ウクライナ戦争で世界中に認知された無人兵器の実力。まさに日進月歩のこの分野で、一大勢力となっているのが中国だ。従来の常識を覆す多種多様な兵器の実力と、その進化によって大きく変わる未来の戦争の姿を、開催されたばかりの国際兵器見本市の現場から緊急リポート!
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■中東に延びる中国の〝ドローン一帯一路〟
ロシアのウクライナ侵攻開始から1年の節目を迎えた2月下旬、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビで開かれた中東最大の兵器見本市「IDEX」。特に目立ったのは、世界96社が計248機を出展した無人兵器の活況ぶりだった。現地で取材したフォトジャーナリストの柿谷哲也(かきたに・てつや)氏はこう語る。
「各国のメーカー関係者が、今はとにかく儲かって仕方ないと話していました。例えばチェコの企業は、『小型の偵察ドローンはすぐに落とされる消耗品なのでものすごい数が売れ、生産が間に合わない。
最前線の兵士からこういうものが欲しいというアイデアやフィードバックがあれば、次に製造するドローンが決まり、新工場を造ることもある』と。販売先はアフリカや西アジアだと言うので、ウクライナにも売っているんじゃないかと聞いたら、答えをはぐらかされましたが......」
そんな中でも、中国メーカーが出展する無人機の多種多様さは際立っていたという。
欧米メディアは2月下旬以降、中国が自爆ドローンなどをロシアに提供する準備を進めており、4月までに最初の100機を納入する見込みだと報道。また、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、ロシア軍がすでにUAEなどを経由して輸入した中国製ドローンを実戦投入しているとも報じている。
「UAEの武器メーカーが出展したドローンの多くは漢字が刻印してあるなど、明らかに中国企業が技術提供しているもので、中国の国策企業とのコラボを大々的にアピールした展示もありました。中国の〝ドローン一帯一路〟が中東にまで及んでいることは疑うべくもありません。
さらに今後、中国がロシアを表立って支援することになれば、中国はそこで貴重な実戦データを得られます。
また、IDEXを取材してわかったことは、アメリカやイスラエルなどが開発したあらゆるジャンルの無人機を中国企業がコピーし、生産しているという実態です。しかも〝本家〟より安価で、性能もユーザー、つまり現場の兵士のかゆいところに手が届くような製品をそろえている。まさに〝ドローン帝国〟という印象でした」
■撃墜を逃れるための高速化と高機動化
戦場からのフィードバックで爆速進化するドローンの世界。元航空自衛隊第302飛行隊長で、無人機の最新状況に精通する杉山政樹氏(元空将補)はこう言う。
「弾道ミサイルとそれを迎撃するためのMD(ミサイル防衛システム)が互いに進化していたちごっこを続けているのと同様に、ドローンと対ドローン兵器もそれぞれに進化しています。
ドローンの高速化と高機動化というトレンドもそのひとつですし、1機数十億円という大型の無人航空機にはECCM(対電子妨害手段)も搭載されるといわれています」
その流れは、会場に出展された各種兵器からも読み取れたと柿谷氏は言う。
「ある中国メーカー関係者は、『無人機を無力化するにはまずレーダーで探知し、それからレーザーや弾丸で破壊するか、ECM(電子妨害)で落とす。だから今は、レーダー波を照射されたら素早く機動して撃墜を逃れる性能が重要だ』と話していました。
特に、大型ドローンの高速化は顕著です。例えばブラジルの企業はジェットエンジンを4基搭載したドローンや、ジェットのリフトファン4基で駆動するVTOL(垂直離着陸)型ドローンを出展していましたし、すでに複数の国の軍が購入しているトルコのバイラクタル・アキンジはターボプロップエンジンで最高時速360キロの飛行速度を実現しています」
ただしもちろん、それに対抗するべく対ドローン兵器もより高度化している。柿谷氏が続ける。
「電子妨害でドローンを撃墜するには、以前は数十秒の照射が必要でしたが、中国企業はその時間をかなり短縮できるよう性能を向上させた電波銃を出展していました。さらに、ドイツのゲパルト対空戦車のように弾幕を張ってドローンを撃墜する車両型対空兵器も開発しているようです」
■海自や空自の天敵になりそうな無人機も
