鹵獲(ろかく)した露軍装輪装甲車の後には、仏から供与された105mm砲搭載AMX10軽戦車が続く。装輪なので道路を高速で走れる(写真:米海兵隊) 鹵獲(ろかく)した露軍装輪装甲車の後には、仏から供与された105mm砲搭載AMX10軽戦車が続く。装輪なので道路を高速で走れる(写真:米海兵隊)
去る6月24日、突如ロシアの民間軍事会社のひとつ「ワグネル」が武装叛乱を起こした。完全武装の傭兵部隊はロシアの首都・モスクワの手前200kmまで迫り、撤退。武装叛乱は失敗した。

しかし、ロシアのピンチはウクライナのチャンスだ。このワグネルの目指したモスクワ進撃はウクライナ軍(以下、ウ軍)には可能かどうかのシミュレーションをしてみよう。ウ軍がロシア対して一矢報いることができる、起死回生のモスクワ電撃奇襲作戦だ。

ワグネルの叛乱はこんな展開だった。

激戦地・バフムトから後方に下がったワグネルが、組織のトップ・プリゴジンの指揮の下、武装叛乱を6月24日に開始。プリゴジンは総兵力2万5,000人と豪語し、ロシア南部ロストフ州の州都にあるロシア軍(以下、露軍)南部軍管区司令部を瞬時に制圧占領した。

「露軍のトップ、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長が司令部に来なければモスクワに行く」と宣言し、24日の朝に『正義の行進』と称してモスクワへの進撃を開始。その陣容は兵力4,000人以上。キャタピラ車の戦車、歩兵戦闘車は輸送用トレーラーに載せ、装輪車の装甲車中心に道路を高速で移動開始した。そこには移動式防空システム「パンツィリ」や「グラドMLRSシステム」などの重火器が40~50両分、含まれていた。

ロストフ州から約1,000km離れたモスクワのおよそ200km手前まで迫った。しかし、ベラルーシのルカシェンコ大統領から『虫のように潰されるぞ』と電話で警告され、それが効いたのか24日夜8時30分に反転。南部司令部からも撤収し、ワグネルの宿営地に帰還を開始した。武装叛乱は失敗だった。

航空自衛隊那覇基地の302飛行隊隊長を務め、外務省勤務経験のある杉山政樹元空将補が、今回のワグネルの動きをこう指摘する。

「ロシア国内の防御、少なくとも首都モスクワに対しての防御網がなかったことが暴露されましたね。プーチンがあれだけ『防げ』と命令してもできなかった。首都防衛に対して、何の準備もされていなかったということです。大型トラックを3台横に置いたバリケードも簡単に破られました。道路に重機を入れて急に掘削しはじめ、焦っていたのがよく分かります。

さらに首都モスクワでは、土嚢を積み重ねて応急陣地を作ったりしていました。防御が手薄だった事実が、ワグネルがあそこまで来てしまった事で露呈されました。

私は朝鮮半島の38度線に何度も行っています。そこには北朝鮮軍が南侵に備え、一見意味のないような所にコンクリートの柱を建てています。しかし、その柱には爆薬が仕掛けてあり、戦争になれば全て倒し、北朝鮮軍の戦車が入って来れないようにしているのです。また、普段から道路脇には土嚢が積み上げられ、応急陣地として機能する仕掛けになっています。

それに比べて、大国ロシアの首都防衛はお粗末過ぎます。精鋭部隊は全て、ウクライナ最前線に投入してしまっていて、モスクワ周辺にはいないのではないでしょうか」

さらにワグネルは、地対空ミサイルでヘリ7機(うち1機は戦闘ヘリKa52)、空中司令通信本部イリューシン22型機を1機撃墜している。

「露軍Ka52が空対地ミサイルでワグネルの車列を攻撃し、それに応戦した結果、Ka52を1機撃墜した。そこから手あたり次第、飛んでいるヘリをどんどん落とし始め、飛行場を離陸したばかりの空中司令機も撃墜された。私が知り得た情報からはこう推察しています」(杉山氏)

