朝鮮戦争の休戦協定締結から70年を迎えた7月27日、軍事パレードに登場した「火星18」(写真:朝鮮中央通信=共同) 朝鮮戦争の休戦協定締結から70年を迎えた7月27日、軍事パレードに登場した「火星18」(写真:朝鮮中央通信=共同)
7月22日の 朝日新聞は、北朝鮮が同月12日に二回目の発射実験に成功した新型大陸間弾道ミサイル・火星18が「ロシアのICBMと同じだ」と米専門家が伝えたことを報じた。

米国をも射程に収める火星18は果たして日本の脅威となるのか? 北朝鮮ミサイル発射時のテレビ解説でもおなじみの、金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏に話を聞いた。

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朝日新聞は当該記事で「ミサイル分野の権威である米マサチューセッツ工科大学(MIT)のセオドア・ポストル名誉教授は、火星18がロシアのICBM『SS27(ロシア名=トーポリM)』と同一だと指摘し、『ロシアの協力なしに北朝鮮は火星18を開発できなかっただろう』」と報じている。この報道を受けて伊藤氏はこう語る。

「1991年に米ソ冷戦が崩壊した際、北朝鮮は失業中の旧ソ連(ウクライナ・ロシア)の科学者約50名を雇用しました。核とミサイル開発のため『米国に行く2倍の給料を出す』として、金正日総書記が直接指示を出したのです。元ウクライナからの科学者9名の存在が2017年に確認されました。

2017年に完成した火星12に搭載した液体燃料エンジンは、1960年代にウクライナ国有企業でつくられたRD250と酷似しており、世界の専門家に衝撃が走りました。国家間の公式な技術移転ではなく、非公式に流通したとみられています。固体燃料の技術も2015年前後から北朝鮮に入りました。今回の米専門家のコメントも一定の評価をせざるを得ないでしょう」(伊藤氏)

かつて北朝鮮は発射地点を固定し、液体燃料を注入して、発射していたので、日本は発射前に兆候を探知できた。写真は平壌科学技術殿堂に展示される教育用「銀河3」模型(写真:柿谷哲也) かつて北朝鮮は発射地点を固定し、液体燃料を注入して、発射していたので、日本は発射前に兆候を探知できた。写真は平壌科学技術殿堂に展示される教育用「銀河3」模型(写真:柿谷哲也)
率直に言って、火星18は日本に対して危険を及ぼすのか?

「射程15000kmの大陸間弾道ミサイルを1000~1500km圏内に落とそうとすると、ほぼ直上に発射する<高高度ロフテッド>軌道を取る必要があります。国際宇宙ステーションが飛んでいる高度450kmをはるかに超え、高度6000kmまで上昇し大気圏に再突入させるルートです。現在人工衛星の処分は、地球に落下させる方法です。それよりも高高度から落下するミサイルですから燃え尽きるのは当然であり、基本的に日本や韓国が恐れるミサイルではありません」(伊藤氏)

今年の3月末に北朝鮮が「ファサン31」 という小型軽量化した核弾頭を公開したが、火星18の弾頭が核弾頭である可能性はないのだろうか?

「北朝鮮は核弾頭小型化の開発をしていますが、まだその核実験ができていません。いま北朝鮮が製造し保有している核弾頭は1トンといわれています。これを半分の500kgまで落とさなければ、短距離弾道ミサイルも含め、ペイロードとして重すぎるため、所要の射程を出すことができません。

核実験が困難なのは、中国とロシアが反対するからです。通常弾頭ミサイルは持ってもよいが、北京やモスクワを狙うことができる核弾頭は許さないとの共通認識があるからです」(伊藤氏)

北が移動発射式に切り替えるようになると、海自は即応ができる日本海に常にイージス艦を遊弋させて、SM3ミサイルで迎撃する体制をとった。写真は演習でSM-2対空ミサイルを撃つ「きりしま」(写真:柿谷哲也) 北が移動発射式に切り替えるようになると、海自は即応ができる日本海に常にイージス艦を遊弋させて、SM3ミサイルで迎撃する体制をとった。写真は演習でSM-2対空ミサイルを撃つ「きりしま」(写真:柿谷哲也)
とするとミサイルには搭載不可能だが、北朝鮮には朝鮮戦争戦勝70周年記念パレードに現れた、核無人水中攻撃艇・へイル2がある。水中で核爆発して大津波が日本を襲う、とうたわれている兵器だ。これならば、重さ1トンの核弾頭でも搭載可能だが?

