ロシア軍の対戦車ヘリコプターKa(カモフ)52、通称アリゲーター(米国南部に生息するワニ。カウボーイブーツの皮として有名)。正反対に回転する二つのローターが特徴的 ロシア軍の対戦車ヘリコプターKa(カモフ)52、通称アリゲーター(米国南部に生息するワニ。カウボーイブーツの皮として有名)。正反対に回転する二つのローターが特徴的
去る6月4日、ウクライナ軍(以下、ウ軍)がロシア軍(以下、露軍)に対してついに大規模な反転攻撃を開始した、と米の戦争研究所が発表してから三週間以上が経過したが、ウ軍苦戦は続いている。露軍は戦車同士の正面戦闘を避け、対戦車ヘリ・Ka52による攻撃と、ドローンによる偵察・砲撃誘導でドイツのレオパルト戦車やブラッドレー兵員輸送車を撃破している。

この状況を受け、元・陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)はこの「対戦車ヘリのKa(カモフ)52が厄介です。これをつぶさないといけません」と話すが、このKa52ヘリとは一体どんなモノなのか。兵器に詳しいフォトジャーナリストの柿谷哲也氏に話を聞いた。

「ベトナム戦争で米陸軍のAH1コブラ戦闘ヘリに触発されたソ連は、大型攻撃ヘリのミル24を開発しましたが、軽快さに欠けました。それを踏まえてできたのが、複座のka52です。200機配備していましたが、このウクライナ戦争で36機が撃墜され、残存は164機です」

アリゲーターの好物は、ドイツ製の戦車・レオパルト2。すでに数台、餌食になっている アリゲーターの好物は、ドイツ製の戦車・レオパルト2。すでに数台、餌食になっている

さらに、民間軍事会社・ワグネルがモスクワへと向かった"正義の行進中"にKa52を1機含むヘリ5機を撃墜している。

「Ka52の武装は、6個のパイロン(機体から物を吊り下げるために使う板状の支柱)に射程12kmのビックルレーザー誘導対戦車ミサイル。または、射程6kmの無線レーザー誘導対戦車ミサイルを最大12発搭載可能です。また、射程20kmのエルメス対戦車複合式ミサイルも搭載可能です。全てのミサイルは、ドイツのレオパルト戦車、英のチャレンジャー戦車を撃破することが可能です」(柿谷氏)

このKa52ヘリはどう飛んでくるのだろう?

「Ka52は対戦車ヘリであると同時に偵察へリを兼ねています。西側のヘリの様にリンクシステムはなく、連携は無線だけです。偵察ヘリ役の対戦車ミサイル未搭載のKa52が先行し、ウ軍機甲部隊を低空からFLIR(前方探知型赤外線装置)やミリ波レーダーで探知、発見し、目標位置をミサイル搭載のKa52に伝えます。

ミサイル搭載のka52は目標位置を自動入力後にミサイルを発射し、撃ちっ放しの離脱、または照準するための無線誘導をし、命中後離脱します」(柿谷氏)

まず偵察へリが写真背後の森の樹木線にかすかに姿を現し、戦車部隊を発見する。その距離3~5km。対戦車ミサイルを搭載したKa52に正確な位置を無線で伝え、対戦車ミサイルを発射する。写真はドイツ軍戦車部隊 まず偵察へリが写真背後の森の樹木線にかすかに姿を現し、戦車部隊を発見する。その距離3~5km。対戦車ミサイルを搭載したKa52に正確な位置を無線で伝え、対戦車ミサイルを発射する。写真はドイツ軍戦車部隊

1970年代のNATO演習での対戦車ヘリと戦車のキルレシオ(空中戦での自軍と敵軍の撃墜比)は16対1。ヘリを1機損失して、16台の戦車を撃破していた。今もこの比率が適用されているならば、ウクライナ陸軍の最強機甲戦力がNATO(北大西洋条約機構)装備の6個旅団で、ドイツのレオパルト戦車とイギリスのチャレンジャー戦車計180両に対して、Ka52が11機の損失で全戦車を破壊可能だ。

こんな時ウクライナ空軍がいれば、露軍のヘリはすぐに掃討できるが、どうやらその力は今はないようだが...。

「空軍が使えないならば、陸軍兵士で対応しなければなりません」(二見氏)

それはどういうことだろう?

「継続的に露軍の損害率を見ていますが、平均一日18門、一個大隊規模の露軍砲兵がハイマース(高機動ロケット砲システム)で叩かれ、つぶされています。10日間ならば、180門の露軍砲兵部隊を撃破していることになります。

露軍砲兵部隊が漸減されてきたので、ウ軍は今まで最前線のカバーが十分にかけられなかった状態から、対空ミサイル、対空機関砲を推進し、対空火網の傘をかけることができるようになりました。

露軍は火力投射手段として砲兵が使えず、火力の低下しているところをKa52が代替するため、最前線に出てきます。ヘリは火力を発揮するプラットフォームとしての速度が速いので、広い防御線のいろいろな場所の行き来が可能だからです。露軍のKa52ヘリが出て来た所を狙ってカモフ狩りをやります」(二見氏)

6月9日以降、ウ軍は6機のKa52を撃墜している。

「偵察ヘリは敵を発見するために、敵の最前線の1~5kmまで接近し、稜線または樹木線上に10~20秒露呈、ウ軍戦車の正確な位置発見を試みます。この時に、短距離対空ミサイルの車両搭載レーダー、または自走対空砲搭載のレーダーで発見し撃墜します。最前線ではKa52ヘリを三段構えで配備し、迎撃撃墜態勢を整えて迎え撃ちます」(二見氏)

