4月28日、台湾国防部は中国軍の無人機TB001が防空識別圏内で本島を半周したと公表し、日本のメディアもTB001は日本にも飛来していることを併せて大きく報じている。
このTB001の機能は偵察だけではない。各種の空対地ミサイル、対艦ミサイル 地上攻撃用精密ミサイルで武装することで攻撃も可能だ。またTB001の最も厄介なところは、航続距離が6000kmあり、最大航続時間45時間という滞空時間の長さだ。全長10m・翼幅20mの偵察攻撃型無人機を侮ってはならない。
防衛省の発表では、TB001はすでに昨年の7月25日に初めて、単独で宮古海峡から太平洋に入っている。世界各地で無人機の取材を続けるフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう危惧する。
「航空自衛隊(以下、空自)がF15二機で中国の無人機をスクランブルして、何十時間も交代で見張るのは費用対効果が悪いですが、現状ではほかに対策がありません。台湾空軍では、無人機と推定可能な場合のスクランブルは有人戦闘機一機か、または対応しません。
空自も早く対応しなければ隊員は疲弊し、稼働機が減衰します。現に、空自は訓練用のジェット燃料を、旅客機が使用する安いJET-A1燃料に切り替えています」
台湾のように無人機に対しては、スクランブルしなければいいのでは?
「NATO(北大西洋条約機構)を含め、IDと呼ばれる相手機の機種、武装の有無の確認のための証拠として、スクランブルで写真撮影が必要なのです」(柿谷氏)
空自の昨年のスクランブルの回数は計778回。そのうち対中国無人機に対しては8回。回数が増えないいまの内に、何らかの対策と行動が必要である。かつて航空自衛隊那覇基地・302飛行隊隊長を務めた元空将補の杉山政樹氏は、さらなる危険性を指摘する。
「巡航速度が時速833kmの高速ジェット戦闘機・F15が低速の時速150~180kmで巡行する無人機TB001と並走飛行するのは危険です。それが如実に表れたのが、3月に黒海上空で起きた、米軍無人偵察機・リーパーにロシア空軍のSu(スホーイ)27が後方から接近した件。ロシア空軍パイロットの操縦がまずく、プロペラを引っ掛けてしまった。
空自の我々は常にそういう練習もしていますが、危険なことには違いありません。空自の対領空侵犯措置は警察行為です。たとえば、地上の事件現場から警察官を全員を引き上げてしまえば、臨機応変な対応ができなくなります。なので、現場には責任を担う警察官が必要です。
それと同じで、空にいる空自戦闘機パイロットが、空の現場の責任者となります。まず、有人機か無人機かを確かめるために、有人戦闘機がIDをする」
ただ、台湾海峡と東シナ海上空では戦い方が異なるらしい。
「台湾と中国を隔てる台湾海峡の幅は130~260km。尖閣諸島に、中国と日本が到達するには、互いに400マイル(約643km)洋上を互いにとんでこなければならない点です。
その中国無人機をIDするのに、仮に空自無人機に米国製MQ-9リーパーを時速300kmで行かせても遅すぎます。
空自戦闘機のF15がスクランブルの際、5分間でテイク・オフし、450ノット(時速833km)の速度で現場に到着。その段階では国籍が特定できない中国無人機TB001に対して、領空侵犯する前に対領空侵犯前のポジションにつけます。
その後、TB001が領空侵犯しなければ、東シナ海から太平洋に抜ける30時間のフライトの間、空自のF15は交代で見張らないとならないのです」(杉山氏)
こうなると、空自のパイロットや戦闘機の疲弊を招き、中国の思惑通りとなるが...。
「一案あります。F15が450ノットで飛んで行ってIDを取る。そして、スクランブルと同時に離陸した無人機MQ-9リーパーが後から到着し、空自F15は無人機MQ-9リーパーに後の監視を任せて引き上げる。こんな形は考えられると思います」(杉山氏)
空自基地のアラートハンガー(スクランブル発進のために設けられた格納庫)の横にもう一棟、謎の格納庫が出来る。アラート出動のサイレンが鳴り響く中、二機のF15がハンガーを出る。それに続いて隣接する新しい格納庫から無人機MQ-9リーパーが姿を現し、F15の後を追う様に離陸する。
無人機MQ-9リーパーの性能は航続距離6000kmで巡航速度は時速300km、滞空時間28時間。そして、空自F15のIDで中国軍無人機TB001と判明。約一時間後に遅れて空自の無人機MQ-9リーパーが現場に到着。F15二機は無人機MQ-9リーパーに監視を任せて那覇基地に戻る。
「このタイミングから無人機同士でやらせます。だから、その無人機MQ-9リーパーには20mm機関砲とヒートミサイルによる武装は必要です。中国軍TB001が日本領土内に危害を加える可能性がある場合、撃墜しなければならないからです。
中国無人機の攻撃の可能性が無く、そのまま中国本土に引き返すならば、空自の無人機MQ-9リーパーはそれを後方から見送り那覇基地に戻ります。しかし、現状、無人機MQ-9リーパーには空対空ヒートミサイル・サイドワインダー9Xの搭載試験中ですので、早期に積ませて、運用可能にすればなんの問題もありません。
そして、サイドワインダー9Xが搭載可能になった空自の無人機MQ-9リーパーが那覇基地よりも、与那国島、石垣島、多良間島、宮古島、下地島の空港から上がれば、会敵までの時間は半分で済みます。しかし、全て県営空港なので軍事利用は不可能。そう言う足枷もあるのです」(杉山氏)