MQ-28ゴーストバットの外見は最近のステルス戦闘機のデザイントレンドを踏襲している。表面に凹凸のない細長くフラットな胴体、左右に突き出た主翼。尾翼の傾きもレーダー波による探知を避けるべくステルス性を考慮している MQ-28ゴーストバットの外見は最近のステルス戦闘機のデザイントレンドを踏襲している。表面に凹凸のない細長くフラットな胴体、左右に突き出た主翼。尾翼の傾きもレーダー波による探知を避けるべくステルス性を考慮している

オーストラリア空軍とボーイング・オーストラリア社が共同開発中で、2021年に初飛行に成功していたAI無人戦闘機「MQ-28ゴーストバット」の機体が、ついに世界初公開された! 「有人機と無人機のチームプレー」というコンセプトの下で生まれた最新兵器の姿を、現地で取材した布留川司氏がリポートする。

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■50年ぶり新型機はAI無人戦闘機

今年の2月末から3月上旬にかけて、オーストラリア南東部の大都市メルボルン近郊のアバロン空港で開催された国際エアショー「アバロン2023」。

新型コロナの影響で4年ぶりの開催となった南半球最大規模のエアショーは、主催者であるオーストラリア空軍の軍用機によるデモフライトなどもあり大いに盛り上がったが、特に注目されたのはこのたび初公開されたひとつの「機体」である。

エンジンの地上試験を行なった際の写真。エンジンの推力や最大速度はまだ非公開だが、その能力は「戦闘機に追従可能」とされている エンジンの地上試験を行なった際の写真。エンジンの推力や最大速度はまだ非公開だが、その能力は「戦闘機に追従可能」とされている

オーストラリア上空での試験飛行時の写真。初飛行は2021年2月に行なわれ、すでに脚部の出し入れにも成功している オーストラリア上空での試験飛行時の写真。初飛行は2021年2月に行なわれ、すでに脚部の出し入れにも成功している

オーストラリア空軍とボーイング・オーストラリア社が開発中の「MQ-28ゴーストバット」。パイロットや乗員が搭乗しない最新鋭の無人機で、機内コンピューターに搭載されたAIが機体を制御する。

会場にいたパイロットと思われる海外の軍関係者は、自分の職が奪われる可能性をネタにして「これは悪い飛行機だね」と笑っていた。

ただし、MQ-28は空の戦いから人間を完全に排除するわけではない。この機体の最大の特徴は、すでに世界各地で実戦投入されているような従来の無人機とは異なり、パイロットが操縦する有人戦闘機と連携して作戦を行なえることにある。

オレンジ色のノーズ部分は交換可能になっており、任務に応じたモジュラーを装着することで、偵察や電子戦などさまざまな作戦に対応させることができるというコンセプト オレンジ色のノーズ部分は交換可能になっており、任務に応じたモジュラーを装着することで、偵察や電子戦などさまざまな作戦に対応させることができるというコンセプト

MQ-28の機体先端にはモジュラー式ペイロードと呼ばれる部分(オレンジ色のノーズ部)があり、ここを作戦に応じたモジュラーに交換することで、戦闘、偵察、電子戦といったさまざまな作戦に対応できるという。

オーストラリアで新型航空機が開発されるのは50年ぶりということもあり、今回のエアショーではオーストラリア空軍の主力機である「F-35ライトニングⅡ」や「F/A-18スーパーホーネット」と並べて展示され、その期待の大きさがうかがえた。

無人機と有人機を組み合わせることのメリットは、単に戦力を増強させることだけではない。攻撃や前方での偵察・探索活動といった敵から反撃を受ける可能性がある危険な任務を無人機に行なわせることで、育成が困難なパイロットや極めて高価な最新鋭有人戦闘機の被害を防ぐという役割も期待できる。

機体の全長は11.7m、全幅7.3mと、航空自衛隊のT-4練習機よりひと回り小さい程度。戦闘機との連携作戦を想定し、速度や航続距離も同レベルの能力があると思われる 機体の全長は11.7m、全幅7.3mと、航空自衛隊のT-4練習機よりひと回り小さい程度。戦闘機との連携作戦を想定し、速度や航続距離も同レベルの能力があると思われる

