北朝鮮はウクライナに人員を送り込み、労働者を建築現場で働かせる対価として莫大な外貨・ルーブルや食糧・石油をロシアから得ている。現場で米国製の兵器の情報も収集できてまさに一石二鳥だ 北朝鮮はウクライナに人員を送り込み、労働者を建築現場で働かせる対価として莫大な外貨・ルーブルや食糧・石油をロシアから得ている。現場で米国製の兵器の情報も収集できてまさに一石二鳥だ
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。新連載「#佐藤優のシン世界地図探索」ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――今回とりあげる北朝鮮は、実はウクライナ戦争で世界で一番得をしている国、というお話なのですが本当なのでしょうか? 

今年2月17日の米・ウォールストリートジャーナルの報道によれば、北朝鮮とロシアの貿易量はコロナ流行前の水準に回復しているようですし、当ニュースサイトでも「ウクライナ紛争は大チャンス!? ロシア軍を援護する「北朝鮮労働者」のしたたかな狙いとは?」 との記事を掲載しましたが、それがさらに進んでいるのでしょうか。

佐藤 北朝鮮は確か、弾薬をロシアの傭兵会社・ワグネルに流していると思います。ただ、ロシアは精密誘導弾を作れませんが、ウクライナ国境の外に飛び出さない範囲で撃てばよいので、ロシアは弾切れにならないと思います。

「軍事施設を狙ったんだけど、ウチの弾は精度が悪いので、300m離れたショッピングモールに当たってしまった」と言っても、意図的にやった訳ではないので、戦時国際法の違反になりません。

――では、北朝鮮は何をロシアに輸出しているんですか?

佐藤 「人」です。ロシアは今、ドネツク、ルガンスク、マルオポリで破壊し尽くされた町で住宅をガンガン作っています。

――TVで見ました。森林地帯を切り拓いて、集合住宅、学校ほか各種施設を急ピッチで作っていますね。

佐藤 北朝鮮はその現場で、内装を担当しています。壁紙を貼ったり、配線したり。北の労働者はそう言う技術の水準が高く、すごく上手い。手先が器用なんです。米国の住宅などでは、壁紙が20cmくらい曲がって貼られて家なんていくらでもありますよね。

――はい、それはもう沢山。

佐藤 日本人だったら真っ直ぐに貼らないと気が済まないでしょう。ロシアは日本の団地のようなパネル式住宅をウクライナにたくさん作っているんです。

――では、北朝鮮はガンガン金を儲けているということですか?

佐藤 そうです。ルーブルをたくさん得ています。ロシアは外貨を使わずに、北朝鮮の欲しい物をルーブルで売っているんです。

北が欲しい物はまず、食料。ロシアは空前の豊作で、穀物が余っています。それから石油も上限価格があり、輸出がしづらい所があるので、その石油を北に回せばよいのです。

――それはまさか、北朝鮮が核兵器を開発出来ない様に、西側諸国が海上封鎖もして制裁を加えるなか、不足している食糧や石油が全て、陸路を通して安全に北朝鮮に入ってるって事ですか?

佐藤 そうです。だから北朝鮮は人を送り、ロシアはルーブルで全部決済できるのです。

それに加えて、ウクライナの最前線で鹵獲(ろかく)した米国製の対戦車兵器「ジャベリン」や、各種無人機や無人ドローンを全て見せてもらえて、物によっては現物をいただいて帰国するのです」

――以前、週プレNEWSで配信した記事の中で、元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍元陸将補が「一般兵だと無理ですが、特殊部隊員は(中略)いるだけで色々と情報収集が可能です。(中略)得た情報と知見は朝鮮半島有事の際、38度線北側で米軍最新兵器からどのように自国を防御すればいいのか、また、北の持つ兵器でどう有効的に攻撃すればいいのかに応用されます」とおっしゃっていました。

佐藤 そうです。それで、その米国製兵器の現物を手に入れているんです。

――北朝鮮はすぐに「コピー武器」を作れますよ。

佐藤 だから、北朝鮮製ジャベリンが大量に出て来るかもしれない。

――えっ!!

佐藤 さらに、北朝鮮製の無人機や無人ドローンの性能・能力が、急に格段に高くなるとか。

――じゃあ、韓国がポーランドに輸出したK2黒豹戦車軍団が北のドローンに上空から発見され、北朝鮮製ジャベリンに次々と撃破されるという、ウクライナがロシア軍戦車に仕掛けたような攻撃がいずれ38度線辺りで発生するかも?

佐藤 そう言う変動が今、起きているのです。

――北は壁紙を貼り室内配線するような職人労働により、国連制裁による食糧・石油不足を解決して米韓軍より強くなろうとしている...。

佐藤 まさしく「シン世界」ですね。

次回へ続く。次回の配信予定は4/21(金)予定です。

撮影/飯田安国 撮影/飯田安国

●佐藤優(さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。