スーダン国軍と戦うRSFのメンバー。兵力は10万人に上るとされ、リビア内戦やイエメン内戦にも参戦したスーダン国軍と戦うRSFのメンバー。兵力は10万人に上るとされ、リビア内戦やイエメン内戦にも参戦した

スーダン国軍と同国の準軍事組織RSFの衝突は4月15日の勃発以来、停戦合意がたびたび破られ、収束の見通しが立たない。この戦闘にはロシアの民間軍事会社ワグネルが深く関与しているという。スーダンのみならず、アフリカ諸国で影響力を強めるロシアの狙いは何か?

■「大統領防衛隊」が大統領を見限る

4月15日に首都ハルツームで突如として国軍と準軍事組織RSFの戦闘が始まり、事実上の内戦状態に突入した、北東アフリカの国、スーダン。

激しい戦闘が続く中、各国政府や軍の支援でスーダン在住の外国人が国外に脱出。日本政府も自衛隊機を派遣し、厳しい状況下で在留邦人の退避に成功したニュースは国内でも大きな注目を集めた。

スーダンでは2019年4月に30年間続いていたバシール大統領の独裁政権が崩壊。将来の民政移管に向けて軍民の共同統治が始まったが、21年10月には再び軍によるクーデターが勃発した。

この首謀者で国軍トップのアブドゥルファッターフ・ブルハン将軍が暫定政権の議長に就任した。準軍事組織のRSFを率いるモハメド・ハムダン・ダガロ司令官が副議長を務める形で、軍事政権が政府の実権を握ってきた。

その後、昨年から国連などの支援で新たな民主化のプロセスが動き出していた中で起きた今回の武力衝突は、民政移管後の軍とRSFの統合を巡り、この機会にRSFを完全に吸収してしまいたいブルハン将軍派の国軍と、民政移管後も独立した組織として主導権を握りたいダガロ司令官派のRSFの対立が表面化したためだといわれている。

そして、このRSFと深い結びつきを持ち、スーダン内戦の陰でひそかに暗躍しているとみられるのが、ロシアによるウクライナ侵攻でも大きな存在感を放っている民間軍事会社の「ワグネル」だ。

そのワグネルとスーダンの関係について触れる前に、まずはRSFについて簡単に説明しておこう。

RSFは正規軍とは別に組織された国家情報機関直属の準軍事組織「即応支援部隊」の略称。その母体は2003年から現在も続き、世界最悪の人道危機といわれる「ダルフール紛争」で、非アラブ系住民の虐殺など数々の残虐行為を行なったといわれているアラブ系の民兵組織「ジャンジャウィード」だ。

「RSFは当初、バシール大統領の『親衛隊』のような役割を与えられていました」と語るのは、日本在住のスーダン人で、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員のモハメド・オマル・アブディン氏だ。

「反政府勢力の反乱をきっかけに始まったダルフール紛争で非アラブ系住民への迫害を続けていたバシール大統領は、『正規軍よりも小回りの利く機動性の高い部隊』をつくろうと、ジャンジャウィードを再編して、RSFを設立しました。

そのRSFがダルフール紛争で成果を上げる中、急速に存在感を増したのが、通称〝ヘメッティ〟と呼ばれるRSFのモハメド・ハムダン・ダガロ司令官です。

2月9日、ハルツームを訪れたロシアのラブロフ外相(左)と会談する、スーダン「即応支援部隊(RSF)」のトップ、ダガロ司令官2月9日、ハルツームを訪れたロシアのラブロフ外相(左)と会談する、スーダン「即応支援部隊(RSF)」のトップ、ダガロ司令官

自らも1989年のクーデターで実権を握ったバシール大統領は、今度は国軍が自分に対してクーデターを起こすことを恐れて、国軍を抑える『大統領防衛隊』的な組織としてRSFに白羽の矢を立てました。

そして、ダルフール地方の金の採掘権をRSFに与えるなど、手厚い支援を与えたことからRSFは急激に規模を拡大。やがてサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)が支援するイエメンやリビアの紛争にもRSFは傭兵を派遣するようになり、これらの国からも支援を受けながら関係を深めていきます。現在は主にUAEから支援を受けています。