着陸用ギアは戦闘機と同じ前後3点方式。機体は再利用が前提のため、造りは頑丈そうだ 着陸用ギアは戦闘機と同じ前後3点方式。機体は再利用が前提のため、造りは頑丈そうだ

コックピットがないため機首上部はフラット。無人機らしい不気味な雰囲気のシルエットだ コックピットがないため機首上部はフラット。無人機らしい不気味な雰囲気のシルエットだ

■戦闘機以外の兵器にも広がるコンセプト

有人機と無人機を組み合わせて部隊運用するコンセプトは、以前は「ロイヤル・ウイングマン」(忠実な僚機)と呼ばれたが、現在は「MUM-T」(Manned-Unmanned Teaming:有人機・無人機チーミング)と呼称され、類似した計画が世界中で研究されている。

特にアメリカでは、AIによる戦闘機の制御と空中戦への介入に関する研究が複数のラインで行なわれており、次世代軍事技術の研究機関であるDARPA(国防高等研究計画局)は「ACE」(Air Combat Evolution)というプログラム名で2019年から進めていた。

また、米空軍が進める次世代戦闘機プログラム「NGAD」(Next Generation Air Dominance)では、第6世代の有人戦闘機と「CCA」(共同戦闘機)と呼ばれるAI搭載無人機との連携能力が盛り込まれており、将来的に1000機の無人機の配備を計画しているという。

このCCAはまだ具体的な機種が決まっておらず、複数のメーカーが新型無人機を開発して正式採用を競っているが、今回取材したMQ-28もその候補のひとつとなっている。

エンジンは単発式。公表されている航続距離は約3700㎞と、有人機に引けを取らない エンジンは単発式。公表されている航続距離は約3700㎞と、有人機に引けを取らない

垂直尾翼部。「ゴーストバット」とは、豪州大陸北部で見られるコウモリの名前である 垂直尾翼部。「ゴーストバット」とは、豪州大陸北部で見られるコウモリの名前である

さらに言えば、このMUM-Tという概念は、戦闘機だけでなくほかの兵器プラットフォームへの適用も始まっている。

例えばアメリカ製の攻撃ヘリコプター「AH-64アパッチ」や、輸出が好調な韓国の自走砲「K-9」などでも、将来開発される発展型では無人航空機などの無人兵器との連携運用が模索されているようだ。

特に韓国の防衛産業では、自国の少子化による将来の隊員不足を見据えており、MUM-Tも含めた兵器の無人化計画に積極的に取り組んでいるという。

ウクライナの戦場を見てもわかるとおり、すでに無人化された兵器は実戦で活躍している。しかし、MUM-Tというコンセプトが発展していけば、さらに緊密な人間と無人兵器の協力関係、そして有人機と無人機がチームとして戦う空中戦が、遠くない未来に現実化するかもしれない。

■有人機&無人機連携作戦の運用イメージ

MQ-28のキーポイントは単独での戦闘能力よりも、有人機との連携で航空部隊全体の能力を向上させること。コンセプトビジュアルでは戦闘機以外にも早期警戒管制機とペアで飛んでおり、さまざまな軍用機との連携が想定されているようだ。

■鋭意開発中! アメリカ軍のAI無人戦闘機

AIを機体制御や空中戦への介入に用いる分野でトップを行くのはやはりアメリカ。各種技術やコンセプトの研究・開発が進んでいる。

●XQ-58 ヴァルキリー 
クラトス社が開発中の無人戦闘機。当初は損耗型として計画されていたため、機体にはランディングギアがなく、機体内部のパラシュートを開いて胴体着陸する方式となっている。胴体下部にウェポンベイがあり、すでに空中でここから小型の無人機を投下する実験にも成功している。

●X-62 VISTA 
F-16ファイティングファルコン戦闘機をベースにした試験機。1992年より各種試験飛行で使われていたが、最近の改修によってAIによる自律制御システムの試験が可能となった。2022年末には合計17時間にも及ぶAI制御下での空中戦を前提とした試験飛行が行なわれた。

●ギャンビット 
GA社がコンセプトを提唱している無人機シリーズ。開発期間の短縮とコスト削減のために、エンジンを含めた共有パーツ「ギャンビットコア」を使い、任務に応じて戦闘攻撃機、ステルス偵察機、訓練用標的機、センサー機などの派生型をそろえる構想だ。