人口をインドに抜かれることが確定し、出生率は日本以下。さらに平均寿命は延び続けて、高齢化フラグも全回収中。そんな中国の最新少子化事情を紹介ですっ!
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■中国の優良な精子のスペックとは?
人口14億総バブル状態で、21世紀に爆速の経済成長を続けてきた中国。しかし、今年3月に国連が発表したデータによれば、今年半ばにはインドの人口が中国を上回ることがほぼ確定! 少子化ってことは、もちろん高齢化も爆速進行中。
現在、最も深刻でトンデモプランも続々と登場している中国の少子化問題を、現地の事情に精通するジャーナリストの高口康太さんに解説してもらいますっ!
――まず、中国の少子化はどれぐらいの深刻度なんでしょうか?
高口 15~49歳のひとりの女性が出産する合計特殊出生率で、昨年日本は1.27を記録。一方、中国は1.1~1.2と、日本よりも低い数字を記録しました。
さらに昨年は1949年の建国以来初となる出生数1000万人割れの956万人。これは5年前から約800万人減少した数字で、これまで人的資源を生かした製造業を中心に成長を続けてきた中国にとっては、建国以来の最大の危機といえるでしょう。
――でも、そもそも中国は1979年から「一人っ子政策」をやっていたわけですよね?
高口 一人っ子政策は2013年より段階的に方針転換されており、21年には3人目の出産も可能になりました。
――それでも少子化が大進行って日本よりヤバいじゃん! これどんな対策が行なわれているんですか?
高口 中国は世界最大の不妊治療大国で、治療費も低めに抑えられています。体外受精の容認も進み、今年2月にはシングルマザーの体外受精も一部地域で解禁されました。それに伴い、精子バンク市場がバブル化しています。とにかく、優良な精子をかき集めている状態です。
――〝優良な精子〟という部分がすっごい気になるッ!
高口 例えば、北京では大学生を対象に【身長170㎝以上。遠視近視、各種遺伝性疾患、感染症なし。なおかつイケメンに限る】という募集がありました。あと、【頭部の薄毛不可】という条件も......。
――それ、日本でやったら完全炎上するやつ!
高口 そんな体外受精バブルの中、精子バンクや不妊治療のクリニックに登場したのが「取精機」です。男性が取精機に生殖器を挿入して自動で搾精(さくせい)するマシンです。
――これ、完全にビデボに設置されてそうなマシンなんですけど!
高口 一見、ネタのような取精機ですけど、これは大まじめな機械です。
――で、一回の精子提供で、なんぼいただけるんですかね?
高口 例えば北京の募集では10万円ちょいという触れ込みでした。ただ、この価格は地方によってバラつきがあります。田舎の募集だと一回の提供が約6000円で、一定回数をこなすと10万円のボーナス追加という触れ込みでした。
――これは〝6000円精子〟のスペックが気になりますなー。体外受精に関して禁止事項とかないんですか?
高口 現状では性別の産み分けが禁止されています。しかし、先日私が中国を訪れたときは〝男女の産み分けできます!〟という広告が堂々と張られていたので、今後はこのような〝闇体外受精〟も問題化してくるでしょう。
その一方、取精機のようなアイテムが登場するほど中国の体外受精市場、そして技術も急成長しており、価格的な競争力も高い。今後は世界展開して中国ビジネスの一翼を担う可能性も秘めています。
――ところで、日本だと出産に関する政府からの一時金や児童手当などありますけど、中国ではどうなんですか?
高口 もちろん、あります。政府だけでなく、企業も長期の育休制度を整えています。それこそ、21年に習近平政権が行なった「学習塾禁止令」も少子化対策の一環です。
中国の学費は都市部だと年間ひとり500万円はザラですから、その負担をカットして子供を産みやすくする政策です。しかし、そもそも〝中国の若者結婚したがらない問題〟があるのです。
――それ、どういうことですか?
高口 現在、中国の20代は〝寝そべり族〟と呼ばれ、中国バブルとともに成長し、厳しい受験戦争や就職活動を経験した世代です。
しかし、現在の中国民間企業では〝成果のない社員は40歳定年〟が一般的。これは日本のような〝部下なし管理職〟を生み出さないために行なっていますが、大手になればなるほど入社後も競争が続けられ、多くの若者が結婚・出産を経験する余裕などありません。
そもそも、政府の方針で「恋愛より勉強!」と徹底された世代でもありますから、結婚どころかすべてに対してやる気を失っている状態なのです。
――でも、結婚ってそこまでお金かかりますかね?