まず偵察用Ka52ヘリの探知だが、ウ軍が開戦前に短距離地対空ミサイルとして72セット持っていた、旧ソ連製のブーク防空システム(Buk-M1-2)で行う。このブークは、指揮統制車、レーダー車、輸送起立発射機の3台からなる。低空を飛ぶKa52偵察ヘリを距離10~20kmで探知し、射程3~32kmの9M38ミサイルを撃つ。

ウクライナ軍が持つ旧ソ連製防空ミサイルブークが一つ目のワニ狩りの道具。ミリ波レーダーの探知距離は20キロ。9M38ミサイルで撃墜を試みる。 ウクライナ軍が持つ旧ソ連製防空ミサイルブークが一つ目のワニ狩りの道具。ミリ波レーダーの探知距離は20キロ。9M38ミサイルで撃墜を試みる。

「ここをすり抜けたKa52を、ドイツから供与されたゲパルト自走対空砲で撃ちます」(二見氏)

ゲバルトの対空レーダーは探知距離約15kmで、連装35mm機関砲により毎分550発の発射速度で仕留める。どれもレーダーで探知してから10~20秒以内で撃墜しないとならないが、このブーク、ゲパルトで対空攻撃が手一杯の時はどうすればよいのだろう?

「予備手段としてあらかじめ地形を研究し、偵察ヘリが姿を現す地点を予測、火集点として設定します。そこを105mm、155mm榴弾砲から曳火(えいか)射撃といって上空で破裂する弾を数発撃ちます。ヘリ上空で爆発させてその破片で撃墜するか、そこにいられなくすれば対戦車ミサイルの誘導ができなくなります」(二見氏)

仮に偵察ヘリが撃墜される前にウ軍のレオパルト戦車の正確な位置を通知し、Ka52が姿を現して対戦車ミサイルを発射されてしまったら?

「焦ってはいけません。着弾まで6~10秒の時間はあります。各戦車、車両は煙幕弾を発射しながら後退し、砲兵隊はWP煙弾を発射、目くらましをします。

もしKa52が撃ちっ放しではなく、レーザー照射を続けるタイプのミサイルならば、目標破壊確認まで10~15秒は露呈してますから、ゲパルト自走対空砲で仕留められます」(二見氏)

二つ目のワニ狩り道具がドイツから供与された自走対空砲・ゲパルト。ミリ波レーダーの探知距離は15km。35mm機関砲2門で撃墜を試みる 二つ目のワニ狩り道具がドイツから供与された自走対空砲・ゲパルト。ミリ波レーダーの探知距離は15km。35mm機関砲2門で撃墜を試みる

■策源地を叩け!

ただ、飛んでくるヘリを叩くだけでは殲滅は不可能だ。

「ハイマースが着弾不能の射程80kmより遠方に、露軍はサッカーコート数地積に戦闘ヘリの前方展開地を構築しているでしょう。そこを攻撃します。ヘリは年間1機を常時飛ばすためには3機が必要なほど、常に整備をしなければならない航空機です。その整備要員とパイロットを排除してしまえば稼働しなくなります。攻撃要領によって、露軍占領地への侵入と襲撃の方法は変わります」(二見氏)

またウ軍は、昨年米国から供与された徘徊型無人攻撃機・スイッチブレードを使用せずに大量に持っている。対戦車弾頭搭載のスイッチブレード600は航続距離40kmだ。

「スイッチブレード600は重さ54.5kgあります。へルソン周辺のダム破壊による洪水の水が引いてきているので、そこから入って渡河した特殊部隊が被占領地パルチザンと合流し、車両で移動します。そして、最前線後方からスイッチブレード600を発射し、駐機しているKa52を破壊します」(二見氏)

スイッチブレード300の射程距離は10kmだ。

「これを使う場合は特殊部隊が前方展開地に接近し、様々な手段で偵察、パイロットの待機場所を特定します。そこに撃ち込み、ヘリのパイロットを狙うのです」(二見氏)

ワグネルはすでに6月24日に、来襲した露空軍機を撃墜し、13名のパイロットと乗員を殺害している。その日は露空軍としては、ウクライナ戦争開始後に最大の死者数を出した日となった。その続きを地上で行うのだ。では、ウ軍の特殊部隊が前方集積地の真横まで到達できる場合はどうするのだろうか?

「推定ですが、Ka52は全部で10機、パイロットは20人、整備士は30人、警備兵は後方安全地域と思っていますから10人前後です。ここを一個小隊で夜間に襲撃します。

まず、パイロットのいる建物に侵入し、暗視ゴーグルとサプレッサー付き小銃で狙います。
別の部隊がKa52ヘリへ携帯式対戦車ミサイル、40mmグレネードを撃ち込み、爆発音で出て来た警備兵を狙います。

整備士が建物から出て来ないならば、携帯式対戦車ミサイル・NLAWをそこに撃ち込みます。最後は武器庫と燃料庫にNLAWを撃ち込んでから離脱します」(二見氏)

報道によると、露軍は前線から100km離れた港湾都市・ベルジャンシクの空港に、20機のKa52を追加配備。こんなに後方の空港にあるKa52はどう動けばよいのか?

「ここはウクライナ空軍の力を借ります。深夜、露軍ヘリパイロットの待機施設に、真っ先にステルス巡航ミサイル・ストームシャドウを撃ち込みます。残りのKa50は米国から供与されたフェニックスゴースト(航続距離480kmの夜間専用自爆無人機)を使って夜間奇襲をかけます。

私が指揮官ならば一挙に破壊するため、この一連の攻撃を全縦深同時に行います。」(二見氏)