5月にクレムリンでドローンによる爆発が起きたが、米国はこれを「ロシアの自作自演」だといったのち、すぐに「やっぱりウクライナがやったようだ」と手のひらを返した 5月にクレムリンでドローンによる爆発が起きたが、米国はこれを「ロシアの自作自演」だといったのち、すぐに「やっぱりウクライナがやったようだ」と手のひらを返した
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。新連載「#佐藤優のシン世界地図探索」ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――過去にも米国は、"戦争広告代理店"を使って情報操作をしてきました。今回はウクライナ戦争の初期に、ゼレンスキー大統領に与して秀逸なイメージ戦略を構築し、「正義のウクライナ、悪の帝国・ロシア」のストーリーを作り上げました。英国の権威ある新聞や通信社までもが米国の語るこのストーリーに乗っかっています。

佐藤 米国の広告代理店は西側のマーケットしか見ていないので、ロシアに対する心理戦など何も考えていません。これが「米国インテリジェンス」の特徴です。それは敵国の世論とは全く関係ありません。

かつて徳川慶喜の孫で池田徳眞(のりざね)という方がいましたが、第二次大戦中に大日本帝国陸軍と組んで謀略をめぐらせていました。その彼が著書『プロパガンダ戦史』 (中公文庫)で言っているのが、米国のプロパガンダは結局、米国内向けのもので、敵国にどういう影響を与えるかは全然考えない、ということでした。

東京空襲の際は実況中継するとか、日本側が抵抗せざるを得ないような感じの無条件降伏要求しかできませんでした。だから、米国の宣伝は、自国が負けている時は全然元気がない。しかし、米国が強くなってくると嵩(かさ)にかかってきます。事実をベースにして謀略が出来ない、という特徴があるのです。

今回のウクライナ戦争でもこの米国の広告代理店は、西側諸国への内向きの動きしかとらず、ロシアの戦意を挫(くじ)くような宣伝活動などはしていません。だから、戦局にほとんど影響を与えることはしていません。

ロシアはそれに対して、「扇動(アジテーション)」と「宣伝(プロパガンダ」を分けます。

「扇動」は感情を掻きたてる国内向けの動きです。「こんな酷い事をウクライナがやっている」「こんな愚かな事をウクライナはやっている」といったニュアンスです。

一方で「宣伝」はロシア国内の知識人と、外国の為政者向けの活動です。だから、宣伝対象が誰に影響を与えるのか、という発想自体が米国の"戦争広告代理店"とは違うのです。

宣伝においてクレムリンの発想では、相手国と為政者、知識人、有識者向けで、大衆を全く見ていません。

これは、大衆は「扇動」することにより感情で動くので、大衆に「宣伝」しても無駄だから、論理で動く人だけを相手にしよう、ということです。これがロシア流の「宣伝」術です。

――感情で動く大衆のことは見なくてよいと。

佐藤 ロシアの宣伝技法は基本、露見するような嘘を付かないのですが、米国は嘘をついてしまうんですよね。

たとえば去る5月3日にクレムリンで無人機ドローンによる爆発があった時、米国は「ロシアの自作自演」「ロシアの自爆作戦」だと発表しました。ただ、後から嘘付けないとわかったとたんに「やっぱりウクライナがやったようだ」と言い始めました。恰好悪いですよね。

――5月26日にはCNNとニューヨークタイムスが、このクレムリン無人機攻撃にウクライナが関与した可能性があると報道します。

佐藤 結局ウクライナはロシアの反応は常に見ず、「米国がどこまで許容しているか?」しか気にしていません。早速この報道にNSC(米国家安全保障会議)のカービー戦略広報調整官が反応し、「ロシア本部への攻撃を米国は奨励しない」と発言しました。

――5月28日の毎日新聞の報道では、『ウクライナ当局、クリミア大橋爆発への関与認める通信社など報道』とあります。記事によれば<クリミア大橋で昨年10月に起きた爆発について、ウクライナの情報機関である保安局(SBU)のマリューク長官が同国政府の関与を初めて認めた>と。

佐藤 今までウクライナはほっかむりをしていましたが、「実は自分たちがやった」と言い始めました。米国との関係をみながら、どこまでやってよいものかと見極めているところだと思います。だから、ウクライナ政府が認めない形で、なし崩し的にロシア本土への攻撃が始まっていますよね。

――はい。読売新聞オンラインが6月3日に報じた『ロシア側国境地帯も「戦闘の最前線」...武装組織がウクライナから進入攻撃、砲撃850発』の記事でも、<ロシアのプーチン政権の打倒を掲げるロシア人武装組織「自由ロシア軍団」と「ロシア義勇軍団」が1日、拠点とするウクライナから国境を接する露西部ベルゴロド州へ進入した>とありました。

佐藤 「自由ロシア軍団」幹部のイリヤ・ポノマリョフは、元ロシアの下院議員だと強調していますが、2016年からウクライナに食わしてもらっている人間ですから。

第二次大戦中に元ソ連軍中将のウラソフという軍人がナチスに捕まり転向し、最後にソ連軍と戦争して捕まり縛り首になりましたが、自由ロシア軍団は彼が組織した「ウラソフ軍団」の焼き直しです。

だからロシアも頭に来て、いままで"ネオナチスト"と呼んでいたゼレンスキー大統領のことを「テロリスト大統領ゼレンスキー」と全てのニュースで使い始めました。いままでよりも『これはテロとの戦いだ』という意味合いが強く出てきました。

――だいぶ局面が変って来ましたね。米国は9.11以降が「対テロ戦争」でしたから。

佐藤 そういうことになりますね。

次回へ続く。次回の配信予定は6/23(金)予定です。

撮影/飯田安国 撮影/飯田安国

●佐藤優(さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

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