このふたりは国際関係の政治プレーヤーなんだけど......(写真:ロイター=共同) このふたりは国際関係の政治プレーヤーなんだけど......(写真:ロイター=共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。本連載「#佐藤優のシン世界地図探索」ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――7月23日、ベラルーシのルカシェンコ大統領はロシアのサンクトペテルブルクでプーチン大統領と会談し、「民間軍事会社・ワグネルが隣国・ポーランドの首都に行きたがっている」と発言しました。しかし、ベラルーシでは7月5日に46歳の運輸通信相が、続いて去年11月には外相が急死しています。このふたりは親露派。これは、何らかの"整理"ではありませんか?

佐藤 政治のプレーヤーではない人間が病死しようが事故で死のうが、暗殺とは関係ありません。その亡くなったふたりはプレーヤーではないので無意味です。

――逆にいえば、プレーヤーだと暗殺される。怖い世界ですね。一方、先月、ブリンケン米国務長官が習近平国家主席と会談を行ないましたが、中国がロシアに武器供与しないことを表明すると、ブリンケン米国務長官は「約束を得た」と謝意を発言しました。

佐藤 これは本来、殺傷能力のある兵器を送らせて、中国に制裁を与えた方が米国の利益になります。にもかかわらず、こんなことで感謝しているから、米国人は頭が弱いと思われるのです。

ここでいう武器とは、正確には「殺傷能力のある武器」です。だから中国はデュアルユースのもの、例えばドローンなどをどんどん送っています。

――中国が1億ドル(140億円)分のドローンをロシアに輸出していると、米政治専門紙も報道しています。

佐藤 ロシアの兵器生産は十二分にあるので、弾切れにはなっていなません。むしろロシアにとって重要なのは、人民元決済で西側製品を裏から手に入れるか、デュアルユースのものを合法的に手に入れることです。

だから、中国は殺傷能力のある兵器を送らない方がロシアの利益になる。その意味を米国の頭の悪い人たちはよく分かってないわけです。

――ブリンケン米国務長官はプレーヤーとしては、バカだから殺されていないのですか?

佐藤 どうでしょう(笑)。今回のウクライナ戦争の本質は、モノを作れる国とモノを作れない国の戦争です。モノを作れない国が米国、英国、フランス。モノ作りのできる国がロシア、中国、インド、日本、ドイツです。その構図で見ないといけません。

――そのモノを作れない国のひとつ、米国が弾切れになっています。

佐藤 ウクライナに弾がなく、米国にも少ししかない。異常事態にロシアは、「本当に弾が無いのか?」と驚いています。

去年、ロシアが使って散々「戦争犯罪だ」と批判していたクラスター弾を今、米国はウクライナに供与して使っています。「今度は我々が戦争犯罪者になります」ということになるので、支離滅裂です。米国は追い込まれていますが、死ぬのはロシア人とウクライナ人だから構わないと言っているようなものですね。

――去年6月に英国国防相がウクライナの首都・キーウを訪問した際に、ゼレンスキー大統領から供与を希望する兵器リストを提示されました。それに対して「われわれはアマゾン(・コム)ではない」と発言しています。

佐藤 英国もウクライナの要望に応えられなくなっています。プーチン大統領は弾の増産に対して、「ちゃんと国が面倒を見る」と発言していますが、米英の首脳ではそんな発言はできない。

それが出来ない理由は、単年度予算だからです。兵器の生産ラインを民間で作っても、戦争が終わった後までは面倒をみてくれません。

――米国は155mm砲弾不足で、自国に保管していたクラスター弾を供与しています。

佐藤 ロシア軍はクラスター弾を使わなくても、通常の弾がたっぷりあるので、榴弾砲をすごい勢いで撃っています。ウクライナの8万発に対してロシアは20万発と、物量の差は歴然です。

――ウクライナ軍は足りない分、すべてクラスター弾で撃ってます。「弾が切れたから停戦したい」とウクライナが言いだしたら、ロシアはどうしますか?

佐藤 ロシアは弾があるので、停戦に応じる必要性はありません。むしろロシアにも恐ろしいクラスター弾が沢山ある。クラスター弾の投げ合いになるので、凄惨な戦場になるでしょう。

――プーチンは「そっちが使うならばウチも使う」と言ってますからね。

佐藤 そう、プーチンは有言実行の人。やりますよ。

――ロシア製のクラスター弾、怖そうですね......。

佐藤 ニューヨークタイムズの報道によれば、ウクライナ軍は反攻作戦の最初の2週間で、戦場に投入した兵器の2割をすでに失っています。現場にいるウクライナ軍兵士は生き残っていてもその部隊は全滅していて、後ろに下げてくれと言っても替えがきかない状況です。

また、「航空万能論」というブログには、ウクライナ人が外国人部隊に対してひどい扱いをしている と書いています。

――それ、読みました(参照:『豪国営放送、ウクライナ人は外国人軍団を辞める人間を投獄すると脅す』)。

佐藤 ウクライナの外国人部隊に「ロシア軍は悪」と義侠心に駆られてに参戦するも、そこは兵隊ヤクザを超える世界で、特攻して最前線で戦死するか、ウクライナの刑務所に投獄されるかふたつにひとつだと。正義の味方になろうとすると、犯罪者か、戦死の2択を選ばせられる、ということです。

――怖いです。

佐藤 これがロシアではなくて、ウクライナの話なんですよね。一方でロシアでは、しょっちゅうTVCMが流れています。「未経験でも一ヵ月経験で給与48万円、二ヵ月コースもあります。色んな資格が取れます」とね。

――民間軍事会社のCMですか?

佐藤 いいえ、国防省のCMです。

――体感として、一ヵ月48万円の稼ぎはロシア国内ではどうなんでしょう?

佐藤 首都・モスクワ周辺部は別として、田舎だと一ヵ月で一年分稼げる感じです。だから、半年も従軍すれば田舎なら車と別荘とおいしい食べ物を買えますよ。

――すると、ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、ロシアの田舎には別荘が建ちまくり、車が走り回ると言うことですか?

佐藤 そういうことですね。

次回へ続く。次回の配信は8月11日(金)予定です。

撮影/飯田安国 撮影/飯田安国
●佐藤優(さとう・まさる) 
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