その戦闘以降、空からのワグネルへの攻撃はない。

「要は、軍や警察にとって重要なのはコミュニティとは何なのか、なのです。露国防省はロシアの軍隊なので、ワグネルは仲間です。だから、露軍はワグネルに向かって撃つのは難しい。しかし、ワグネルは自分たちがコミュニティなので露軍は敵なのです。だから、露軍飛行機やヘリを簡単に撃ち落している」(杉山氏)

ウクライナ軍がワグネルと同規模の部隊と仮定したうえで、モスクワ侵攻を画策したらはたしてうまくいくのだろうか。

「その場合、ウ軍はコミュニティの敵なので露軍は徹底抗戦すると思います」(杉山氏)

露空軍の空対地攻撃で"死のハイウェイ"になってしまうのでは?

「今回の偵察などの動きを見ても、露空軍の本体の動きは鈍いと思います。ウ軍がもし迅速に動ければ、攻撃を受けないのではないかと思います」(杉山氏)

■本誌軍事班が『サンダーラン作戦』を立案!

ではここで、本誌軍事班がウ軍のために練った『サンダーラン作戦』を紐解いてみよう。

まず装備を全て、米とNATOから供与されたもので固めるが、ウクライナからロシアに侵入する際には、最前線から帰還した露軍の車両に見えるように擬装する。

移動開始は日没後。全ての車両には赤文字で「Z」と記され、鹵獲(ろかく)した先頭車両の露軍装輪装甲車には、高々とロシアの国旗。"ウクライナより勝利して帰還"とキリル文字が踊っている。

それに続く戦闘車両は、仏から供与された105mm砲搭載のAMX10軽戦車。これは装輪なので高速で道路を走ることができ、さらにT90、T14戦車以外の全ての車両を破壊可能だ。

露軍のモスクワ近郊の精鋭戦車師団はウクライナ国内ですでに全滅しているか、再建され再投入されている。まだ残っているとしたらT72、T62で簡単に撃破できる。撃ち漏らしはジャベリンで破壊する。

対空防御は米陸軍のアベンジャーが担当する。スティンガーミサイルを搭載して、来襲する露軍機を撃墜する(写真:柿谷哲也) 対空防御は米陸軍のアベンジャーが担当する。スティンガーミサイルを搭載して、来襲する露軍機を撃墜する(写真:柿谷哲也)

そして続くのは、米が供与したアベンジャー。スティンカーミサイル四基を備えた強力な地対空装備だ。

次に来るのは米供与のストライカー装甲車だ。車内には完全武装兵9名が乗り込む。

その後方には米供与のストライカー戦闘車が、各種砲を装備して歩兵9名を載せ疾走する(写真:柿谷哲也) その後方には米供与のストライカー戦闘車が、各種砲を装備して歩兵9名を載せ疾走する(写真:柿谷哲也)

ストライカーには12.7mm重機関銃M2(400発)、7.62mm機関銃M240(3,400発)、40mm擲弾発射器Mk 19(120発)のいずれか一つが搭載可能なので、局面に合わせて使用し、露軍陣地と露兵を撃破する。ここにトランスポーター(戦車運搬車)に載ったレオパルト2戦車や、ドイツが供与した自走対空砲ゲパルトが続く。

そして、最後尾には装輪の自走155mm砲カエサルが続く。これでクレムリンまで行けるのだろうか...。

独供与の最強戦車レオパルト2は、トランスポーターに載せて運ぶ。鉄獣が放たれるのは、クレムリンの直ぐ手前だ(写真:柿谷哲也) 独供与の最強戦車レオパルト2は、トランスポーターに載せて運ぶ。鉄獣が放たれるのは、クレムリンの直ぐ手前だ(写真:柿谷哲也)

独供与の自走対空砲ゲパルトが、レオパルト戦車を空からの攻撃から守る。キャタピラなのでトランスポーターで運ぶ(写真:柿谷哲也) 独供与の自走対空砲ゲパルトが、レオパルト戦車を空からの攻撃から守る。キャタピラなのでトランスポーターで運ぶ(写真:柿谷哲也)

■プロの分析評価はいかに?

