G7広島サミットに招待されたインドのモディ首相。インドを筆頭とする「グローバルサウス」の新興国・途上国は、日米欧と中国・ロシアのどちらの陣営にもくみせず、発言力を増しているG7広島サミットに招待されたインドのモディ首相。インドを筆頭とする「グローバルサウス」の新興国・途上国は、日米欧と中国・ロシアのどちらの陣営にもくみせず、発言力を増している

最近、国際政治のニュースでよく耳にする「グローバルサウス」。文字どおり、主に南半球の諸地域を指し、西側先進国と中国・ロシアの分断が深まる中、そのどちらにもくみしない〝第三極〟として存在感を増す。これらの国々はどんな事情を抱え、日本はどう付き合っていくべきか?

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■G7側の「身勝手な論理」

ゴールデンウイーク中に岸田文雄首相はエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークのアフリカ4ヵ国を訪問。「グローバルサウスの国々の声に耳を傾ける」ことの重要性をアピールした。

その後、5月19日から広島で行なわれたG7サミットにはインド(G20議長国)、ブラジル、インドネシア(ASEAN議長国)、ベトナム、コモロ(アフリカ連合議長国)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム議長国)といった、アジアやアフリカ、南米、太平洋地域の途上国・新興国の首脳が招待され、「グローバルサウスとの連携」が重要な議題のひとつとなった。

そもそも、グローバルサウスとはどういう意味なのか?

「明確な定義はありませんが、もともとは『南北問題』と呼ばれる地球規模の格差問題の『南側』、つまりG7加盟国に代表される豊かな『北側』に対して『貧しい側』にいるアジア、アフリカ、中南米などの新興国・途上国を指し、不公正な格差への抗議や連帯のニュアンスも含む意味で1960年代から使われてきた言葉です」

そう語るのは、グローバリズムや途上国の問題などに取り組むNPO法人、アジア太平洋資料センター(PARC)の内田聖子(うちだ・しょうこ)氏だ。

内田氏によると、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、「ロシアや中国との経済的なつながりが強く、欧米先進国が主導するロシアへの非難や経済制裁には同調しない新興国や途上国」という文脈で、欧米や日本などの先進国がこの言葉を頻繁に使うようになったという。

「もともとグローバルサウスは、G7などの先進国が作り上げた国際秩序の『負』の影響を受けてきた国々です。それらの国々では、植民地時代から続く先進国の経済的、政治的な支配が今も色濃く残っていて、大規模開発で地域のコミュニティが破壊され、バナナ、コーヒー豆、紅茶などの一次産品や天然資源は安く買い叩かれてきました。

近年、フェアトレードといって、途上国の原料や製品を適正な価格で購入し、その国で働く労働者の生活や人権に配慮した貿易を目指そうという動きがありますが、これも先進国が長年にわたり途上国に押しつけてきた従来の貿易があまりにもアンフェアだったからにほかなりません。

ところが、G7側とロシア・中国との対立が深まると、それらの国々がロシアや中国に取り込まれてはマズいと思った先進国が『グローバルサウスとの連携が重要』と言い出した。

具体的にはインドやブラジル、インドネシア、アフリカ連合など、経済や政治で大きな影響力を持つ国々との関係を重視していると思いますが、南北問題の格差を生み出した『加害者側』の国々が、今頃になって『グローバルサウスとの連携』だなんて、いったい、どの口が言う?というのが私の正直な気持ちです」

■「先進国の視点」とはまったく違う景色

なるほど、「グローバルサウスとの連携強化」を強調するのは、対ロシア・対中国の問題に直面するG7側の「身勝手な論理」といえるかもしれない。

だが、今回サミットに招待されたグローバルサウスの国々の中には、インドのようにすでに先進国に迫る経済力、軍事力を持つ国もあり、今後の経済成長や人口増加の「伸びしろ」という点では、先進国をはるかに上回るポテンシャルを秘めているのも事実だ。

