長引くウクライナ戦争のかたわら、中露は日本海で合同軍事演習を行うなど、緊密なパートナーシップを国際社会に見せつけている。ところが中国人ジャーナリストの周来友氏によれば、最近、中国SNSに見られるある変化から、中露関係に広がった溝が見て取れるという。
* * *
7月30日未明、ロシアの首都・モスクワでウクライナによるドローン攻撃が行われました。この攻撃でモスクワ市内の複合施設に被害が出たほか、7月に入り行われた2度のドローン攻撃によって市内のオフィスビルが損壊しています。中国国営メディア・環球時報もウクライナによるモスクワ攻撃について大々的に報じています。
こうしたウクライナによるロシア本土攻撃については、中国のネット世論ではこれまでウクライナ側を批判する投稿が多数を占めていました。ところが最近はある変化が見られます。
■増え始めた反ロシア投稿
今回のウクライナによるドローン攻撃について報じた環球時報のコメント欄には、「プーチンよ。あなたの国の国民のためにも投降し自首しなさい」「ウクライナ必勝!侵略者を追い出せ!」「ロシアの防空システムレベルの低さが露呈している。侵略者の自業自得だ」など、ウクライナ支持の声が圧倒的に多かったのです。
中国のSNS上では、ロシア支持派とウクライナ支持派による応酬合戦が繰り広げられるなど、中国国内の世論が大きく割れていることがうかがえます。
さらに、駐中国ウクライナ大使館の公式ウェイボー(中国版旧Twitter)には、「ロシアの独裁植民地支配を徹底的に打ち破ってほしい」「必勝ウクライナ」「ロシアによって奪われた領土を奪還し領土統一を成し遂げろ」「侵略者に裁きを」などのコメントが寄せられ、ウクライナ支持のコメントは現在も増え続けています。
過去に中国では、友好国である北朝鮮の金正恩の蔑称「金三胖(三代目のデブ)」という言葉が、表示検索NGとなったこともありました。今回のウクライナ戦争に関しても、SNS上の昨年までの投稿を見返す限り、ロシアを直接的に批判する投稿は、ほとんどといっていいほど見られません。当局による検閲が働いていたものと考えられます。
それが最近になって、プーチンを名指しする批判コメントなど、反ロシア的な投稿が削除されず放置されているのは、中国政府のスタンスの変化が裏にあるとも読み取れます。
■プーチンの逮捕状を報じた中国メディア
ネット言論だけでなく、政府から直接的な統制を受けている中国メディアも、プーチンに不利な情報を伝え始めています。今年3月、国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナ侵攻をめぐり、ウクライナから子供を連れ去った戦争犯罪容疑で、プーチン大統領に逮捕状を出したことを発表しました。
中国外務省は、記者会見の場で、国際刑事裁判所に対し、客観的で公正な立場を求める一方、他国への違法な侵入や戦争犯罪には強く反対することを表明してきました。
この頃から、中国の民間メディアでは、「プーチンがウクライナから子供連れ去りで指名手配、牢獄の危機(網易新聞)」、「プーチンのほか、国際刑事裁判所に指名手配された女とは?(騰訊新聞)」などの見出しで、ロシアによる児童連れ去りを報じています。
この件に関しては登録者2億人を超える中国最大のQ&Aサイト「知乎」で、著名ブロガーが「ウクライナから19000人の児童を連れ去ったプーチン一派の犯罪行為を見よ」というタイトルの文章を投稿。今回のウクライナ戦争におけるロシア軍やプーチンの悪行の数々を発表しています。
こうしたメディア報道や非難の文章は、現在も中国の検索サイトで閲覧できる状態となっていることからも、中国政府が敢えて黙認していることが分かります。さらにはロシアとの友好関係を見直し、ウクライナを支援するべきとの中国政府の方針に「口出し」する専門家も出てきています。
■プーチンを持て余しはじめた中国
軍事や外交上では、反米という価値観を共有するロシアとの結束を維持しています。今年7月には、中露は日本海で合同軍事演習を行ったほか、中国産ドローンなどがロシアに輸出されていることなども明らかになっています。
一方で、英紙フィナンシャル・タイムズは、習近平国家主席とプーチンが今年3月に会談した際、習主席が直接、プーチンに対し核兵器を使用しないよう警告していたことを報じています。しかし、ロシアは核兵器使用の可能性をちらつかせ、国際社会に対し挑戦的な姿勢を示しています。対米共闘のパートナーとはいえ、自身の忠告に耳を貸さないプーチンに関して、多かれ少なかれ習政権は苛立ちを覚えていることでしょう。
思い返してみればそれもそのはずです。ウクライナ戦争をきっかけに、国際社会の現状変更に関する警戒感は更に高まり、中国は台湾統一のタイミングを失いました。またこの戦争は、習政権最大の目玉政策である「一帯一路構想」の完成を遠ざけた一因でもあるのです。このところの中国国内の反ロシア言論の黙認は、習政権によるロシアとの蜜月への終止符のようにも見えます。
しかし、中国という唯一無二のパートナーに見限られたとしたら‥‥。ロシアの行く先は和平のテーブルなのか、はたまたさらなる暴走なのか。注視が必要です。
●周来友
ジャーナリスト。中国浙江省紹興市生まれ。1987年に私費留学生として来日し、司法通訳人を経て現職。翻訳・通訳派遣会社も経営している