3月16日に発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲17」型に設置されたカメラで宇宙から撮影したとみられる地球の画像。もはやこの美しい地球そのものが持つかどうかも分からないのだ 3月16日に発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲17」型に設置されたカメラで宇宙から撮影したとみられる地球の画像。もはやこの美しい地球そのものが持つかどうかも分からないのだ
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。『#佐藤優のシン世界地図探索』ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT open source Intelligence》「オープンソースインテリジェンス 公開された情報」を駆使して探索する!

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――フランスの知の巨人、エマニュエル・トッドさんは、近年の中国国内の人口増加率から判断すると、中国が世界を制覇することは出来ないと言っています。またトッドさんは、全人口の25%がエリート教育を受けた後に旧ソ連が崩壊した、とも言及しているのですが、まもなく中国がその25%に達します。

私は今後は米国が収縮し、中国が膨張すると思っていたのですが、違うようですね。トッドさんは、やがて中国も収縮し崩壊する危険性がある事を示唆しています。

フランス人のトッドさんにとっては遠い所で起る大崩壊かもしれませんが、日本にとっては隣で起きる大崩壊じゃないですか?

佐藤 その中国の崩壊が、ドラスティックな形で起こらないようにする事が重要です。

――どうやるのですか?

佐藤 私は、今後中国が弱体化していく状況を冷静に見て、中国が冒険主義的な方向に走らないようにする配慮が必要と思います。中国を封じ込めるのではなく、関与を強めていったほうが良いと思います。

ビジネスを普通にやれていれば、何かあった時にも過剰に反応する必要はないですし。先日訪中したフランスのマクロン大統領の発言が報道されましたよね。

――NHKの報道によると、台湾情勢について「最悪なのは台湾の問題に関して、アメリカの歩調や中国の過剰な反応に合わせるように、ヨーロッパの国々が追随しなければいけないと、考えることだ」と言っていました。

佐藤 はい。「中国は一つだ」というのは中国の問題なので、それに対して過剰に反応しないし、アメリカと共同路線は取らないとマクロンは明言しました。アメリカの中国との対決政策とは違う。その方向性のほうが良いと思います。

あのバイデン米大統領のやっている、関税を使っての中国とアメリカの経済的なデカップリングなどできるはずがないですから。

――FNNプライムオンラインの報道によると、マクロン大統領はデカップリングに関して、「中国と関係を断つのは狂気の沙汰だ」と語ったとのことです。米国内で生活する凄まじい数の低所得者層は、中国から輸入される大量の安価な商品が無ければ暮らしていけませんからね。

佐藤 だから、アメリカの言っている事は"無理筋"なんです。日本としては、流れに過剰に反応せず、余計な喧嘩もせず、なおかつナメられないようにする。それにはやはり外交が重要なのです。

――アメリカが収縮して中国が膨張するというのは?

佐藤 それは短中期的な話で、今後はアメリカが収縮して、その後に中国も収縮していく。長期的な視点で見ると。これから膨張していくのはおそらくインドとアフリカでしょう。

――その2か所ならば、遠い日本は安心ですね。

佐藤 そうとも言えません。今後アフリカが膨れ上がっていったらどうなるか。まだアフリカは産業が興っていないうえに、人口はますます増加します。

――2019年の国連の予測によると、アフリカのサハラ砂漠以南の人口は、2019年に10億6600万人、2050年には21億1800万人、2100年にはなんと38億人に達するそうです。22世紀にはいまの中国2個分の人口がアフリカにいることになります。

佐藤 それだけの人口がいて、ほとんど資源も開発されていない。石油と金の埋蔵量が世界で一番多いと見られているのがアフリカですからね。ここで本格的に近代化が始まった場合、そもそも地球の生態系が持ち堪えられるかという問題があります。

これから運動靴を履き、水道・電気・ガス供給網が整備される。それが加速度的に進んだら、世界の構造は変わりますよね。

――アフリカ大陸全てにおいて、ですか?

佐藤 国民が英語を話せる国々は比較的発展しています。発展が遅れているのはフランス語を話すセネガル、中央アフリカ、ニジェール辺りです。この辺の地域に近代化の余地がうんとあると思います。

――とても恐ろしいイスラム過激派武装組織が跋扈(ばっこ)しているところですね。フランス軍はそこから続々と撤退しています。

佐藤 ニジェールやコンゴ民主共和国にはウラン、ダイヤモンドがたっぷりとありますね。

――金とウランがあれば、核兵器武装化は案外早そうです。アフリカ諸国が「モノを作れる国」へとなっていったらすごいですね。

佐藤 本当に世界は激変します。そうなると、「グローバルサウス」と呼ばれるインド、アフリカ、インドネシア、ブラジルの発言力が明らかに強くなってきます。

これらの地域や国々は経済発展重視の考えですから、先進国が引き起こしてきた地球温暖化問題などについては当然後ろ向きです。ですので、地球生態系が持つかどうか、という話になります」

――グローバルサウスの"シン世界膨張"で、地球は滅亡に向かうのでしょうか...。

次回へ続く。次回の配信予定は5月下旬予定です。

撮影/飯田安国 撮影/飯田安国

●佐藤優(さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。