ポーランドはロソマク社の装輪装甲車をウクライナに供与する。写真はロソマクM3装輪装甲車。乗員3名、兵士8名を輸送できる(写真:ポーランド国防省)ポーランドはロソマク社の装輪装甲車をウクライナに供与する。写真はロソマクM3装輪装甲車。乗員3名、兵士8名を輸送できる(写真:ポーランド国防省)
4月1日、ポーランドのモラヴィエツキ首相は公式ツイッターで、ポーランド国内で製造した装甲車100両をウクライナに渡すと記した。代金は米国とEU負担だ。この動きに関して、元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)はこう話す。

「フィンランド、ポーランド、そしてウクライナの兵器戦略が完成しました。これまでは兵器を供給することで、与えた国をコントロール下に置くのが米とロシアの兵器戦略でしたが、それと今回の話は違います。NATO(北大西洋条約機構)諸国がお互いに、生産から修理に関することまで全て協力し合うという新しい兵器戦略です」

ポーランドが引き渡す「KTOロソマク8輪装輪装甲車」は、フィンランド・パトリア社開発のAMV(装甲モジュラー車両)をポーランドの軍需企業・ロソマク社がライセンス生産している。欧州の武器事情に詳しい元米陸軍大尉の飯柴智亮氏はこう語る。

「(開発した)パトリア社は社名が何回か変わっていますが100年以上の歴史を持ち、同国空軍FA18のライセンス生産もやっている"フィンランドの三菱重工業"のような会社です」

この8輪装輪装甲車はパトリア社が作った名機だといえる。

「今回のウクライナ戦争で、外が薄い装甲車では弾が貫通して駄目だと分かりました。KTOは一台に8名の兵員を乗せます。なので、100台で800名二個大隊弱がロシア軍防御部隊の火力をはねのけて前進できる攻撃態勢が出来上がった訳です」(二見元陸将補)

4月4日のAFP通信の報道によると、ドイツ・ラインメタル社がルーマニア北部のウクライナ国境に近い街に、ロシア軍との戦闘で使用した兵器の整備拠点を作るとのことだ。

「ドイツの戦車・レオパルトの主砲はラインメタル社製です。昨年、130mm砲を備えた『KF51パンター』新世代戦車を発表しました。最新兵器ですのでロシアに捕獲されないよう注意が必要ですが、ウクライナにテスト的に投入して、実戦データの収集を行うのかもしれません」(飯柴氏)

「ドイツ政府が整備拠点建造の許可を出し、これで完全に後方支援体制が出来上がりました。整備の優先順位はレオパルト戦車です」(二見元陸将補)

ドイツ・ラインメタル社はルーマニア北部のウクライナ国境近くに、レオパルト戦車の修理施設を作る(写真:柿谷哲也)ドイツ・ラインメタル社はルーマニア北部のウクライナ国境近くに、レオパルト戦車の修理施設を作る(写真:柿谷哲也)

ここでドイツ戦車の整備・修理をする。すでに戦闘で損傷したロシア製戦車を、ウクライナ軍はチェコで修理している。

「チェコは工業国で職人の腕が確かです。ウクライナに比較的近い東欧・チェコに戦車修理施設があるというのは、地政学的に見ても大変有利です」(飯柴氏)

「兵站というのは鈍重です。重たくて鈍いので事前の準備が必要です。そのため、流通経路を3本作る訳です」(二見元陸将補)

では、これらの後方整備拠点をロシア軍がミサイル攻撃すれば、NATO軍との全面戦争になるのだろうか。

「可能性は少ないですが、本当に攻撃されたならもちろん、そうなります」(飯柴氏)

ウクライナ軍は戦場に損傷した戦車を遺棄する事なく、後方の国外の工廠に運び込み修理。再び最前線に戦車を投入できる事になる(写真:柿谷哲也)ウクライナ軍は戦場に損傷した戦車を遺棄する事なく、後方の国外の工廠に運び込み修理。再び最前線に戦車を投入できる事になる(写真:柿谷哲也)

フィンランド、ポーランド、チェコ、ルーマニアのNATO加盟諸国の後方支援体制は、ウクライナ戦争の長期化への備えだろうか?

「それよりも、プーチンがやろうとしている"ネオソ連構築"に対抗するための布石だと思います。モルドバの沿ドニエストル共和国、ジョージアのオセチア共和国、アブハジア共和国など、ロシア製未承認国家群が次の戦争の火種となります。それに対する一手と見るべきです。

私のジョージアに暮らす私の友人は、『ウクライナ戦争が終わったら次はジョージアだ』と震え上がっています。何しろ首都・トビリシからオセチア国境(軍事境界線)まで30㎞しか離れていません。ロシア軍がその気になったら、あっという間にトビリシを制圧できます」(飯柴氏)

次に起こる戦争への対応であることは理解できた。ただ、一方で別の見方もある。

「これだけ後方支援体制を整えることができれば相当な兵器供給量になるので、いよいよ"壊滅作戦"が始まります。それは、完全にロシアが終わりになるまで戦争をやろう、という事です。

ドイツも当然、この座組みに入っていますし、ポーランドはもうそのつもりですね。ロシアは侮れないので、完全な体制を作りあげないと勝ちきれない、という考えがあるのではないでしょうか」(二見元陸将補)

ポーランドの本気度はその数値を見れば分かると、フォトジャーナリストの柿谷哲也氏は言う。

「ポーランド陸軍は韓国製K2戦車を180両輸入し、自国での820両の生産が決定しています。さらに、韓国製K9 155mm自走榴弾砲を212両輸入し、国内で今後460両生産します」(柿谷氏)

ポーランドは自国で韓国製K2戦車の製造を開始する。戦車戦が激しくなればこの戦車が投入されるかもしれない。(写真:柿谷哲也)ポーランドは自国で韓国製K2戦車の製造を開始する。戦車戦が激しくなればこの戦車が投入されるかもしれない。(写真:柿谷哲也)

すると、本気のポーランドがウクライナに引き渡すKTOロソマク8輪装輪装甲車100両に続いて、この自国生産した韓国戦車、自走榴弾砲をウクライナに供与することも十分考えられる。

「米国から流出した機密文書には『韓国製155mm砲弾33万発移送計画』の記載があり、ウクライナは米英仏から既に供与された155mm榴弾砲の他に、ポーランドからK2自走榴弾砲を入手できれば、韓国製砲弾を使えます」(柿谷氏)

足りないドイツ製戦車はK2韓国戦車で補い、後方からK9韓国155mm自走砲が援護する。そんな機甲戦闘が有り得るかもしれない。