昨年12月にオンライン会談を行なった、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席昨年12月にオンライン会談を行なった、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席

1年以上続くロシアによるウクライナ侵攻。これに対して、西側各国の超大手企業はロシアから撤退する事実上の経済制裁を発動! そんな中、中国企業は一昨年からそのシェアを拡大しているという。中国企業はどのような商品を、どうやってロシアで販売しているのか? 中国の経済、IT事情に精通するジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいます!

■ロシアのECは中国業者が完全制圧!?

――まず、お聞きしたいのは中国の政治的な立ち位置問題。ロシアへいろいろと輸出をしているってことは、政治的にも完全にロシア寄りになってしまった?

高口 一応、中立です(笑)。なので、スマホやPC、家電メーカーや自動車などを扱う中国の超大手企業の中には、ロシアどころかウクライナからも撤退しているところもあります。

このような企業はアメリカや日本、そしてEUでもビジネスを展開しており、西側企業と同調せずロシアから撤退しなかった場合は、各国で販売規制される恐れがあり、ビジネス的に大打撃となるため、そういった判断となっています。

昨年8月、在中国ロシア大使館が「砲撃戦に革命をもたらした中国製のドローンは、現代戦の象徴だ!」と、中国のドローンメーカー、DJIを称賛しました。

しかし、DJI側は即「わが社の製品を軍事転用することは一切支持しません!」と全力で反論。それほど、中国の超大手企業は各国から規制されるきっかけになりかねない要素を恐れているのです。

――それでもロシアへの輸出が増えているんですよね。

高口 対ロシア輸出を行なっているのは、積極的にグローバル展開せず、各国から販売規制をされてもビジネス的に影響しない中国企業です。つまり、ファーウェイやBYD、DJIなど超大手企業より下のクラスになります。

――では、具体的にどのような企業が、中国からロシアへ進出しているのですか?

高口 まずは自動車です。ロシアでは韓国のヒョンデ、日本のトヨタ、ドイツのフォルクスワーゲンが人気の輸入車でした。これらが撤退してチェリー、ハバル、ジーリー、エクシードといった中国ブランドが台頭しています。

昨年、ロシアの新車販売台数は前年比で約60%減でしたが、一方で中国車は約30%もシェアを拡大。これは韓国車を抜いて、輸入車トップのシェアになります。

ロシア市場で2021年からシェアを拡大する中国の自動車メーカー、チェリー(上)とハバル(下)。どちらもSUVを得意とするメーカーだ。このほかにもエクストリームな方法でロシア市場へ侵攻したメーカーも出現!ロシア市場で2021年からシェアを拡大する中国の自動車メーカー、チェリー(上)とハバル(下)。どちらもSUVを得意とするメーカーだ。このほかにもエクストリームな方法でロシア市場へ侵攻したメーカーも出現!

――確かに、ほとんど知らない社名ばかりですけど、西側企業の撤退が中国メーカーにとって完全に追い風になってるじゃないですか!

高口 中国の超大手企業にとってはロシアでのビジネス規模はそれほど大きくありません。それこそ日本よりも小さい。しかし、現在ロシアに進出しているメーカーにとっては大きな市場であり、なりふり構わず商機を見逃さないスタイルとなっていますね。

――ほかに自動車界隈(かいわい)でのトピックスは?

高口 昨年11月、ロシアの老舗自動車メーカーである「モスクビッチ」が復活しました。2002年に経営破綻し、昨年11月に復活を発表。そして12月には新車販売をスタートする爆速展開です。製造はロシアから撤退したフランス企業のルノーの工場で行ない、それが「モスクビッチ3」というSUVです。

――このモスクビッチ3は、日本でも普通に売れそうなSUVじゃないですか!

高口 実は、モスクビッチ3の正体は中国の自動車メーカー、江淮(ジァンホワイ)汽車のセホルX4なんです。

1930年創業のロシアの自動車メーカー、モスクビッチ。2002年に倒産するも、ロシアから撤退したルノーの工場を引き継ぎ、昨年11月に復活。12月に新型車のモスクビッチ3が即デビュー1930年創業のロシアの自動車メーカー、モスクビッチ。2002年に倒産するも、ロシアから撤退したルノーの工場を引き継ぎ、昨年11月に復活。12月に新型車のモスクビッチ3が即デビュー

しかし、その実態は中国メーカー、江淮汽車のセホルX4のノックダウン生産という実質中国企業に!しかし、その実態は中国メーカー、江淮汽車のセホルX4のノックダウン生産という実質中国企業に!

――え!?

高口 モスクビッチと江淮汽車が提携し、部品をロシアに輸出し、ロシア国内で組み立てるノックダウン生産を行なっているのです。ルノーが使用していた工場を居抜きで買い取り、中国製の部品で車を製造するという新しい進出パターンですね。

なので、実質中国車を輸入しているのと変わりません(笑)。こういったロシア企業と中国企業の提携も今後は増えるでしょう。

――ところで、各種ガジェット関連はどうですか。アップル、サムスンなど超大手が撤退して、このジャンルも中国製品が爆増してる?

