統一地方選挙・前半戦の投票日まで1週間を切った。多くの自治体で4月9日に投票が行なわれるが、『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社文庫)で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞したライター・畠山理仁が奈良県知事選の全候補者を取材した。
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奈良県知事選の注目点は、自民党が5期目を目指す現職と新人の擁立で分裂する中、日本維新の会が初の公認候補を立てたことだ。また、このほかにも無所属の新人3人が参戦し、計6人が立候補している(届出順)。
・山下まこと(54歳)
・ひらきしょう(48歳)
・尾口いつぞう(おぐちいつぞう・72歳)
・あらい正吾(あらいしょうご・78歳)
・西口のぶこ(にしぐちのぶこ・68歳)
・羽多野貴至(はたのたかし・43歳)
日本維新の会・山下まことには斑鳩(いかるが)町で会った。山下は元生駒(いこま)市長で、知事選は8年ぶりの挑戦となる。
「官僚出身の知事を再度選ぶのか、それとも奈良県で初めて民間出身の知事を選ぶのか。これは歴史的な選挙です」
行財政改革による財源捻出を目指す山下は、現職による県政をこう批判した。
「公共事業をすれば経済が活性化するという、高度経済成長期に運輸官僚を務めた人らしい発想で16年間続けてきた。すべて空振りに終わっていると私は思います」
無所属・ひらきしょうに会ったのは吉野町での集会だ。ひらきは元総務官僚で、昨年まで岐阜県の副知事を務めた。自民党奈良県連が推薦し、立憲民主党県連が支持する。約100人を集めた出発式では、応援弁士が厳しく言う。
「現職に入れるのは維新を助けるという意味なんですよ!」
ひらきの演説も激熱だ。
「今回の論点はふたつ。ひとつは命を守るか否か。もうひとつは奈良県の誇りを守るか否か。大阪の都合でもない、あるいは東京の都合でもない。奈良県のことは奈良県で決めなければなりません!」
無所属・尾口いつぞうには王寺駅で会った。大和郡山市議を4期務めた尾口は共産党の推薦を受ける。尾口は自民分裂選挙を冷静に見ていた。
「分裂していても、結局、政治の方向はおふたりさん一緒。どちらがなっても今の県政が続きます。私はリニアありきの大型開発を止めたい。そして何より平和を訴えたい」
街宣では支援者たちが「口ひげおじさんの歌」を歌って選挙戦を盛り上げていた。
現職の無所属・あらい正吾には山間部で会った。あらいは自民党県議の一部から支援を受ける。次の予定があっても、のんびり取材に応じてたくさん話す。
「私にとって今回の選挙の最大のポイントは、リニア中央新幹線『奈良市付近駅』を奈良県内で確定することです。この駅を県外に持っていこうとする動きもある。それを阻止するのが私の戦いです」
「奈良県のIT化を推進したい。私はフェイスブックやインスタグラムを使って選挙運動します」
さっそく西口のインスタをフォローしたが、なんと、非公開の鍵付きアカウントだった。
無所属・羽多野貴至には王子町で話を聞いた。会社員の羽多野は有給休暇を取って選挙に出ている。
「告示日の朝に5人の候補者を見て『この人たちが通ったら奈良はやばい』と思って選管に行きました。そこから書類をそろえて立候補。ポスターやビラ作成、ユーチューブチャンネルの開設はこれから」
一番やりたいことは?
「高齢者が車なしでも暮らせるインフラを整えたいですね。移動に困る高齢者を見るのはとても心苦しいんです」
立候補は大切な権利である。