この『サンダーラン作戦』に関して、陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)はこう語ってくれた。

「ワグネルの進撃を阻もうとした露軍の防御は脆いです。大型トラック三台分のバリケードは、戦車砲を撃たれれば全部吹き飛びます。重機で道路に横溝を掘った所は迂回します。

モスクワ市郊外の露国家親衛隊の設営した土嚢陣地は、土嚢を横3列に置かないと軍用小銃弾でパンクします。M2ブラッドレー歩兵戦闘車の25mm機関砲ならば簡単に破壊できます。

戦車はできるだけトランスポーターから降ろさずに、AMX10の105mm砲とストライカー搭載の各搭載兵器を使いながら前進し、クレムリン近くで戦車を降ろして使います。その支援射撃として、グラドMLRSシステムBM21が3台から、20秒で計120発の122mmロケット弾をクレムリン目がけて発射。そのくらい撃つと、相当壊れます。

さらに155mmカエサル自走砲は持続発射速度が8~10秒で、3台あれば1分間に22発、クレムリンに撃ち込めます。強力なモスクワ守備隊と激烈な戦闘になるでしょう」

155mm砲搭載のカエサル。装輪式で道路を高速で走破する(写真:米陸軍) 155mm砲搭載のカエサル。装輪式で道路を高速で走破する(写真:米陸軍)

陸戦のプロから見ると、『サンダーラン作戦』は実現可能な作戦なのだろうか?

「モスクワの200km手前まで行ったのは、ワグネルの先遣部隊の一個大隊1,000名だと思います。4,000名の部隊となると鈍重な部隊となり、移動は時速20~30kmの低速で計算します。だからモスクワまでは丸一日かかり、行進梯隊の長さは100kmになります。

ずっと縦隊で並んでいると、どこかで攻撃された際に動けなくなりますので、部隊間の距離を開けなければなりません」(二見氏)

ウ軍が迅速に動けないと、ルカシェンコ・ベラルーシ大統領の言う通り、空爆で『虫ケラの様に殺され』てしまうのだろうか...。

「やり方はあります。ワグネルは露国軍との戦闘はほとんどありませんでしたが、ウ軍が最初からバチバチと当たって来ます。そのため、先遣大隊が積極的に戦い露払いをしなければなりません。

まず、ハルキウ近くの国境線からモスクワまでの700kmを100kmずつにわけます。そして100kmごとに露軍の宿営地、弾薬庫、燃料庫を占領して拠点にします。また、橋梁ごとに対空防御を傘のように掛けながら前進します。

クレムリンまで一個連隊を入れるために必要な兵站量は1日に500トン。5トン車が100台必要です。しかし露軍の主力は今、全てウクライナ南部の最前線にいます。露国内の中心部~奥は防護のための兵力は薄いでしょう。

警察関係部隊ならば駆逐可能ですが、主要都市には必ず軍隊を置いています。そこには戦車を伴う重戦力がいます。攻撃三倍の法則(攻める側は守る側の最低三倍の兵力を要する)でやらないと撃ち抜けません」(二見氏)

ウ軍がロシアに一矢報いるための、モスクワ電撃奇襲は可能ということか!

「ただ、敵中に一列縦隊で突っ込んで行くのは大変難しい作戦です。何でやらないかというと、難しいからです。もしやるならウクライナ国内にいる、米国やNATOで訓練を受けた主力を持ってこないとダメですね。攻撃路を4本作り、一本に三個旅団、計12個旅団で攻勢を掛けます。ちょうどいま投入を待っている決戦兵力たちです」(二見氏)

やはりダメか...。ならば、ここは情報戦を仕掛けよう。

まず、ウ軍のモスクワ進撃に関しては、米国やNATOは怒ってやらせるわけがない。しかし、ここを米国やNATOに密かに相談して、『黙認しているふり』をしてもらう。即ち、米・NATOはやるかやらせないか、曖昧にする。そして、ウ軍12個旅団が四個攻撃ラインからモスクワ攻撃に行くと露軍に思わせるのは?

「選択肢を多く持つことは重要です。」(二見氏)

ここで、米陸軍のストライカー旅団戦闘団で作戦立案を担当する情報将校だった、元米陸軍大尉の飯柴智亮氏からご意見の具申があった。

「情報作戦になれば、モスクワに到達してからの具体的な攻撃案が明示された方が、ロシアにインパクトが与えられます」

具体的にはどう伝えるのだろう?