高口 まず、男性側には結納金がありますし、持ち家、車はマスト。なので地方政府によってはすでに「結納金禁止令」を出しています。また、結婚には戸籍や遺伝子に関する証明書の取得も多く、これらも廃止が進んでいます。
――それでも爆速進行する少子化。中国政府がいろいろと対策する一方、有識者からもエクストリーム案が出ているそうですけど?
高口 文化人や超大手企業のトップがいろいろと少子化対策案を発表しています。
まず、大手旅行予約サイト『トリップドットコム』の創業者で人口学者の梁建章(リアンコンチャン)。彼は「義務教育期間の短縮」を提唱しています。9年の義務教育を7年に短縮することで、社会デビューと結婚が早まる!という案です。
問題点としては中国人の学力低下がありますが、これに対しては「そもそも中国人の学力は世界トップだから問題ありませんッ!」と強気です(笑)。
――これに対する中国ネット民の反応をチェックすると......。「そもそも働きたくないし!」「AVで十分!!」と、寝そべりスタンプと共にゴリゴリの寝そべり族民が猛反発じゃないですか!
高口 さらに強烈なのが「コンドーム禁止」です。
――それ、感染症対策的に問題ありすぎかとッ!
高口 これは不動産企業大手の中原集団のトップ、施永青(シーヨンチン)の少子化対策案で、「夫婦は子供をふたり産むまでコンドームの販売を許可制にせよ!」というものです。
そもそも、一人っ子政策時代の中国の大学にはコンドームの自販機が設置されていたほどですから、それとは真逆の発想です。これは〝闇コンドーム市場〟が悪い意味で盛り上がりそうです(笑)。
――そして、この案にも「AVで十分!!」という寝そべり族民の反応が!
高口 最も現実的な少子化対策案が「ふたり目以降の子供は大学入試で加点」です。これは中国人民大学の金燦栄(チンツアンロン)教授のプランで、「4人目以降は無試験で名門大学に合格!」として話題になりました。これは中国国民的にも歓迎されています。
■中国は高齢者が得する社会?
――少子化とセットになるのが人手不足。中国では、これもかなり問題になっているとか?
高口 広東省深圳などにある大手IT企業傘下の組み立て工場では、これまでのように大量の工員を集めることができなくなっています。理由は宅配や出前などのギグワークのほうが給料が高く、そっちへ人材が流出してしまったからです。
工場だけでなく、3K労働と呼ばれる職種でも人手不足が深刻で、その対策として炭鉱や港湾施設などは、5Gネットワークを生かして現場を無人化する技術が続々と導入されています。
――これ、巨大な炭鉱や港湾施設を司令室から数人でリモート操作できる超絶技術!
高口 少子化には高齢化も伴いますので、このようなスマート化は介護施設などにも技術転用される予定です。介護スタッフの不足を補うため、脳内でイメージすることで機械の操作が行なえる「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」も政府主導で開発が進められています。
――ところで、中国の高齢者たちの現状もやはり厳しくなっているんですか?
高口 高齢化の要因となっているのが、中国人の長寿化です。現在、平均寿命は78.2歳となっており、あれほどトピックスになっていた大気汚染や毒食品など、実はノーダメージだった説もあるぐらいです(笑)。なので、人手不足を補うため政府は定年後の労働を推奨しています。
――さっき今の中国の一般的な定年は40歳と言っていましたよね?
高口 現在の若者と違い、公務員や国有企業に勤めていた1960年代生まれの世代の定年年齢は60歳です。しかし、彼らが定年後にアルバイト的な労働をすると、その給与と年金で現役世代以上の収入を得てしまうケースが出現しています。
これには現役世代からのブーイングが多く、寝そべり族を輩出する要因にもなっています。なので、年金支給開始年齢を60歳から引き上げることが検討されています。すでに5年以内に「国民の平均寿命を1歳上げる」と発表されていますので、年金支給開始年齢の引き上げも現実化しそうな勢いです。
――でも、支給開始年齢を引き上げると、今度は高齢者からブーイングなのでは?
高口 はい(笑)。一見、ストロングスタイルの習近平政権ですが、多くの国民が極端に反発する政策はスルーするのも特徴です。それもあって、ここまで少子化対策の決定打を出せませんでした。
しかし、一人っ子政策時代は「ふたり目を産んだ公務員は懲戒解雇!」というのをやってきた中国なので、今後は超異次元の少子化対策を打ち出しても不思議じゃありません。
――その一方で、中国ネット民からは「ふたり目を産まない公務員は全員懲戒解雇!」といった意見も登場。これは岸田首相には異次元すぎて、絶対無理なやつかと!