6月16日に行なわれた経済財政諮問会議・新しい資本主義実現会議合同会議で「成長と分配の好循環を実現する」と述べた岸田首相6月16日に行なわれた経済財政諮問会議・新しい資本主義実現会議合同会議で「成長と分配の好循環を実現する」と述べた岸田首相
令和4年度、国の税収は過去最高となる71兆円台を記録した。一方で、政府は'24年度からの段階的な増税を発表し、批判の声が高まっている。元国税調査官の松嶋洋氏に税収増の背景と増税の理由、そして本当に求められる政策について聞いた。

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国の税収は3年連続で過去最高を更新し、令和4年度は71兆円台と初めて70兆円を超えました。物価高と円安によって企業や消費者などの支出が増えたことで、消費税収が増加したことが主な原因です。さらに、新型コロナの影響が和らいできたことも相まって企業業績も徐々に上向いており、法人税や所得税が続伸したことも追い風となりました。

そんな中、政府は'24年度からの段階的な増税を発表しました。主な名目は防衛費の財源捻出です。具体的には、法人税、所得税、たばこ税などが増税予定です。

これに対し、すでに多くの批判が集まっていますが、私も増税には反対です。なぜなら物価高や円安を引き起こしたのはロシアによるウクライナ侵攻の影響が大きく、いわば偶然の産物。大企業を中心に賃上げムードも高まっていますが、物価高に賃上げが追いついていないのが実態であり、多くの人々の暮らしは厳しいままで、決して景気が良いとは言えないからです。このような状況で増税を行なえば、国民の負担は増える一方です。

税収は増えているのに、なぜ増税するのか。政府の言い分をまとめるとこうなります。「少子化で今後税収が増える見込みが薄いのに、高齢化でますます社会保険料がかかる。さらにロシアは言わずもがな、中国が台湾統一に向けて軍事力を行使する『台湾有事』が懸念されるなど、防衛費の問題もある。なにより、1029兆円もある国の借金を返していかないといけない」。

■増税ではなく、積極財政と減税を!

しかし、そのための手法が増税というのでは、ただ自転車操業をしているようにしか感じません。増税すればたしかに税収は増えるかもしれませんが、国民が実感する負担と比べた時のその効果は微々たるもの。

しかも、増税が足枷(あしかせ)となって経済規模は下がっていくため、長い目で見れば税収は減ります。結局はただの悪循環なのです。また仮に増税するなら、一般家計において節約にあたる政治家や公務員の減給もセットで行なうのが筋と言うものですが、その方針は打ち出されていません。

そもそも、国の借金が1029兆円もあれば税収が71兆円あったとて、その全額を返済に充てたとしても15年近くかかります。一般家計でいえば、年収の15倍の借金をしている状態で、普通は自己破産レベルです。もはやコツコツ返すなどというのは非現実的なので、考え方を変えてガツンと返すアテを作らなければ焼け石に水です。

岸田政権が掲げる「新しい資本主義」による「成長と分配の好循環」のイメージ。成長を阻害する要因となる各種の増税は、これに矛盾するという指摘もある岸田政権が掲げる「新しい資本主義」による「成長と分配の好循環」のイメージ。成長を阻害する要因となる各種の増税は、これに矛盾するという指摘もある
このような状況を脱するには、私は積極財政と減税によって経済規模を拡大することしかないと考えています。経済成長すれば物価もあがって、税収も自然に増えるし債務の負担も小さくなる。逆に増税で国の借金を返すとなると景気が悪化するし、金額的に現実的でもない。

あと数年でドイツにGDPを抜かれるという噂もありますが、歯を食いしばってさらに借金をしてでも積極財政を行ない、少しずつインフレにしていく。それが、いま国に求められる最善手だと思います。経済規模が10倍、20倍となれば、借金なんかすぐに返せますから。このままでは日本はどんどん先細っていくだけです。

とはいえ、もちろん経済規模の拡大は一朝一夕ではできませんし、私がいくら理想を述べても悲しいかな、国は動いてくれません。今、私たちができるのは、増税の行方をこの目でしっかりと見届けつつ、物価高という幸運に乗っかって積立投資でもしながらコツコツと増税に備えること。いち消費者としては、あくまで現実を見据えた行動が必要となります。

●松嶋洋(まつしま・ひろし) 
元国税調査官、税理士。2002年東京大学卒業。金融機関勤務を経て、東京国税局に入局。2007年に退官した後は税理士として活動。税務調査対策のコンサルタントとして、税理士向けセミナーの講師も務める。著書に『押せば意外に税務署なんと怖くない』(かんき出版)ほか多数