グローバルサウス全体で見ると、2050年には経済規模はアメリカや中国のGDPを上回り、人口は世界の3分の2を占めるとの予測もある。天然資源に恵まれた国も多いことから、グローバルサウスの重要性や存在感が急激に増しているのは間違いない。

だからこそ、ウクライナ戦争や、それに伴う世界的なエネルギー問題、食料問題、さらには地球温暖化やCO2削減といった環境問題なども、「グローバルサウスの視点」で見ると「先進国の視点」とはまったく違った景色や課題があることを理解する必要がある、と内田氏は指摘する。

「例えば、ウクライナ問題でロシアへの経済制裁に同調しないと、『ロシアの側につくのか!』といった批判を受けることがあります。

しかし、グローバルサウスの中には、ロシアやウクライナから輸入する安い小麦に依存していたり、ロシア産の石油や天然ガスといったエネルギー輸入に依存したりしている国も少なくない。

そうした国々がロシアへの制裁に参加し、食料やエネルギーの禁輸に踏み切ることは深刻なエネルギー・食料問題に直結しますし、代わりにほかの国から輸入しようにも、貧しい国々は世界的なエネルギーや食料の価格高騰に耐えられない。

G7はこうした国々への食料安全保障として140億ドルを拠出したと言っていますが、とうてい足りません。

また、アフリカや東南アジアではインフラ整備のために中国からの投資や大規模な開発援助などを受けている国も多く、その結果、債務の拡大に苦しむという問題も起きています。

しかし、現実として中国と経済的、政治的に深いつながりがある以上、単純に『おまえの国は中国と欧米のどちらにつくのか?』と迫られても困るのです」

■連携強化のために本当に必要なこと

経済だけでない。軍事面でも、例えばインドはロシアからの兵器に依存しているので、自国の安全保障上、ロシアとの関係を断ち切ることは現実的に不可能だ。また、中国やロシアと直接国境を接したり、地理的に近かったりする国々はこうした大国との関係悪化は避けたいのが本音だろう。

脱炭素などの環境問題に関しても、これまで散々CO2を排出しながら経済成長を成し遂げてきた先進国と、今後の経済成長のために必要なエネルギーの利用で生まれるCO2の排出削減で〝足かせ〟をつけられたくない新興国の間で立場の違いが生まれるのは当然だ。

人権や民主主義といった先進国側が掲げる「理想」についても、グローバルサウス側が抱える複雑な事情、文化や宗教の違いなどによる埋めがたい溝がある。

そこで生じる先進国側との対立が、「支援や投資はするが内政には干渉しない」という中国やロシアの影響力を強める要因にもなっている。先進国側としては指をくわえて見ているわけにはいかないだろう。

一方、グローバルサウス側からすれば、これまで「上から目線」で搾取してきた先進国と渡り合い、自分たちの存在感や影響力を高める格好のチャンスでもあるはずだ。

「先進国が本気でグローバルサウスとの関係や連携を強化したいのなら、本当にそれらの国の人々の生活を良くするような『実のある支援』を行なっていく必要があるでしょう。

グローバルサウスの国々は先進国に対し根強い不信感を持っています。例えばウクライナ侵攻に関しても、スーダンやミャンマーでも深刻な内戦が起きているのに、『なぜ先進国のメディアはウクライナばかり報じるんだ』という反感もあります。

同時に彼らはしたたかでもある。今後も欧米とロシア・中国、どちらか一方につくのではなく、両者を天秤にかけながら現実的な自国の利益を追求しようとするのではないでしょうか」(内田氏)

グローバルサウスの大きな成長のポテンシャルや、国際社会における重要な立ち位置を考えれば、この先さらにその存在感と影響力が増していくことは間違いない。

今や「G7で最も落ち目」の国となった日本は「謙虚な気持ち」で、グローバルサウスの国々とお付き合いをしておいたほうが良さそうだ。