G7経済界サミットであいさつする岸田首相。動かず利を得ることが果たしてできるのだろうか...。 G7経済界サミットであいさつする岸田首相。動かず利を得ることが果たしてできるのだろうか...。
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。新連載「#佐藤優のシン世界地図探索」ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――G7広島サミットが5月19~21日で開催されます。岸田首相はこれまで本連載で言及してきた"偶然力"を駆使し、無事切り抜けられそうでしょうか?

佐藤 切り抜けられると思います。まず、日本の立ち位置は特殊ですよね。G7でロシアと直接、国境を接しているのは日本だけです。アメリカもベーリング海峡でロシアと国境を接していますが、これはアラスカという飛び地にすぎません。隣国と大喧嘩はできないので、ここが他のG7諸国と環境が違う所です。

――G7の中で唯一、フィンランドとウクライナ、バルト三国と同じ環境にいるのが日本ということですか。

佐藤 そうですね。

――佐藤さんはこの連載の第2回でこうおしゃっていました。

日本は「防衛装備移転三原則」により、侵略されている国には殺傷能力のある兵器を送れるのですが、ウクライナに兵器を供与する気はありません。

つまり、日本が提供した兵器で殺傷されているロシア兵は一人もいません。これは戦争終結後、日本にとってものすごくプラスになります。日本は軍事で協力せず、結局口先で非難しているだけなので、G7で唯一、言行不一致な国になるのですが。

佐藤 それが日本として、これまでと違ったことをやれるとすると、それが『殺傷力を持つ兵器の供与』になるのか、ということですよね?

――はい。4月26日の中日新聞WEBの報道では

「自民、公明両党は25日、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」を巡り、運用指針の見直しに向けた実務者協議の初会合を開いた。政府、自民にはロシアによる侵攻が続くウクライナのような国への支援や国内の防衛産業育成のため、殺傷能力を持つ武器の輸出を解禁したい思惑がある。ただ公明は慎重で、解禁の是非が最大の焦点となる」

とありました。

佐藤 その一回目の協議では公明党に蹴飛ばされて、次の協議はサミットの後です。だから、日本は方向転換することはできないです。ロシアを口先で非難しても、実質は何も変わりません。

ここでポイントになるのは、4月27日の聖教新聞に掲載された池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長(創価学会名誉会長)が「危機を打開する"希望への処方箋"を」と題する提言です。日本のメディアでは軽視されているのですが、少し長くはなりますが引用します。

「5月19~21日に広島市で開催されるG7サミット(主要7カ国首脳会議)に向けて、4月27日、池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長(創価学会名誉会長)が『危機を打開する"希望への処方箋"を』と題する提言を発表した。ウクライナ戦争との関連で池田氏は、2月の国連総会における決議を重視する。

<具体的な項目の一つとして、『重要インフラに対する攻撃や、住宅、学校、病院を含む民間施設への意図的な攻撃の即時停止』が盛り込まれましたが、何よりもまず、この項目を実現させることが、市民への被害拡大を防ぐために不可欠です。

その上で、『戦闘の全面停止』に向けた協議の場を設けるべきであり、関係国の協力を得ながら一連の交渉を進める際には、人々の生命と未来を守り育む病院や学校で働く医師や教育者などの市民社会の代表を、オブザーバーとして加えることを提唱したい」

公明党は創価学会を支持母体としているので、創価学会の立場に縛られます。自民党はその公明党と連立を組んでいるから、公明党の立場に縛られています。この三段論法が分かっていれば、創価学会がこのスタンスを示した以上、そこに全部コミットするのが今回のサミットです。だから、池田大作氏の声明で、広島サミットはある種の「枠」にはめられたのです。

すなわち「ウクライナ頑張れ! 徹底抗戦だ!」という方向ではなく、一日も早く戦争を収めようと。だから創価学会も3月21日の「中露共同声明」を評価している。すると、公明党もそっちに舵を切らねばなりません。

また、「核廃絶」の方向に進むべきだと唱える創価学会の箍(たが)がはめられているので、自民党内で勇ましい事を言っている人たちの方向には行けません。これを丸々は飲めないけれども、ウクライナに殺傷能力のある兵器を日本が送るとか、ウクライナにコミットを高める方向にも行けません。

――池田大作SGI会長の声明発表はサミットを睨んでのことなんですか?

佐藤 もちろんです。殺傷能力のある兵器提供がサミットで決定すると、日本は引き戻せなくなります。池田氏の声明には"勇ましい動き"を封じ込める効果がありました。

――すなわち、ウクライナ戦争が終わる時に、日本が両国の和平の仲介役になることができなくなる。

佐藤 そうです。だから、日本がサミットでどう振る舞うのが一番いいのかと言うと、今のままの方針を貫いて、余計な事をしないのが一番いいと思うのです。

次回へ続く。次回の配信予定は5/26(金)予定です。

撮影/飯田安国 撮影/飯田安国

●佐藤優(さとう・まさる) 
作家、元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。