去る4月6日には防衛省は、台湾の東岸370kmにて中国海軍の空母「山東」艦隊が活動していると報じた。艦隊はその後バシー海峡を抜け、空母・山東は初めて太平洋を航行したのだという。これは、台湾の蔡英文総統が米・ロサンゼルスでマッカーシー米下院議長と会談したことに怒った中国が、台湾近接で大演習を行った際の一連の動きの一つだ。
昨年5月に本サイトにて配信した記事「中国空母『遼寧』の訓練に隠された本当の目的」で、空母「遼寧」の実力を戦闘機の発着艦能力から推定した。この時の推察では中国の空母・遼寧はJ15戦闘機を9機搭載し機動部隊は8隻。米空母に40回以上発着艦し、乗艦取材しているフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう話していた。
「J15を9機搭載というのは、アメリカが擁する空母の約1/6の数です。中国の空母で行われた16日間で計300回の訓練は、1日平均で約20回の発着艦となります。
これはアメリカ空母の1個戦闘機飛行隊と同等の発着艦回数があったことになります。空母・遼寧は就役10年にして、飛行隊あたりの発着艦のペースはすでにアメリカ空母に追いついていると見ることができます」
防衛省発表では空母・山東の戦闘機発着艦は9日間で220回。飛行回数だけでは米空母の1個飛行隊と同じ水準が維持されている。
「2019年の12月17日に就役した空母・山東はまだ、海上試験、錬成期間中とされていましたが、今回太平洋側で作戦を行い、空母・遼寧よりも早く錬成期間を完了したと言えます。
すでに、実戦への投入が出来そうな状況のようです。米空母のように長期展開はできませんが、台湾程度の近距離では余裕で初期の戦力投射が可能だと思います」(柿谷氏)
山東は就役して3年4か月で実戦配備。10年かけて米空母に追いついた遼寧より、遥かに仕上がりが早い。
「宮古島沖で撮影された山東の写真を見ると、甲板にJ15戦闘機が12機確認できます。甲板の広さが同程度の遼寧より、3機増えています。艦上のハンドリングは機数が増えるほど難しくなります。山東の甲板員の作業能力は向上しているということです」(柿谷氏)
その空母・山東の作戦能力は今回、存分に発揮されたようだ。
「4月10日、延べ4機のJ15が防空識別圏に侵入したと台湾国防部は公表しました。これこそ、中国共産党が空母で長年やりたかった戦術です。台湾を包囲し、東からの攻撃パターンを確立することは、台湾にとどめを刺す位の大きな意味合いがあるのです。
中国海軍が作戦を立てる際に、遼寧と山東の二隻の空母が運用可能状態になりました。つまり次に考えられるのは、台湾東岸を南北に分けて二個空母艦隊を配置することです」(柿谷氏)
これにはかつて「第三次台湾海峡危機」が起きた際、米国にメンツを潰された中国がずっとこだわり続けている歴史がある。中国の台湾への挑発に対して米海軍は1996年3月、空母「インデペンデンス」と空母「ニミッツ」の二隻を台湾に派遣し、その結果中国は手も足も出せなくなった。
「この屈辱を中国は決して忘れてはいません。必ず、遼寧と山東の二隻の空母を使って仕返しに来ます。台湾東岸に中国空母二隻を配置して、米空母打撃群の台湾接近を阻止します」(柿谷氏)
さらに、中国空母艦隊は台湾包囲の次に日本包囲も想定しているはずだ。前記事で柿谷氏はこうコメントしていた
「2026年頃には、中国では3隻目の空母が就役しているタイミングです。今回、東シナ海で行ったような行動を、房総半島沖でも行っているでしょう。彼らは中国政府がよく言う『いちいち騒ぐな、慣れろ』を実行し続けているだけです」(柿谷氏)
今回の空母山東艦隊の行動はそこに一歩近づいている。4月17日の防衛省発表によると、この空母山東艦隊は4月10日から16日にかけて、宮古島南220kmから沖ノ鳥島沖南東370㎞の海域まで航行した。そこはフィリピン海だ。
2023年、中国は空母二隻体制で第二列島線を越えようとしている。その体制は台湾どころか、日本にも絶大な脅威を与えているのだ。