こうした傭兵ビジネスや金の採掘利権を通じて巨万の富を手にしたヘメッティのRSFは、その後も順調に拡大を続けていきました。19年の民衆蜂起の際には、ダルフール紛争における『人道に対する罪』で国際刑事裁判所から逮捕状が出ていたバシールを見限って、国軍と拮抗するほどの勢力を持つようになる。

その過程で着々とRSFとの結びつきを強めてきたのが、ロシアの民間軍事会社『ワグネル』なのです」

■武器供与の見返りに金の採掘利権

RSFとワグネルをつなぐひとつ目の鍵は「金(きん)」だ。

スーダンはナイル川沿いに豊かな穀倉地帯を持ち、鉱物資源も豊富。とりわけ金の産出量は世界10位の年間90t(2020年)を誇るが、前述したとおり、RSFが金の採掘利権を握っている。

RSFはワグネルと契約して武器の供与や軍事訓練などを受けているといわれるが、その見返りが金の採掘に関わる利権なのだという。

米CNNの報道によると、ワグネルはRSFに対する軍事訓練のほかに、地対空ミサイルなども供与する一方で、スーダンで採掘される金の精製権をワグネルの関連会社が独占している。

スーダンからシリア国内にあるワグネルの基地を経由してロシアへと持ち出された金はすでに数十億ドルに上り、ウクライナ侵攻の資金源になっているとみる向きもある。

ちなみに、戦闘機なども含めてスーダン軍の武器のほとんどがロシア製で、ロシアは国軍にもRSFにも兵器を供給している。

いわば、同じリーグ内にふたつの強豪チームを持つオーナー企業のようなもので、ロシアにとっては、内戦が長期化してくれたほうが好都合なのかもしれない。

「ただし、ワグネルは利益を追求する民間の軍事会社なので、カネになるなら国軍とRSFのどちらが勝とうが構わない。RSFのほうがカネ払いがよければ、当然、そちらにつくのではないでしょうか」とアブディン氏。

確かに、ウクライナで多大な損害を被ったワグネルにとっては、オマケに金の採掘利権もついてくるこちらのビジネスのほうがはるかにうまみがあるといえるかもしれない。

■フランスの〝裏庭〟を荒らすロシア

RSFとワグネルをつなぐふたつ目の鍵は、ウクライナ侵攻で国際社会から孤立する中、アフリカへの政治的影響力を高めたいロシアの思惑だ。
 
22年3月、国連総会でウクライナからの軍の即時撤退をロシアに求める決議案の採択が行なわれた際、35の国が棄権したが、その半数がスーダンを含めたアフリカの国々だった。

「ロシアは軍事ビジネスを通してアフリカでの影響力を強めようとしています」とアブディン氏は指摘する。

「アフリカのサハラ砂漠以南、スーダン、チャド、マリ、ニジェールなどの国々は、もともとフランスの支配地域でしたが、ロシアは今、そこに挑戦していて、スーダンはその最前線なのです。

すでに中央アフリカはロシアの影響下にあり、昨年クーデターが発生したブルキナファソは新政権発足後すぐにフランスとの軍事支援協定を破棄。その隣のマリでも反フランスの政権が成立していますが、背後にはいずれもロシアの存在があります。

ウクライナ戦争には『EU対ロシア』という側面がありますが、ロシアがアフリカというフランスの〝裏庭〟を荒らすことで、ドイツと並んでEUの盟主であるフランスの圧力を和らげる外交カードになるからです。

歴史を振り返れば、フランスもアフリカの資源を散々収奪してきたので、そうしたフランスへの反感を利用することで、ロシアがこれらの国々に入り込みやすいという面もあったと思います。

ちなみに、RSFの動員の母体はスーダンだけでなく、周辺のチャド、ニジェールなどにも暮らす越境民族ですから、RSFはロシアがアフリカでこれらの地域を落とすための『手先』としても、使いやすいのではないでしょうか」

こうしたロシアの政治的野心を背景にアフリカ諸国で軍事ビジネスを展開するワグネルと、そのワグネルと金の採掘利権で結びつき、傭兵部隊としてスーダン以外の内戦や紛争にも関与するRSF。

どちらも自国の「正規軍」と張り合うほどの兵器や規模を持ちながら、カネのため、利益のために「戦争ビジネス」を展開する組織だというのは、ある意味、現代的だといえるかもしれない。

