通常国会が終わる6月末に衆議院を解散し、7月投開票の総選挙に打って出るという岸田首相 通常国会が終わる6月末に衆議院を解散し、7月投開票の総選挙に打って出るという岸田首相

G7広島サミット(先進7ヵ国首脳会議)で世界中から注目された岸田首相。支持率が上がっているこの時期に解散・総選挙を行なえば、自民党は大勝するかもしれない......。その可能性はあるのか? そして、新区割りはどのような影響を及ぼすのか? ふたりのジャーナリストに次期衆院選のポイントを聞いた。

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■サミットが終わった今、この高揚感とともに解散!?

「6月解散、7月投開票!」

永田町では、サミット前からそんな声が上がっていた。岸田文雄首相は、通常国会が終わる6月末に衆議院を解散し、7月投開票の総選挙に打って出るというのだ。

ジャーナリストの鈴木哲夫氏が解説する。

「今、永田町では、国会会期末(6月21日)に解散して、7月投開票の総選挙があるのではないかと考えている人が多いんです。

その理由は、岸田内閣の支持率が上がっていること(4月に行なわれた日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査では、内閣支持率は52%で前回より4ポイント上昇)。

また、G7サミットの議長国として、ウクライナ、アフリカ4ヵ国(エジプト、ガーナ、ケニア、モザンビーク)、韓国を訪問し、外交で一定の成果を上げたこと。

そして今回、岸田首相の地元・広島でのG7サミット開催でマスコミへの露出が増えて注目されていること。そのため『今なら総選挙をやっても勝てるんではないか』という雰囲気になっているんです」

大阪府知事選&市長選、奈良県知事選を制した日本維新の会の吉村洋文共同代表(府知事)。次期総選挙には全選挙区に候補者を立てるという 大阪府知事選&市長選、奈良県知事選を制した日本維新の会の吉村洋文共同代表(府知事)。次期総選挙には全選挙区に候補者を立てるという

ジャーナリストの横田 一氏も同意見だ。

「サミット後は、内閣支持率もさらに上がるでしょう。また、4月の統一地方選と補選で、大阪府知事&市長選を制し、奈良県知事選も勝つなど、躍進した日本維新の会は、今後、すべての小選挙区に候補者を立てるべく、政治塾を開いていて候補者選びを進めようとしています。

そこで岸田首相は、勢いのある日本維新の会の候補者がそろう前に解散・総選挙をしたほうが有利だろうと考えているはずです。さらに、6月解散となると、7月8日の故・安倍晋三元首相の一周忌の時期とも重なります。

4月に和歌山県で岸田首相が襲われた事件の後に岸田内閣の支持率は上がりましたし、安倍元首相の遺志を継いで『テロには屈しない自民党』というイメージで訴えれば、保守支持層には響くはずです。それには、6月解散がベストなんです」

4月に行なわれた統一地方選&補選で候補者を応援する岸田首相。6月にもこういう姿が見られるのだろうか 4月に行なわれた統一地方選&補選で候補者を応援する岸田首相。6月にもこういう姿が見られるのだろうか

ここまでの話を聞くと、6月解散・7月投開票でほぼ決まりのように思えてくるが、この時期の選挙にはデメリットもあるという。

前出の鈴木氏が語る。

「前回の補選で自民党は4勝1敗でした(衆院・千葉5区、山口2区、4区、参院・大分で勝利。衆院・和歌山1区で敗北)。数字だけを見ると健闘したように思えますが、その内容はかなり厳しいものでした。

例えば、山口2区は岸 信千世氏が当選しましたが、対抗馬の平岡秀夫氏とは、わずか約6000票差でした。

故・安倍元首相の選挙区だった山口4区は吉田真次氏が当選しましたが、かつて安倍氏は約8万~10万票取っていたのに、吉田氏は約5万票しか取れていません。半分ほどになっています。