中国メーカーは、東シナ海で中国軍と向き合う海・空自衛隊にとって厄介な存在になるであろう無人機も出展していたという。
「例えば、有人艦載ヘリコプターの4分の1ほどのサイズで、対艦ミサイルを4発搭載できる小型無人ヘリ。撃墜されても人的損害がないため、艦載機として非常に有効ですが、海自は同様のシステムを保有していないため、非対称な戦いを強いられます。
また、有人戦闘機に随伴して飛行すると思われるのが、ヒートミサイルを多数搭載したミサイル母機タイプの無人機。これも東シナ海での運用が想像できます」(柿谷氏)
空自那覇基地での任務を経験している杉山氏もこう警告する。
「この無人機は自軍の有人戦闘機の前方に出てヒートミサイルを撃ちまくり、空自の有人戦闘機にミサイルを撃たせる陽動任務に使われるでしょう。そして、空自側の残弾がなくなってから中国側の有人戦闘機が満を持して登場する。厄介な〝捨て駒〟になる兵器です」
また、東シナ海では中国軍の大量の無人機によるスウォーム攻撃(自律飛行による編隊攻撃)の可能性も指摘されているが、それに関連して気になる展示もあった。
「UAEの企業が、小型の民生ドローン用の非接触充電装置を出展していました。前線の少し後方にこの装置を配備すれば、ドローンがすぐに充電を行なえるため、長時間の作戦活動が可能になるとの説明でした」(柿谷氏)
もし、この装置が長距離飛行型のドローンにも使えるほどの充電性能を持つなら、空中給油機のような働きをする〝空中充電機〟を開発し、無人機を洋上で長時間運用し続けることが可能になる。
現状の技術ではまだそこまでは難しいようだが、UAEの背後にいる中国の国策企業がその可能性に気づいていないはずはない。将来的には、東シナ海をほぼ無限に飛び回る中国無人機編隊が登場することになるかもしれない。
■陸戦の主役は「無人機械化歩兵」?
そして、今回展示された各種の無人兵器を組み合わせてみると、激変しつつある地上戦の〝次の姿〟も見えてきた。
歴史を振り返れば、歩兵は馬の力を借りて騎兵となり、次は装甲車両に乗り換え、戦車、砲兵などと諸兵科連合を組むことで「機械化歩兵」に進化した。しかし今後は各種無人機の活用によって、従来の作戦をはるかに小規模の部隊で遂行できる「無人機械化歩兵」がトレンドになりそうなのだ。
その基本戦術はこうだ。
●対空レーダー波を探知し、そこに突っ込んでいく徘徊(はいかい)型自爆ドローンが敵の対ドローン兵器を潰し、小型ドローンが活動する低空域の航空優勢を確保する。
●鳥型ドローンなど、発見されづらいように偽装された偵察ドローンが敵の位置を特定するべく行動開始。
●敵の砲兵陣地を発見したら、歩兵が携行できるドローン発射ランチャーから射程60㎞の自爆ドローンを発射。野積みされた砲弾に直撃すれば大爆発が起きる。これは従来、155㎜榴弾砲(りゅうだんほう)部隊が担っていた役割だ。
●それと並行して、迫撃砲弾を投下できる無人機も航空支援を行ない、敵の砲兵陣地を爆撃する。敵の砲撃を無力化できたら、次は敵歩兵陣地の制圧だ。
ロシア軍はウクライナの戦場で、1チーム10人の突撃兵を次々と敵陣に突撃させ、40人以上の死者を出しながら最後の数人で占領するという人海戦術を採用している。それに対し、未来の無人機械化歩兵は......。
●一個分隊10人のうち5人の兵士は、小型のドローン3機、無人戦車1台を収めた背囊(はいのう)をそれぞれ保有。計15機のドローンと5台の無人戦車が敵陣を蹂躙(じゅうりん)する。
●塹壕(ざんごう)に潜んだ残敵に対しては、手榴弾投擲型のドローンを投入。
●作戦の仕上げとして、小銃を搭載したドローンが、倒れている敵兵に一発ずつ撃ち込みながら掃討を完了する。
従来なら、残敵の掃討は着剣した軍用小銃を持った突撃兵が敵陣に乗り込み、倒れている敵兵ひとりひとりの生死を確かめるという極めて危険な作業だった。しかし、こうして無人機械化歩兵は、自らの手で敵兵を撃ち殺すこともなく、身を危険にさらして突撃することもなく、任務を完了する――。
しかもこれは、すでにIDEXで出展された無人兵器だけを組み合わせた作戦構想に過ぎない。柿谷氏は言う。
「あるメーカーの関係者は、『ドローンの分野で求められているのは、これまで誰もやってこなかった新たなアイデア、新たなイノベーションです』と言っていました。
そしておそらく、そのヒントは戦争の現場にある。だから今のように大きな戦争がある時代というのは、資金面と技術面の両方で兵器が大きく進化するのでしょう」
爆速進化する無人兵器の分野で、最大の脅威となるのが中国。日本は対抗策を打ち出し続けられるのか?