「海中で核爆発して、はたして大津波が起きるでしょうか。ロシアが同様の兵器・ポセイドンに言及した時も世界の専門家は疑問を呈していました」(伊藤氏)

日本海沿いにある原発のある埠頭にヘイル2が突っ込み座礁してからの核爆発攻撃、これはどうだろうか?

「もし実際に核爆発するならば、原発は大変なことになりますね。ただ、北朝鮮の潜水艦は大きな音を立てながら動くので、海上自衛隊のP1対潜哨戒機や米海軍も見逃しません。」(伊藤氏)

核弾頭を搭載できる無人水中攻撃艇「ヘイル2」は航続距離千キロ。日本海沿岸にどこにでも到達できる。海自はP1哨戒機で探知、魚雷・爆雷で対処することになる(写真:柿谷哲也) 核弾頭を搭載できる無人水中攻撃艇「ヘイル2」は航続距離千キロ。日本海沿岸にどこにでも到達できる。海自はP1哨戒機で探知、魚雷・爆雷で対処することになる(写真:柿谷哲也)
では、なぜ日本は北朝鮮がミサイルを撃つ度に大騒ぎしているんですか?

「北の対日本向けミサイルは、昔からあるノドンとスカッドです。液体燃料を注入するので、以前は発射前に探知出来たのですが、金正日体制の後半からTEL(Transporter Erector Launcher =輸送起立発射機。防衛研究所は『発射台付き車両』と呼ぶ)を使い始めたところ、その兆候がつかみにくくなりました。通常弾頭でもこれらが日本の原発に撃ち込まれたら大変です。また平時の日本では、ミサイル落下により一人でも日本人が犠牲になれば、大変なことになるでしょう」(伊藤氏)

国民にそのような説明は無い気がするのだが......。原発にいる方々は「飛行機が墜落しても大丈夫」と説明し、ミサイルが着弾する事に関しての説明はこれまでに聞いたことはない。

「東日本大震災の福島原発事故は、現場の方々の努力により奇跡的に小規模被害で済みましたが、東京を含む東日本は死の街になるところでした。ノドンとスカッドは全部で1000基あり、終末速度はマッハ5です。日本海上空の宇宙空間で海上自衛隊のイージス艦が撃ち漏らしたミサイルは、航空自衛隊のPAC3以外では撃ち落とすことはできません」(伊藤氏)

海自イージス艦が撃ち漏らした北弾道ミサイルは、着弾寸前に空自のPAC3のミサイルで撃墜を試みる。写真は日米訓練で岩国基地に展開した空自PAC3(写真:米海兵隊) 海自イージス艦が撃ち漏らした北弾道ミサイルは、着弾寸前に空自のPAC3のミサイルで撃墜を試みる。写真は日米訓練で岩国基地に展開した空自PAC3(写真:米海兵隊)
日本は北のミサイル発射について騒ぐわりには、市ヶ谷の防衛省にだけ東京の防空としてPAC3が展開されており、それ以外のPAC3は航空自衛隊の基地内にあるという。

「市ヶ谷のPAC3で皇居や官邸を守ることはできますが、ミサイルは北朝鮮だけではなく、台湾有事ともなれば中国から多くのミサイルが飛んでくる可能性があります。本気で日本を守るつもりがあるならば、反撃能力とともに、地下施設の設置など、ミサイル攻撃を受けても国民を守ることができる体制を作っておく必要があります。

現在、与那国島などの南西諸島4か所にPAC3が配備されましたが、PAC3の運用には『重要施設防護』という概念があり、本来は原発を含むすべての重要施設周辺には常時配備しておく必要があるのです」(伊藤氏)

公開された情報によると、航空自衛隊には現在34基のPAC3があるらしい。ならば、官邸、皇居防護用に日比谷公園を潰してPAC3を配備。そして、原子力発電所マップから、全国で計14か所にPAC3を配備すれば万全。

北朝鮮がミサイル発射をするたびに、日本政府が厳重に抗議しても無駄だ。伊藤氏が言う通り、重要施設防護に常時、PAC3を配備すべきではないのだろうか。