米国機密文書の漏洩問題なども受け、各メディアではウクライナ軍(以下、ウ軍)の総反撃がいつになるのかが話題になっている。
一方、ロシア軍(以下、露軍)も死に物狂いだ。4月12日の時事通信の報道によると、露軍はウクライナ南部のザポロジエ州メリトポリ北部に、全長約120kmにも及ぶ三層構造の防御線築いたという。4月22日の読売新聞では、その防衛線は総計800kmにも及ぶと報じた。この状況を踏まえて、元陸自中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)に両軍の戦況を聞いた。
「陣地防御では、正面幅10kmと縦深(最前線から後方部隊までの距離)10kmを守るのに一個師団必要です。すると、メリトポリ北部正面で12個師団10万人。全長が800キロならば80個師団、計67万人の兵力が必要です。
そのような大兵力は今の露軍は持っていません。そのため、露軍の防御方式は広正面防御になります。当然、防御配備兵力の薄い弱点をウ軍が突きます」
ウ軍の兵力装備と攻撃方法は?
「私ならば戦力を逐次に投入するのではなく、必要な戦力を集中的に運用して露軍の第一線陣地を一挙に打通し、引き続き、攻撃衝力を維持して奥深くまで打通していきます。
メリトポリ北側の正面は、砲撃を主体とした1個旅団程度の兵力で攻撃を仕掛けます。これは露軍を吸引し、最前線に貼り付けるための陽動作戦であり助攻撃です。ウ軍の主攻撃は、露軍防衛線の薄い所にNATO装備の最強の六個旅団、兵力2万4,000名の打撃部隊(打撃旅団)によって露軍の陣地を一挙に破壊します。」(二見氏)
打撃旅団はドイツのレオパルト戦車とイギリスのチャレンジャー戦車を計180両。独マルダーと米ブラッドレー歩兵戦闘車が600両で編成されている。
「NATOの戦車はネットワーク戦闘が可能なので、ドイツの戦車がレオパルトA7クラスならば、迅速で正確なターゲティングにより、従来のウ軍T72の10倍の戦闘力を発揮するでしょう。ネットワーク戦車ならば、露軍戦車の射程外から目標発見即射撃、撃破ができます。この強力な打撃旅団により、マリウポリ北西から入り、アゾフ海まで抜けます」(二見氏)
露軍防衛線を突破した地点から第二梯隊『掃討旅団』が入る。
「露製武器T72戦車180両とBTR600両を装備した六個旅団兵力2万4,000名が戦域を綺麗にしていきます。ウ軍打撃旅団はメリトポリの露軍防衛線の横っ腹の柔らかい所に風穴を開けます。
第1線防御陣地を突き抜け、第2線陣地の中に入ってしまえば、露軍の組織的抵抗は崩れます。ウ軍掃討旅団がアゾフ海沿いを一気にクリミア半島の入り口まで進撃します。
この時露軍の防御組織が崩壊し、クリミア半島へ敗走する場合、レオパルト独戦車を使うウ軍打撃旅団により追撃を行いますが、そのままクリミアへ前進します。続いて、掃討旅団が奪還した地域をクリーンにしていきます」(二見氏)
露軍が"壊滅的敗走"まではいかない場合はどうするのだろう?
「ウ軍打撃旅団はクリミア半島の入口を越えて中に入り、橋頭堡を築いた時点で予備兵力の旅団と交代し、整備・補給に入り、戦力回復に入ります。同時に、そこは露軍の空爆を受けますから、対空火網を前進させます。入ったばかりのパトリオットミサイル、ゲパルト対空戦車、スティンガーで防空体制を早急に築く必要があります。」(二見氏)
クリミア半島には数万人単位の露軍敗残兵が溢れているのではないか。
「クリミア奪還の仕上げに入ります。クリミア大橋は壊さず、露軍敗残兵が渡り始めると、車両と人員で大渋滞が発生します。その時、手前から遠方に戦車砲、次に105mm榴弾砲、155mm自走砲で徹底的に砲撃により破壊します。湾岸戦争で米軍がやった砲撃版"死のハイウェイ"ですね。
そして、クリミア大橋が露軍敗残兵で一杯になった時点で、ハイマース(高機動ロケット砲システム)で大橋を破壊します。兵員と装備を破壊することによって、次の作戦に転用できないようにします」(二見氏)
まさに「死のクリミア大橋」の様相だ。ただ、このウ軍の反撃はいつ行われるのだろうか。
「米国機密文書が漏洩し、ウ軍の5月反攻が困難と言われていますが、逆に5月にやれば、露軍としては奇襲となります。
8月には戦力的には充分にはなりますが、今度は冬の到来で、攻撃期間が3か月短くなります。来年5月ならば、米軍のM1エイブラムス戦車も全て揃いますが、露軍の防御準備も完璧になっています。そうすると、敵が弱い時に叩かなければなりません。
私ならば、5月よりも6~8月にやります。今、南部にいる露軍はハイマースで大分叩かれて、露軍の通信、砲兵、弾薬兵站部隊がかなり擦り切れていますから。先に言いました反撃作戦がうまくいけば、7月の頭にクリミアの入り口に到達しています。
7月の2週目にはクリミアに入り、8~9月までに片付けて業者を沢山入れ、航空基地、レーダーサイト、兵站基地を作って半島を要塞化しないとなりません。警戒・警備、地域の安定化を行うことも考えれば、かなりの人員が必要となります」(二見氏)
ウ軍がドニエプル川を渡河して、へルソン南部に拠点を作ったとの報道があるが...?
「へルソンから渡河攻撃すれば、クリミアからは最短距離なので、私ならば『行くぞ!』と陽動で使います。その後は渡河が可能の橋を架けて、補給物資を流します。クリミアで露軍戦力を徹底的に漸減できれば、今年の冬までには戦争は終結間近まで進むでしょう」(二見氏)
冬にはウクライナに平和が戻る事を切に願う。