千葉5区も2位とは約5000票差。しかも、野党が統一候補を出していたら勝てなかった。大分も約300票差。どこもギリギリでの勝利です。これでは選挙に強いとはとてもいえません。

ふたつ目が公明党の問題です。前回の統一地方選で公明党は12人の落選者を出しました。これは過去最多です。歴史に残る最低の結果。

また、日本維新の会は、今選挙をやったら現在公明党が議席を持っている大阪・兵庫の6小選挙区に候補を立てると言っています。そうなると厳しい戦いになる。それは困るので、自民党が解散すると言ったら、公明党は『待った』をかけるでしょう。

3つ目が、自民党の総裁選。来年9月に自民党総裁選挙があります。この総裁選で再選されることが岸田首相の大きな目標のひとつです。そのためには、総裁選に近い日程で総選挙を行なって、自民党が勝利すれば『国民が自分を支持している』と文句なく再選されます。

しかし、来年の秋に『去年の7月に総選挙をやって勝ったから、僕を総裁として認めてよ』と言われても『そんな古い話......』となるわけです。そう考えると、今、6月に解散するのは難しいでしょう」

では、6月解散はないのか? 6月でないならいつなのか? 鈴木氏が続ける。

「秋の臨時国会から防衛費増額による財源の議論が本格的に始まります。また、子育て政策の財源もどうするんだということになる。当然、増税や社会保険料を増やすとか、年金を回すとか、国民負担の話になってきます。

すると、国民からの批判が大きくなるので、秋の臨時国会の前に総選挙をやっておきたいという考えになるかもしれません。

一方で、いずれやらなければいけないなら、G7サミットが終わった今、この高揚感とともに総選挙をやって勝利し、党内基盤や政権基盤を固めようと考える可能性もゼロではありません」

■10増10減で影響を受けるのは自民党

6月なのか、臨時国会前の秋なのか。それは岸田首相の気持ちひとつだ。しかし、どちらになっても変わらないことがひとつある。それは、次の衆院選から小選挙区の数が「10増10減」することだ。

東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知の都市部で合計10の小選挙区が増えた。一方、宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、愛媛、山口、長崎の地方で合計10の選挙区が減った。

また、北海道、茨城、栃木、群馬、岐阜、静岡、大阪、兵庫、島根、福岡の10道府県では、選挙区の区割りが変わっている。これらは1票の格差を是正するための改正だ。

「10増10減で全体的に影響を受けるのは自民党です。選挙区が増えたのは、すべて都市部。都市部は無党派層が多いので、今、伸びてきている日本維新の会、さらに立憲民主党などの野党系に票が流れる可能性があります。

一方、選挙区が減ったのは地方です。すると、例えば地方に強い自民党が4つの選挙区を独占していたとしても、それが3に減れば、誰かがはじき出されてしまいます。また、その候補者を比例で救うのかという判断も出てきます。

10増10減の改正公職選挙法は、昨年11月に成立したばかりで、まだまだそうした細かい調整はできていないと思います」(鈴木氏)

では、この10増10減によって、大きな影響を受けるのは誰なのか?

「わかりやすいのは山口です。山口は小選挙区が4から3に減る。現在、山口1区は元外務大臣・高村正彦氏の息子である高村正大氏。2区は前防衛大臣・岸 信夫氏の息子である岸 信千世氏。3区は現外務大臣の林 芳正氏。4区は安倍昭恵氏が推した吉田真次氏が議席を獲得しています。

しかし、吉田氏は故・安倍元首相の最後の選挙から約3万票も減らしてしまった。これでは小選挙区からの出馬は難しいでしょう。

また、2区の岸 信千世氏は、約6000票の僅差での勝利です。総選挙の投票率は補選よりも約10%上がるといわれているので、無党派層の票が対立候補の平岡秀夫氏により多く加わって、岸信千世氏に落選の可能性が出てきます。実際、平岡氏の選挙事務所は『次は勝つぞ!』と盛り上がっていました」(横田氏)

山口2区の補選では、約6000票という僅差で平岡秀夫氏に勝利した岸 信千世氏。次の衆院選はどうなる? 山口2区の補選では、約6000票という僅差で平岡秀夫氏に勝利した岸 信千世氏。次の衆院選はどうなる?

