去る2月3日に配信された「乗り物ニュース」によれば、英国・アエラリス社が2025年の初飛行を目指して、『モジュラージェット』なる斬新なシステムを開発中らしい。
そのシステムは、アニメ『機動戦士ガンダム』似のコアファイターに様々なモジュラーパーツを合体させ、練習機から軽攻撃機、無人機まで進化。この機に関して、元航空自衛隊302飛行隊隊長の杉山政樹氏(元空将補)はこう話す。
「現在、航空業界内で非常に有名な会社で、DX化の深化でコンピューター上で3Dのデザインを作成しています。これまでは実物大のモックアップでの破壊試験や縮小モデルでの風洞実験などでフラッターの有無などを確かめていましたが、いまは全てコンピューターでやっています。
ボーイング社や英の航空関連企業・BAEシステムズ社が投資していて、様々な航空関連企業が興味を持っています。第六世代戦闘機は無理ですが、韓国TA50軽攻撃機、航空自衛隊(以下、空自)T4練習機などの4~4.5世代機ならばアレンジできる可能性はあります」
はたして『モジュラージェット』は製作可能なのか? F2の主任設計者である故・神田國一氏(三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所)の下で開発に初期段階から参加し、現在は航空コンサルタントとして活動する陶山章一氏はこう語る。
「私の答えはYESです。無人機の特徴は消耗戦に対応出来る点にあると考えています。そのためには、機体のバリエーションは非常に有効です」
昨年6月3日の日本経済新聞の報道によると、日米共同開発で戦闘機支援用の無人機を開発し、2025年までに試作品を製作するらしい。この無人機は日英伊共同開発のF3戦闘機の"随伴無人機"となる。
ここで一案ある。空自としては、T4練習機の後継機開発が喫緊の課題だ。無人機をモジュラー式で開発して、T5練習機を派生型として開発できないだろうか。この場合、モジュラー式T5練習機エンジンの国産は可能なのか。過去に戦闘機開発に関わった関係者はこう言う。
「X-2(旧ATD-X:心神)に2台搭載したXF5-1エンジンをベースに開発するイメージですが、いま日本は次期戦闘機用エンジン開発を日英伊の合同で進めていて、国内の限られたエンジニアのリソースで、2種類の同時開発は無理だと思います。
そこでお勧めは、GEのF404/F414シリーズ。性能はXF5-1を上回り、推重比(推力重量比)で見るとXF5-1の7に対して、F404は7.8、F414は9です。F404/F414の搭載機体では韓国のT-50やFA-50、インドのデジャスなどがあります」(元戦闘機開発関係者)
モジュラー式機体に対して、練習機と軽戦闘機、無人機だとマニューバ時の機体にかかるGの掛かり方は激変する。その際、モジュラー間の接続部の強度は弱くなり、空中分解する可能性は高い。
「モジュラー間の接合部は、ボルトまたはピン結合になると思います。異なる性能要求に基づく有人機と無人機でモジュラーの相互使い分けを可能とするならば、荷重条件が厳しい無人機仕様を標準とするのが、有人機としては重量的に若干不利となりますが、設計的には妥当だと思います」(陶山)
すると、モジュラー式の空自T5練習機と日米共同の無人機との同時開発は可能となる。
「同時開発は確かに可能ですが、それも何年先になるか分かりません。空自T4後継機はF3が出来る前に完成してもよい、という考え方もあります。
もう一つ、T4は教育体系練習機なので、シミュレーターと実機を使いながらどの程度のパイロットの数を育てられるか、と言う部分が重要です。ボーイングT7A練習機はすでに作成済みで、その能力が足らない分に機能を付加しようとしています。ゴールはそこにあるのです」(杉山元空将補)
「技術的には可能とは思いますが、同時開発は時間的に不可能ではないでしょうか。要求仕様策定の検討には多大な時間を要しますので、将来戦闘機開発を最優先事項とする現在の防衛省に、同時開発の必要性があるとも思えませんし、また、モジュラー式の要求仕様を策定する余裕も正直残っていないと思います」(陶山氏)
世界中で航空機を撮影しているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう語る。
「面白いコンセプトだと思いますが、購入する側のメリットが見当たらないです。高等練習機や無人機などは、専用として購入する方が道理に敵う必然性があります」(柿谷氏)
空自T4練習機の後継機と日米共同開発無人機の共同開発は無理そうだ。だが、さらにそれを難しくする深い理由があった。
「モジュラーでT4の後継機を作るには、戦闘機教育体系を含め白紙からの作業となり、随伴無人機開発を急ぎたい日米としては、相反する。AIの開発に労力を注ぎたいところです」(杉山氏)
モジュラー式で空自T4の次世代機・T5を開発するアイディアは。ここに潰(つい)えた。