インディオ先住民が船で狩りをする場所に向かう(撮影:山口大志) インディオ先住民が船で狩りをする場所に向かう(撮影:山口大志)
約一ヵ月ほど前の6月9日、南米・コロンビアのジャングル内で、墜落した飛行機から40日ぶりに行方不明になっていた4人の子供たちが救出された。実はこの「アマゾン生存劇」にはさまざまなメッセージが隠されているという。アマゾンの密林に度々取材に出かけ、定点的に動植物の撮影している写真家・山口大志氏に話を聞いた。

「アマゾンで起きるニュースはいつもチェックしています。墜落事故はよくあって、乗客が死ぬ事のほうが当然多いですが、この事故は飛行機が墜落したにも関わらずお子さんたちの御遺体が出てこなかったので、きっと生存しているだろうと最初から思ってました。ただ、子供たちだけで助かったケースは、私の知る限り初めてです」

墜落4日後に母親が死亡。残された子供のうち13歳の長女がリーダーとなり、9歳と4歳の男の子、1歳の赤ちゃんを取り仕切った。

「これは、子供たちが先住民で、ジャングルでの暮らし方を知っているということが一番大きかったと思います。加えて、私は『墜落した機内に食料のファリーニャはなかったか? もしそれがあれば生存できるかもしれない、と推測していました。すると後日、ファリーニャで数日間を食いつないだと分かり、アマゾンらしいなと納得しました。ファリーニャはキャッサバ芋の粉末なんですけど、これがあれば何とかなるんですよ」

ファリーニャ(キャッサバという芋のデンプン)を作る村人。これは焚き火で炒っているところ。アマゾン川の流域ではよく見られる光景(撮影:山口大志) ファリーニャ(キャッサバという芋のデンプン)を作る村人。これは焚き火で炒っているところ。アマゾン川の流域ではよく見られる光景(撮影:山口大志)

山口氏は「土を食う猿」を撮影するためにアマゾンに行った際、マチゲンガ族の先住民らと生活を共にしていた。

「アマゾンでは各家庭でキャッサバを畑で育てています。収穫して根っこの毒を水に晒して抜きます。それを細かく砕いて炒って、乾燥させ粉末にして食べるのです。

この粉をあらゆる料理に振りかけます。ご飯、パン、スープ、炒め物にも。面白いのは、それだけでも食えること。ジャングルに入るときは歩きながらこれを行動食としてボリボリつまんだり、水と一緒に食べていました。もう、それだけでお腹が一杯になる。軽くて腐らない炭水化物です。これは便利な食べものだと思いましたね」

ただ、食べる物があったといっても、そこにいるのは13歳以下の子供たちだけだ。

「いえ、先住民は10歳で大人扱いをされますから。男の子は4~5歳から狩りに連れて行かれます。大人と同じ事をいつも横で見てやってるんですよ。大きな山刀で木を切り、雨宿りできる家の柱を作る。ヤシの葉っぱで屋根を葺(ふ)くのも全部、大人と一緒にやりますから」

狩りには弓矢を使う。子供は10才。風下から獣の足跡、匂い、音を頼りに風下から接近していく。子供の右手に抱えるのがマチェーテ(山刀)。ジャングル用の大型ナイフだ(撮影:山口大志) 狩りには弓矢を使う。子供は10才。風下から獣の足跡、匂い、音を頼りに風下から接近していく。子供の右手に抱えるのがマチェーテ(山刀)。ジャングル用の大型ナイフだ(撮影:山口大志)

13歳の長女は立派なリーダーだ。彼女が大黒柱となり、9歳と4歳の男の子と助け合いながら、1歳の赤ん坊も守れた。

「13歳の長女が赤ん坊の面倒を見ながらキャンプをヤシの葉で作り、食べられる果物、ゾウムシなどの甲虫の幼虫、魚、薬草などを近くで採集、9歳と4歳の男子は狩猟に出たと推察します。

アマゾンではファリーニャの他に必要不可欠なものがマチェーテ(山刀)です。ジャングルに用事がある人は必ず持っています。飛行機にも搭載されたはずです。小さな滑走路を拡げるためにも使います。もし無かったとしても、先住民は飛行機の残骸の金属から刃物を作れます」

ジャングルでの過ごし方。彼らは1時間くらいで簡単に仮小屋を作ることができる。屋根には椰子の葉を使う。葉のまわりには棘があるが指で編む。遭難した子供たちは似たようなシェルターを作ったのだろう(撮影:山口大志) ジャングルでの過ごし方。彼らは1時間くらいで簡単に仮小屋を作ることができる。屋根には椰子の葉を使う。葉のまわりには棘があるが指で編む。遭難した子供たちは似たようなシェルターを作ったのだろう(撮影:山口大志)

そしてもちろん、サバイバルに一番必要なのは「水」だ。子供たちは水筒などで何日分かの水を携帯していたのだろうか?

