もはや説明不要の大スター・BTS。人口約5170万人の韓国が国内市場を超えるべく、世界に挑んで大成功したコンテンツである もはや説明不要の大スター・BTS。人口約5170万人の韓国が国内市場を超えるべく、世界に挑んで大成功したコンテンツである
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。『#佐藤優のシン世界地図探索』ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT open source Intelligence》「オープンソースインテリジェンス 公開された情報」を駆使して探索する!

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――前回の連載第5回目では、日本人は英語が下手がゆえにアメリカの隷属国にはならない、との探索結果が出ました。であれば、お隣の韓国のK-popが米国を席巻しているのは、彼らの英語が上手だからなのですか?

佐藤 韓国国内のマーケットは、総人口の5174万人分しかありません。BTSほどのアイドルグループが、韓国語圏だけで成立するのは無理です。必然的に英語、日本語、中国語のうち最低2か国語をマスターしなければ、十二分なマーケットを確保できません。

1億7,000万人の人口を抱えるロシアからは、独自のいろいろなタイプの歌手が出て来ています。「ジャージャ.ボーヴァ」の歌ですとか。

――何ですかその歌は?

佐藤 ジャージャとは「おじさん」、ボーヴァとは「プーチン」の名前・ウラジミールの愛称、つまりプーチン大統領の事です。「プーチンさん、悪い奴をやっつけて下さい!』と言う歌なんです。

――すごい歌ですね。すなわち、ロシア国内で十分にマーケットが確保されているから、海外ではあまり知られていない。

佐藤 そうです。それから、ドネツクのドンバスの住民を守るためのロック大会などもありますね。ロシアの国民的歌手であるタタール人のアルスー...日本でいえば故・美空ひばりさんのような歌手も、プーチンのフェスティバルでロシア国歌を歌ったりしています。だから、ロシア国内では独自の"生態系"が発展しているのです。

中国は一部のエリートを除き、中国語だけで生活していますし、アラブ諸国はアラビア語空間の中にそれぞれ独自の歌手が沢山いるんです。

――自国の人口に比例して、音楽をはじめとしたエンタメ市場の規模が決まるんですね。ということは、国内市場の大きさが、その国の豊かさを規定するのですか?

佐藤 そうなりますね。そこで視点を日本国内に戻すと、問題はこの先、どの位のペースで人口が減っていくかということになります。

人口8000万人を維持できれば、国内マーケットだけで生きていける。しかし、5000万人まで減ってしまうと韓国と同じで絶対無理でしょう。つまり、今後の人口政策が非常に重要になってきます。

――岸田首相が年頭の記者会見で「異次元の少子化対策」を掲げました。これで人口が激増しませんかね?

佐藤 このタイミングで「外国人技能実習制度」を止めるのはインパクトが大きいです。これを普通に解釈すれば、日本への移民の道を開くことになるからです。

「異次元の少子化対策」で日本人の人口を増やし、そこに移民がプラスされることで国内の人口を増やしていく。この2つの軸によってなんとなく今の日本が切り替わろうとしていますね。

――この2軸が足並みを揃えるというのは、この連載の第2回目でも取り上げた岸田首相の"偶然力"が成せる業なんですかね?

佐藤 偶然、政策のタイミングが重なったのだと思います。日本人の子供を増やそうとしているグループと、移民を増やそうとしているグループが独自に行動しているだけで、その間は全く繋がってないと思います。

――これは岸田首相の持つ「運」なのでしょうか?

佐藤 コロナ禍のような非常時ですと、議会の手続きをスルーして行政権力が走ってしまいますからね。行政権の優位が進行している現状も背中を押しているのでしょう。

――ちなみに、"異次元の子育て"はうまくいくのでしょうか?

佐藤 これは簡単に言えば「結婚奨励策」ですよね。世帯所得が年間300万円だと、子供を作るどころかまともな生活ができない。これを、年間の世帯所得を600万円程度に持ってくるという政策です。

ただ、なかなかメドが立たないと思います。吉野家のバイトさんの時給が1500円だと成り立たないという問題がまだありますから。

――私が非常勤講師をしている筑波大学のある茨城県の最低賃金は時給911円ですね。学生に聞いたところ、本屋さんでのアルバイトの時給がこの金額でした。

佐藤 書店の経営状態を鑑みたとき、時給1500円にしたら商売が成り立つかということです。正社員でもその金額は厳しいでしょう。ただそれが、今の日本の資本主義の現実ですね。

次回へ続く。次回の配信予定は5/12(金)予定です。

撮影/飯田安国 撮影/飯田安国

●佐藤優(さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。