカイホークなど数多く登場する戦闘機の作画は精緻を極め人気を博した。80年代、この漫画を読んで空自戦闘機パイロットを目指した若者が続出したという。