「人民共和国」成立以降、戦争に勝っていない中国に、ロシアが戦いのノウハウと対空防空システムを中国に提供する日がくるのか...? 「人民共和国」成立以降、戦争に勝っていない中国に、ロシアが戦いのノウハウと対空防空システムを中国に提供する日がくるのか...?
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。本連載「#佐藤優のシン世界地図探索」ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索する!

 * * *

――去る4月19日、「ニューズウィーク日本版」の オフィシャルサイトに

<「永遠の兄弟」中露の力関係は完全に逆転... 中国が「大兄」でロシアは「弟」>

というタイトルの記事が掲載されました。佐藤さんは今の中露関係をどう見ていらっしゃいますか?

佐藤 この記事にある「ロシアが中国のジュニアパートナー」というのは、完全に誤った見方だと思います。これは経済の側面からしか見えていません。

中露首脳会談で行われる取引は単純で、「ウクライナ問題に関しては中国はロシアを政治的に支持する」ですね。ここに軍事上の指示が必要ないのは、弾が足りているからです。

中国がロシアに軍事上の支援をすると、中立の立場を失います。だから、中国がロシアに軍事支援せずに仲介国の立場を維持した方が、ウクライナ戦争の戦後処理を考えた場合、ロシアにとって圧倒的に有利なのです。

グローバルノースの現状を見てください、仲介の最低条件は、殺傷能力のある兵器を供給しない事です。その条件を満たしているのは、実はG7では日本しかいません。

――あちら側で対峙してるのは中国ですよね。

佐藤 それはフェアなのです。ロシアとウクライナの2国間で戦っていますが、どちらかに殺傷能力のある兵器を送り、その兵器によって自国兵が殺されている。その事実がある国でも仲介に出て来るのは、当事国は交戦国に準ずるモノとして扱い、抵抗するのが普通です。

日本は非常に良い立ち位置にいて、それを維持しないといけません。そうしなければ、中国、ブラジル、インドあたりで座組みが決まってしまいます。

――まさに、グローバルサウスと中露の連合が結実してしまう。

佐藤 中露関係を見る際に、経済だけに光を当てれば中国が圧倒的なのは当たり前です。中国の人口が14億2000万に対し、ロシアが1億7000万ですから。

ポイントは何かと言うと軍事力です。たとえば、いまでもロシアは中国に型落ちした戦闘機を提供していますよね?

――はい。

佐藤 原子力潜水艦もフルスペックの艇を中国に渡したらどうなりますか?

――隣国の中国には、ロシアはそれはしないと思いますが...。

佐藤 そこなのです。もし、米国が台湾有事で本当に中国と戦う事になったら、ロシアはSLBMミサイルを搭載した原子力潜水艦を提供すると思います。

――ロシア製の攻撃型原子力潜水艦とセットで提供したら、完璧だと思います。

佐藤 それから、ロシアは対空防空システムを中国に提供すると思います。

――S-500ですね。すさまじい性能を秘めていると聞いております。

佐藤 それから中国は、"人民共和国"になってから戦争に勝った事がありません。ベトナムとの戦争も事実上負けていますからね。戦訓を持たない中国に対し、ロシアは今回のクライナ戦争含めてノウハウをいろいろと持っている。それを中国に提供できるというのは、結構重要なことですよね。

そう考えれば、ニューズウィークの記事はド素人の見方もいい所だと思います。

――そうなると、実は兄貴がロシアで、弟分は中国と。

佐藤 そうです。だから、岸田首相の問題なのは、プーチンに電話をしていない事です。

――え?

佐藤 岸田首相は電話でぎゃんぎゃんと、プーチン大統領に悪口を言えばいいんです。

――佐藤さんはこの連載の第2回で、

日本政府はいま、プーチン攻撃の中心に立っていますが、日本の岸田首相は絶対に直接電話はしない。外側からあれこれ言っているだけです。これは<価値の体系>から考えれば100点満点です。

とおっしゃっていましたが...?

佐藤 いま一部の自民党議員の方々が「ウクライナに殺傷兵器を送る」などと勇ましい事を言っていますから。そんなことが現実になったら最悪です。

だから、岸田首相は一度電話をしてみて、「プーチンとは全く意見は相容れなかった。しかし、日本としてはこの戦争を止めるべきだし、侵攻を止めろと直接提言した」となれば、重みは違ってくるはずです。

――「中国と同じレベルでロシアとウクライナの仲介国になれる、G7中唯一の国は日本である」、というすごいカードを日本は今、持っている事になると。

佐藤 そういう事です。

次回へ続く。次回の配信予定は6月中旬予定です。

●佐藤優(さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。