アブディン氏はそんなRSFを企業になぞらえて「RSFホールディングス」と呼んでいる。

「RSFの事業の柱は3つあり、ひとつは前述した傭兵部門。RSFはイエメンの紛争に3万人を派遣したほか、リビアやチャド、中央アフリカの紛争にも関与しています。

ふたつ目は金の採掘事業。こちらもスーダンで味をしめて中央アフリカ、チャド、ニジェールなどでもやっている。

そして3つ目が国境警備事業。これに関しては、実はEUもRSFを活用してきた過去があります。

2011年以降、『アラブの春』でシリアやリビアが崩壊し、ヨーロッパに何百万人という難民の波が押し寄せた。いろいろなルートがありましたが、そのひとつがスーダンルートでした。スーダンは難民をヨーロッパに送り出してしまう中継国だったんです。

この難民の流れをなんとか食い止めたいEUは、難民の通過ルート上にある国の国境警備の強化を支援する『ハルツーム・プロセス』という枠組みを作ったのです。

その費用として2億ユーロを受け取ったバシールは国境警備にRSFを任命。RSFはここでも難民に対して残忍なことをやったので、それを機に難民の流れがピタッと止まったといわれています。

もちろんEUが直接、国境警備のためにRSFを雇ったわけではありませんが、結果的にEUの拠出した巨額のカネが悪名高いRSFに流れていたというのは事実なのです」

■日本経済にも無関係ではない

ちなみに、民間軍事会社や準軍事組織の広がりはロシアやスーダンに限ったことではない。アメリカにも「アカデミ社」(旧ブラックウォーター社)など多くの民間軍事会社があり、イラク戦争では同社の兵士が民間人の虐殺事件を起こしている。

自国の政治的利益のために貧しい国々を利用しようとする大国の存在と、その手足となってカネのために戦う、こうした「戦争の犬たち」がいる限り、内戦や紛争は決して終わらないだろう。そして、その犠牲となるのは常に、罪もない一般の市民たちだ。

アフリカは人口増加が著しく、2050年には世界人口の4分の1がアフリカ人になるといわれている。経済成長の可能性があることから、欧米や日本、ロシア、中国などが熱い視線を寄せている。

だが、ウクライナ侵攻や台湾問題を巡って、米欧日などの西側諸国とロシア・中国との対立で世界の分断が深まる中、豊富な天然資源を持つスーダンがこうして内戦に明け暮れている現実に、なんともやりきれない気持ちになる。

しかし、邦人が無事に退避を終えた日本ではスーダン内戦の注目度は決して高くない。そんな状況をスーダン出身のアブディン氏はどのように感じているだろうか?

「少し悲しいけれど、遠い国で起きていることを『自分のこと』のように考えるのは誰にとっても難しいので、それは仕方ないと思います。

ただし、ソマリア情勢の悪化で海賊問題への対応を迫られたように、この先スーダン情勢が不安定になり、その結果、紅海沿岸の安全が脅かされれば、日本からヨーロッパへの輸出品を載せた船や、サウジアラビアなどの湾岸諸国から日本に原油を運ぶタンカーなど、紅海からスエズ運河を通る海運に影響が出て、日本のエネルギー安全保障や経済全体が大打撃を受けることは避けられない。

また、ロシアはスーダンに対し紅海の要衝である海軍基地を提供するよう求めており、これに国軍トップのブルハンが応じる可能性もある。

そう考えると、少なくとも遠いスーダンで起きていることは日本にとっても、対岸の火事ではないということは理解したほうがいいかもしれません」

ロシアのウクライナ侵攻の影響はスーダンの内戦にも暗い影を落としている。「プーチンの戦争」が引き起こした分断と、世界を股にかける「戦争ビジネス」のプロたちがアフリカの国々をも引き裂こうとしているのだ。

モハメド・オマル・アブディン氏。1978年生まれ、スーダン・ハルツーム出身。生まれたときから弱視で、12歳で視力を失う。98年に来日し、福井県立盲学校で鍼灸を学んだ後、東京外国語大学、同大学院を経て、2014年に博士号取得。現在、民間企業に勤務、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員モハメド・オマル・アブディン氏。1978年生まれ、スーダン・ハルツーム出身。生まれたときから弱視で、12歳で視力を失う。98年に来日し、福井県立盲学校で鍼灸を学んだ後、東京外国語大学、同大学院を経て、2014年に博士号取得。現在、民間企業に勤務、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員