高口 はい。"ロシアのアマゾン"と呼ばれる最大手ECの「Ozon(オゾン)」は、昨年から、スマホをはじめとする各種家電の製造拠点である中国深圳(しんせん)市にオフィスを開設し、中国のショップ事業者を積極的に誘致しています。

そして現在では、Ozon内の中国系のショップ数は1万店舗超え。全体の90%が中国製品で、昨年の第3四半期の売り上げは前年の同期比で300%を超える数字を記録しました。さらにOzonは24年までに、中国の事業者との取引額を10倍にすると発表しています。

――ロシアのアマゾンっていうか、もはやロシアのタオバオになってるじゃん!

高口 その一方で中国のECもロシアへ進出しています。世界最大の越境ECである「アリエクスプレス」は現在、ロシア第4位のECに成長しています。ロシアではビザやマスターカードといった国際ブランドが使用不可となりましたが、アリエクスプレスはいち早く現地のローカルのオンライン決済に対応し、急激にその存在感を高めている状態です。

ファーウェイやシャオミなど日本や欧米でビジネス展開する中国の超大手企業は、すでにロシアから撤退済み。しかしロシアのECや、ロシアからも購入可能な中国の越境ECには、転売と思われる製品が大量に販売されて激売れ中ファーウェイやシャオミなど日本や欧米でビジネス展開する中国の超大手企業は、すでにロシアから撤退済み。しかしロシアのECや、ロシアからも購入可能な中国の越境ECには、転売と思われる製品が大量に販売されて激売れ中

――で、それらのECをチェックすると......。中国の超大手メーカーの商品が大量に販売されているんですけど、これって西側諸国的な視点だとアウトな行為では? ハイテク機器で軍事転用いけますよね。

高口 どれもメーカーが直接販売しているのではなく、第三者による転売なのでセーフです。Ozonが深圳にオフィスを構えたことで、このような現地で製品を仕入れてロシアへ売る販売方式が容易になったのです。

なので、今ではロシアでのスマホの売り上げ1位がシャオミ、2位がリアルミーと、これまでトップだったサムスンとアップルが抜けたところで中国メーカーが首位争いをしています。

――このほか、注目のメーカーなどは?

高口 マッサージチェアなどの健康器具を販売する大手企業「ヤマグチ」があります。

ロシアで大人気の健康器具メーカーにも中国企業の影が!?ロシアで大人気の健康器具メーカーにも中国企業の影が!?

(上)自称「日本企業」というロシアの大手健康器具メーカー、ヤマグチ。しかし、こちらも正体は中国企業説が濃厚。中国の大手健康器具メーカーであるロータイ(下)の類似製品を取り扱っており、同社の企業情報にも「海外ブランド」としてヤマグチが紹介されている(上)自称「日本企業」というロシアの大手健康器具メーカー、ヤマグチ。しかし、こちらも正体は中国企業説が濃厚。中国の大手健康器具メーカーであるロータイ(下)の類似製品を取り扱っており、同社の企業情報にも「海外ブランド」としてヤマグチが紹介されている

――これは日系企業なのでは? HPには日本語表記が多くあったりしますけど。

高口 いえ。ロシア企業です。しかし、中国の大手健康器具メーカー、ロータイの製品を販売する代理店となっており、実質中国企業です(笑)。それこそ日系企業を装った販売スタイルも、古き良き中国企業の定番手口ですね。

近年では中国本国や欧米、日本でもこのような手口は通用しなくなってきましたが、ロシアではまだまだイケるようです。

そして、アディダスやナイキといったスポーツブランドも撤退して、そこにも中国のメーカーが進出しています。中国の老舗スポーツブランド「アンタ」はロシアでECと実店舗を拡大しています。

人気ブランドが不在となったロシアで、ECはもちろん実店舗でも出店ラッシュの中国スポーツブランド、アンタ(写真)。同じくスポーツブランドのリーニンも進出中人気ブランドが不在となったロシアで、ECはもちろん実店舗でも出店ラッシュの中国スポーツブランド、アンタ(写真)。同じくスポーツブランドのリーニンも進出中

――そもそも、ロシアとの取引って中国政府からは怒られないんですか?

高口 現状は政府からの"全面禁止!"という通達はなく、"自粛しましょう"というお願いレベルなので、このような対ロシアビジネスはまだ継続されます。

――その一方、先月24日に中国政府がウクライナとロシアの戦争解決に関する「12項目」文書を発表。「お互いの国家の主権を尊重する」「冷戦的な考えを放棄する」「和平交渉の再開」などが明記されていましたが、この12項目で今後中国企業のビジネスに影響しそうな項目はありますか?

高口 12項目最後の「戦後復興計画への参加」です。中国は"中立"ですから、積極的に戦後復興に参加するつもりでしょう。ウクライナは各種インフラが崩壊していますが、公共交通や5G基地局などの再建は中国企業が最も得意とする分野。

これは中国企業にとっては大バブル確定の案件です。しかも、その資金をアメリカや日本が出すとなったら、全力で復興利権を狙いにいくでしょう。

――中国企業のひとり勝ちを阻止するためにも、日本企業も独自のウクライナ復興支援を強力に推進してほしいですっ!