1月23日に開会された衆院本会議で、施政方針演説を行う岸田首相(写真:衆議院ホームページ) 1月23日に開会された衆院本会議で、施政方針演説を行う岸田首相(写真:衆議院ホームページ)
全国で統一地方選が繰り広げられるなか、衆院解散の足音が聞こえはじめているという。全国紙政治部記者が解説する。

「現状の岸田文雄首相の最重要課題は、自らの鶴の一声で地元・広島への誘致を決め、5月に開催するG7サミットとされます。

一時は、3月衆院解散・4月総選挙が囁かれたこともありましたが、選挙で芳しい結果が得られずに岸田政権が崩壊し、肝いりの広島サミットに岸田首相が出席できなくなる憂き目を避けるために先延ばしにした、という見立てが強くなっています」

一方で自民党職員は、解散総選挙へと打って出る政権の目論見についてこう明かす。

「広島サミットの成功で支持率を上げて、解散総選挙に臨むのではないかという風向きが自民党内で強まってきました。

統一教会問題や高市早苗氏の放送法文書問題などがありましたが、このところのメディア各社の世論調査では支持率が不支持を上回るようになってきている。連立政権のパートナー・公明党は、統一選から間を置かずの総選挙だと、創価学会の会員たちが選挙疲れするのではないかと懸念し反対しているのですが、岸田首相の周辺は総選挙へと前のめりになっています」

支持率が持ち直し傾向にある岸田内閣だが、懸案は12月の防衛増税額の埋め合わせ期限。7月の安倍元総理の一周忌にタイミングを合わせた解散総選挙で、弔い票を狙うか?(写真:衆議院ホームページ) 支持率が持ち直し傾向にある岸田内閣だが、懸案は12月の防衛増税額の埋め合わせ期限。7月の安倍元総理の一周忌にタイミングを合わせた解散総選挙で、弔い票を狙うか?(写真:衆議院ホームページ)
そんななか、解散に言及する一通の怪文書が、政界関係者や政治記者の間で「LINE転送」によって拡散している。

そこには、岸田文雄首相が6月の通常国会閉会のタイミングで衆議院を解散して総選挙に打って出るという見通しが示され、代議士たちの緊張度が高まっているのだ。再び前出の記者が話す。

「今回の怪文書では、通常国会の閉会予定日の6月21日に野党が恒例の内閣不信任案を提出するので、この動きに立ち向かう格好で岸田首相が国会を解散させるというシナリオを描いています。

その傍証として、自民党の茂木敏充幹事長がこれまで解散を否定してきたのに、ぶら下がり取材に対して『いつそういう判断があってもいいように準備を進める』と態度を変化させたことなどを挙げています。この文書が出回るや、与野党を問わずに議員たちは"すわ、総選挙"と色めきだっています」

■勝利を盾に防衛増税

とはいえ、前回の総選挙からはまだ1年半も経っていない。にもかかわらず、岸田首相が早期解散を模索するのはなぜか。政治部デスクが語る。

「現状の岸田政権のネックは防衛増税です。物価高に国民が苦しむ中、増税は支持率低下を招きますし、党内でも最大派閥の安倍派からは『防衛費の増額分は国債で対応するべきだ』という反対の声が強い。

ただ、今年12月までに防衛費増額の埋め合わせをしなければいけない。防衛増税でつまずけば、来年9月の自民党総裁選に向けて"岸田降ろし"が起きかねない。だから、支持率が高いうちに総選挙を行って勝利し、その結果を大義名分にして増税をゴリ押ししようと岸田首相は考えているのです」

怪文書では、6月21日解散、7月11日公示、23日投開票というスケジュールを予想しているが、この日程も自民に有利に働きそうだ。

■安倍一周忌の「弔い票」の目論見も!?

「総選挙が始まる直前の7月8日に安倍元首相の一周忌を迎えます。自民にとっては弔い選挙の雰囲気を醸し出すことで、同情票が集まるメリットがあるのです。

もちろん、統一教会問題が蒸し返される恐れもありますが、メディアの報道は出し尽くした感がありますので、プラス要素の方が強い。野党共闘も足並みがそろっていませんので、間隙をぬって総選挙を強行し、岸田政権にとって3度目の国政選挙に勝利できれば、二階派や菅義偉前首相のグループといった反主流派を封じ込め、長期政権につながります」(前出記者)

被爆地・広島でサミットのホストとして、首脳たちと平和を誓って人気取りを図り、目の上のたんこぶだった安倍元首相の死をも集票に使う。かつて菅前首相から「あいつはけんかができない」と小馬鹿にされた岸田首相は、狡猾に権力の盤石化にのめりこもうとしているのかもしれない。

●大木健一
全国紙記者、ネットメディア編集者を経て独立。「事件は1課より2課」が口癖で、経済事件や金融ネタに強い