5増の東京選挙区はどうだろう。

「話題になっているのは、参議院議員から東京新7区に鞍替(くらが)えする丸川珠代元五輪担当大臣です。7区の対立候補は日本維新の会の小野泰輔氏といわれています。小野氏は前回の衆院選で東京1区から出馬し、自民党の候補に善戦しましたが、負けて比例復活で当選しました。

今回、その1区の区割りが変わり、一部が新7区になっているんです。すると、小野氏が浸透している地域だし、今の維新の勢いからすると、丸川氏もそう簡単に当選できないのではといわれています。また、その東京1区を日本維新の会の音喜多 駿参議院議員が狙っているという話もあります。

それから、東京新11区は、元文部科学大臣の下村博文氏の選挙区ですが、ここに山口4区補選に出たジャーナリストの有田芳生さんが出馬するという噂もあります。

下村氏は旧統一教会と深い関係があったと報道されていますし、有田氏は2009年に旧11区から出馬して約3500票という僅差で次点になっています。有田氏がそのリベンジをするのではないかと考えられています。

旧統一教会と関係の深い議員でいえば、島根1区の細田博之衆議院議長も今回は危ないのではないかといわれています。

保守王国の島根ですが、細田氏は79歳と高齢な上に旧統一教会問題があるため、対立候補である立憲民主党の前衆議院議員・亀井亜紀子氏がかなりいい戦いをすると予想されています」(横田氏)

参議院から衆院東京7区に鞍替えする丸川珠代氏。知名度は抜群だが、余裕で勝利することはできるのか? 参議院から衆院東京7区に鞍替えする丸川珠代氏。知名度は抜群だが、余裕で勝利することはできるのか?

旧統一教会系のイベントに参加し、深い関わりがあるといわれている衆議院議長の細田博之氏は議席を守れるか? 旧統一教会系のイベントに参加し、深い関わりがあるといわれている衆議院議長の細田博之氏は議席を守れるか?

神奈川県も選挙区が2つ増える。

「神奈川は前自民党幹事長の甘利 明氏が、これまでの選挙区だった神奈川13区から、新20区に国替えする意向を伝えています。これは、完全な敵前逃亡だと思います。

甘利氏は自民党幹事長として2021年の衆院選に13区から出馬しましたが、立憲民主党の太 栄志氏に敗れて、比例で復活当選しました。太氏は今後も13区から出るということなので、それでは分が悪いと思い、新20区に移ったのだと思います。

しかし、20区に移ったとしても、日本維新の会や立憲民主党の候補者が出てくれば、金銭授受問題の説明責任を果たしていない甘利氏は、かなり厳しい戦いになるのではないでしょうか」(横田氏)

前回の衆院選で党幹事長でありながら小選挙区で落選した甘利 明氏は、次の衆院選は選挙区を変えて出馬する予定だ 前回の衆院選で党幹事長でありながら小選挙区で落選した甘利 明氏は、次の衆院選は選挙区を変えて出馬する予定だ

10増10減の新区割りによって、これまでとは違った戦いになる次の総選挙。それは候補者だけでなく、支援者にも大きな影響を与えるという。

「新区割りによって、今まで自分が応援してきた候補者に票を入れられなくなる人も出てきます。『これまでのA先生は好きだったけれども、新しく入ってくるB先生はどうも好きになれない』という政党支持者もいるでしょう。ですから、この新区割りがどう投票に影響するのかは、実は誰もわからないんです」(横田氏)

サミット後の支持率アップと安倍元首相の一周忌を追い風にして、6月解散となるのか。それとも、来年の総裁選を見据えて、秋に解散するのか。どちらにしても次の総選挙は、波乱含みの総選挙になりそうだ。