「先住民は水筒なんか持っていないですよ。川があれば茶色い泥水であろうが、口を付けてちゅーっと平気で飲んでいますよ。乾季のジャングルにある黒い水たまりの水でも平気。お腹も壊さないんです」

すさまじく体が丈夫な先住民だ...。

「先住民と一緒にイノシシ狩りに行った時の話です。父親と10歳の息子と、母親は赤ちゃんを連れていました」

遭難した親子と組み合わせが似ている。

「船で河岸に上陸して、父親と息子は獣の足跡と糞を探し始めます。母親は赤ちゃん抱いて、ジャングルの中に消えました」

途中、獣を発見するより前に、頭上に一羽の鳥を見つけた。父親は矢を放つが外してしまう。すると、息子は猿のように木に登り貴重な矢を回収し、黙ってそれを父親に渡した。

そこで会話をすれば、遠くにいる獣たちに人間がいる事が分かってしまうからだ。9歳男子は大人の狩りを立派に手伝っている。既に横顔は大人のそれだ。

「もし鳥を撃ち落とせていたら、村に帰る前に河岸で火を起こして食べていたと思いますよ。カポックツリーの綿毛をいつも濡れないよう大事に持っていて、火打石で火を起こします」

まもなく、数百頭のイノシシの群れの足音の振動が地面から伝わり、鳴き声が遠くから聞こえた。父子はいよいよ走り始める。

「驚異的に足が速いんですよ。ジャングルの中にはつる植物、ハチの巣、鋭い棘のある木々がありますが、その間を障害物走のように父子は走り抜けます。最初、父親はサンダル、息子は長靴を履いてましたが、気が付けば素足になってました。最低でも10mの距離まで獣に接近しないと、急所に矢が当たらないのです」

父子はジャングルの奥地に消えていった。唐津に生まれ、西表島で5年間、環境省西表野生生物保護センターで非常勤勤務し、イノシシ狩りの名人にも弟子入りした野の人、山口氏でも追いつけない。父子の痕跡を追い続けると、ジャングルの中から父親が姿を現した。子が重たい猪を担いでいる。「なぜ子供に重たい猪を持たすの?」と思うだろう。しかし、アマゾンでは父がまだ狩猟できるチャンスがあるならば、子が獲物を運ぶ、という仕事の分担が出来ている。

仕留めたイノシシを子供が当たり前のように運ぶ。父親は次の獲物をいつでも弓矢で狩れる(撮影:山口大志) 仕留めたイノシシを子供が当たり前のように運ぶ。父親は次の獲物をいつでも弓矢で狩れる(撮影:山口大志)

父子が舟のある河岸まで戻ると、赤ちゃんを抱いた母親は薬草をごっそりと抱えて2人の帰りを待っていた。仮にこの場所に女の子が来ていれば、母親と一緒に採集を手伝い、食べられる物と食べられない物、薬草の見分け方を学ぶ貴重な時間となる。

先住民の家族には、自分の仕事と居場所がある。男女雇用均等法の遵守や父親の子育て参加など、アマゾンでは無関係。生命体としての人間がよりよく生きていくことを望むなら、「都市文明」などはそれに逆行しているのではないだろうか?

「それはそう思いますね。アマゾンに住む彼らを見ていると頼もしい。生きてるって感じがしますよね」

昔のテレビCMでアイドルグループがジャングルで迷い、もう少しで命の危険が迫った時に、そこにあるコンビニを見つけて命拾いする、というものがあった。

「アマゾンの先住民は、ジャングルをコンビニにしてますから。まだ子供のみずみずしい感性のうちに、人間を見下ろすような大きな自然の中で野外体験をしたほうがいい。いまの私たちはいろいろと便利すぎるんですよ。そして異常なほどに潔癖。同じアマゾンの環境に日本の都会の子供が放り出されたら、水も飲めないし、食い物も探せない。虫に刺されて熱出して、数日も持たずに死ぬでしょうね。

本当にアマゾンは、人間が生きる事に関してシンプルなんです。あれがない、これがないと文句を言うことがない。そこにあるもので生きていくことが根付いています。だから、今回の事故でも子供たちだけで40日間生き残れた。

日本なら沖縄の離島がアマゾンの雰囲気に近いですけどね」

●山口大志
写真家。1975年、佐賀県唐津市生まれ。2012、2013年、日経ナショナルグラフィック写真賞優秀賞、2016年、第5回田淵行男賞岳人賞を受賞。
著書に「AMAZON 密林の時間」 (クレヴィス)など。