「モスクワを占領することは無理でも、被害をSNSで拡散させ、ロシアを内部から混乱に陥れます。

まず、侵攻経路は二見元陸将補がおっしゃったように複数から行います。幸いにもモスクワには環状線のような道路があり、クモの巣のように内側から外側に向けて主要幹線道路が伸びています。内側の環状線内はもちろん、外側の環状線内への到達も困難でしょう。これはモスクワの内堀と外堀という位置づけです。

部隊をさらに一個旅団ずつ3つに分け、各種の攻撃経路よりモスクワを目指します。目標はモスクワ市郊外のポドリスク市を目安にした、モスクワから半径40kmの地点です。ワグネルのいい加減な侵攻ですら半径200㎞の地点まで到達したのですから、半径40kmは不可能な数字ではありません。外堀手前です。

陸戦では攻撃側には防御側の3倍の兵力を要します。『攻城三倍の法則』(城を攻める側は城を守る側の最低三倍の兵力を要する)で古来から不変です」(飯柴氏)

では一体、ここからどんな一矢を放つのだろう?

「優秀なRISTA部隊(偵察、情報、監視、目標捕捉の略。砲撃目標に対して正確な着弾を促す)を編成し、どれかの部隊が半径40kmに到達できるようにします。ここに到達する目的は"砲撃"です。最低一つの部隊が半径40㎞の地点に到達すればこちらのものです。

ここで米軍がウクライナ軍に提供し、すでに限定的に使用されている『M982エクスカリバー155mm砲弾』の出番です。部隊は天気予報をにらみつつ、風向きが北風の時を狙いエクスカリバー砲弾を発射、モスクワの中心部に砲弾を撃ち込みます。

エクスカリバーは最大射程が40kmで、GPS誘導によって半数必中界(着弾点の誤差)が10メートル程度ですので、的確にクレムリンや赤の広場といったロシアの象徴的な建造物など、狙った場所に正確にダメージを与えることができます。そして、同じく現地に極秘侵入していた情報部員が撮影した着弾時のビデオをSNSなどで拡散させ、混乱に陥れます。『プーチン大統領が戦死』などのデタラメ情報でも構いません。

撃ち込む砲弾は20発以内とします。20発撃ちこんだら、露軍に反撃される前に撤退。半径40㎞到達は瞬間最大風速でいいのです。20発撃つのに必要な時間は、セットアップと撤収を含めて30分以内。撃ったらすぐ逃げます」(飯柴氏)

こんなことをされたら、プーチン大統領の面目は丸潰れだ。

「有力な選択肢となります。仕上げは反プーチンを掲げる自由ロシア軍を使います」(二見氏)

一体何をする?

「増強一個中隊の兵力を戦車一個小隊4台、BMP一個中隊10両に載せて、モスクワに向かう想定攻撃路全てに準備攻撃を実際に仕掛けます。各所に存在する国境警備隊の兵舎を叩いて周ります。

しかしその行動範囲はハイマースの射程80kmまで。そこまで行ったら戻ります。露軍と警察が追撃して来たら、ハイマースで叩く。それで離隔距離を作って、安全にウクライナに帰る。それを繰り返せば、確実にロシア西部に露軍兵力を吸引できますよ」(二見氏)

そうするとロシア国内西部は、杉山氏が見てきたような朝鮮半島の38度線南側のように要塞化しないとならなくなる。コンクリートの柱を建て爆薬を仕掛け、ウ軍が来れば数本のコンクリートの柱がZ型に倒れ道を防ぎ、戦車を通れなくする。その動けなくなった戦車を駆逐する対戦車砲陣地を各所に作らなければならない。

また、橋に爆薬を仕掛けいつでも落せるようにする。すると、ロシア西部に多大な露軍の兵力と兵站資材が必要となる。

「すると、プーチン大統領はモスクワを守るために、ウクライナ南部の陣地地域から兵力を転用しなければならない状況になります。ウ軍にとっては南部地域打通を促進させる機会となります。

今回のワグネルのモスクワ進撃に対応するために、露軍はバフムトから兵力を抜きました。その好機を見逃さず、次の日にウクライナ軍は一挙に動き始め前進しました」(二見氏)