マイナカード問題で支持率を28%に激減させた河野太郎大臣と、深海でも平気な岸田首相(写真:共同通信社) マイナカード問題で支持率を28%に激減させた河野太郎大臣と、深海でも平気な岸田首相(写真:共同通信社)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。本連載『#佐藤優のシン世界地図探索』ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――岸田文雄首相は世間から相当、嫌われているような気がしますが、この連載で佐藤優さんの解説を聞いていると、ますます岸田首相のファンになりますね。

佐藤 ここのところ、岸田さんの外交は冴えているんです。岸田さんは支持率が30%になるとさらに冴えますよ。

何故なら、あの人は"深海魚"だからです。他の人が泳げない、すごい水圧の場所で真価を発揮します。まるでチョウチンアンコウみたいな感じですね。

――毎日新聞の全国世論調査(7月22~23日)では支持率が28%と、ついに30%を割りました。さらに深海に行かれた模様です。

佐藤 絶好調の深度に達しましたね。

――マイナカードが撃沈の最後の切り札となったのでしょうか?

佐藤 マイナカードは普通の人たち、魚でいうとアジとか浅い海の世界の話です。岸田首相はそんな話は苦手なんですよ。タイタニックが沈んでいるようなものすごい水圧のかかっている深海に行くと、調子が出て来ます。

だけど、岸田さんの気持ちを分かろうと思って、我々がその深い海の世界に潜っていくと潜水艦が圧壊したりして、大変なことになります。一生触れられない世界と思った方がいいですね。

――不可触領域だと。

佐藤 はい。30%台を切っ20%台になるとさらに真価を発揮する。そんな特殊な政権なんですよ。

――最近では何か冴えていた場面はありましたか?

佐藤 先月の16日から18日に行なったサウジアラビア、UAE、カタールの中東訪問ではとても冴えていましたよ。

――どの辺りがでしょうか?

佐藤 サウジでは、価値観外交の「カ」の字も発しませんでした。

――あの暗殺事件ですね。サウジ政権に批判的なサウジアラビア人ジャーナリスト・カショギ氏がトルコ人女性と結婚するために、トルコの首都・イスタンブールのサウジ領事館に書類を取りに行き、その館内で暗殺されました。遺体は今も発見されていませんが、ムハンマド皇太子の側近、警護役がこの暗殺事件に関わっていたと、後に明らかになりました。

バイデン米大統領がサウジを訪問した際にはこの事件に関して言及し、人権について話をしていましたが、岸田首相はノータッチです。

佐藤 協調してやっていきましょうと。中東では日本はロシアみたいな外交をやっているんです。

――冴えてますね!!

佐藤 それぞれの国の文化伝統があるから、各地ですみ分けていきましょうということですね。岸田政権は価値観外交を西側との関係でしか使いません。日本はアフリカでも、そういったハイブリット性の高い外交をやっていて、戦略的だと思いますよ

――岸田さんは右と左で全然、違う顔を持つ男。

佐藤 そう。中東で追求したのはエネルギーだけですよね。

――はい、実利に関することだけです。

佐藤 サウジからエネルギーを取りたい。ロシアからも取りたい。だから、ロシア産石油を止めない。要するに、日本にとって死活的なことはエネルギーが枯渇することですからね。エネルギーを取れるならばなんでもいい。という外交なんですよ。

――G7広島サミットの時の岸田首相とまったくの別人みたいです。やはり、我々の知らない深度には、未知の軍師がいるのですか?

佐藤 日本人の頭がいい、ということじゃないですか。

先月、リトアニアの首都で開催されたNATO首脳会議に岸田首相は行っていて、「ウクライナ支援に関する共同宣言」発出式典にも出席しました。

――はい。

佐藤 日本は西側との連携とか言っていましたけど、殺傷能力のある兵器を送るなんて、全然やってないですよね?

――やっていません。

佐藤 全部「復興支援」だから、ウクライナが勝つことが前提なんです。だから負ければすべて絵に描いた餅で、一銭も払わなくていいわけです。

――素晴らしい。「金銭」に関する価値観外交であります。まさに支持率28%で冴え渡っています、岸田首相。

佐藤 これはある意味、逆説的ではあるのですが、ポピュリズムを意識しなくてよくなるんです。

――と言いますと?

佐藤 逆に支持率が50%を越えたりすると、選挙をしないといけないから、国民受けしないとならない。そうするとポピュリズムに走ってしまいます。

30%を割っていて「どうせ人気も無いし、解散はしばらく出来ないな」となると、プロフェッショナルな観点から政策が進むということです。権力が壊れない程度に支持率が低いというのは、こうして逆に専門性が高まるわけです。

――すさまじい逆説が実は正解だと!!

佐藤 そう。やはり、とても戦略的だと思いますよ。だから、今、日本外交は非常に良い方向にいっています。ウクライナ戦争絡みで余計な金を使っていない。とても良い政権ですよ。

次回へ続く。次回の配信は8月18日(金)予定です。


●佐藤優(さとう・まさる) 
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