ロバート・F・ケネディ・ジュニア(69歳)1954年生まれ。第35代アメリカ大統領のジョン・F・ケネディの甥。ハーバード大学を卒業後、バージニア大学ロースクールで法学博士号を取得し、弁護士として環境問題などに取り組んできた。しかし、陰謀論や反ワクチンの発言により、一族から距離を置かれている ロバート・F・ケネディ・ジュニア(69歳)1954年生まれ。第35代アメリカ大統領のジョン・F・ケネディの甥。ハーバード大学を卒業後、バージニア大学ロースクールで法学博士号を取得し、弁護士として環境問題などに取り組んできた。しかし、陰謀論や反ワクチンの発言により、一族から距離を置かれている

起訴や炎上を経てもなお、支持率トップで独走モードの共和党のトランプ前大統領。息子のスキャンダルが出ても安定した支持率で再選を狙う民主党のバイデン現大統領。

そのほかが泡沫候補ばかりで、次の大統領選はふたりの一騎打ちかと誰もが思ったそのとき! 民主党から予想外の刺客が......!  名門・ケネディ家のはみだし者、ロバート・F・ケネディ・ジュニアだ!コイツが今回の大統領選をひっくり返す!?

■トランプよりも根強い陰謀論者

来年11月のアメリカ大統領選挙に向けた共和党の指名候補争いで独走状態が続くドナルド・トランプ前大統領。

8月14日(現地時間)には、2020年の大統領選でジョージア州の選挙結果を不当に覆そうとした容疑で4つ目の起訴が決まったばかりだが、それでも共和党内のトランプ支持率は5割を超え、2位のフロリダ州知事、ロン・デサンティス(14.8%)を大きく引き離している。

一方、民主党も今年の初めに現職のバイデン大統領が出馬を宣言して以来、ほかに有力候補が立候補せず、このまま、2020年の大統領選と同じ、バイデンとトランプの再戦となるのではと思われていたのが、ここにきて気になる伏兵が注目を集めている。

その名はロバート・F・ケネディ・ジュニア(以下、RFKJr.)。あの第35代アメリカ大統領、ジョン・F・ケネディを伯父に、そしてロバート・F・ケネディ元上院議員を父に持つ、名門中の名門「ケネディ家」の御曹司が、今年4月に民主党予備選への出馬を表明したのだ。

4月に出馬表明し、最近じわりと支持率上昇中。その裏には共和党の影が 4月に出馬表明し、最近じわりと支持率上昇中。その裏には共和党の影が

RFKJr.は現在69歳。80歳という高齢が不安視されるバイデン大統領より10歳以上も若く、環境問題や公害訴訟に熱心な弁護士。その上、名門ケネディ家の出身といえば、民主党の有力候補になりそう!と思いきや......。

「王様のいないアメリカにとって、ケネディ家は一種の『ロイヤルファミリー』のような存在なのですが、RFKJr.はそんなケネディ家のドラ息子として有名なんです」

そう語るのは、アメリカ在住の作家でジャーナリストの冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)氏だ。血筋や肩書は立派なのに、なぜ?

「ケネディ家に生まれ、典型的な良家のボンボンが通うマサチューセッツ州の名門寄宿学校に入るのですが、ドラッグで2回退学。それでもハーバード大学を卒業して弁護士になるのですが、何しろ家系的にも根っから左翼の人間なので(苦笑)、環境問題が大好きで、大企業叩きが大好き。

河川の環境保全や水資源の保全を訴える『世界の水が危ないプロジェクト』で有名になり、公害問題などで大企業を訴えて賠償金を勝ち取るという、典型的な"左翼系・環境派弁護士"です。

ちなみに、近年は、過激な反ワクチン論者としても有名で、コロナ禍になるはるか前から『ワクチンを打つと子供が自閉症になる』という根拠のない主張を展開し、たびたび問題になっていました」

そして実際にパンデミックが起きると、その活動は激しさを増した。

「新型コロナが流行すると、『ワクチンを打つと体内に追跡用のチップを埋め込まれる』といった陰謀論をSNS上で連日拡散し、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所の所長だったアンソニー・ファウチ博士やビル・ゲイツがコロナ禍の黒幕であるかのような発言を続けていました。

民主党予備選に出馬後も『新型コロナは東ヨーロッパ系ユダヤ人と中国人の子孫を救うために、白色人種と黒人を狙って人工的に作られたウイルスだ』などと発言して激しく非難されています」

数々の発言によって、ほかのケネディ家の面々は彼と距離を置く始末。お茶の間では、反ワクチンの陰謀論者ということもあり、"民主党のトランプ"と呼ばれているとか。

ちなみに、陰謀論といえば「Qアノン」に代表されるトランプ支持者に多いイメージだが、冷泉氏は「むしろ左派のRFKJr.のほうが『元祖・陰謀論者』といえるかもしれません」と語る。

「伯父のジョン・F・ケネディがダラスで暗殺されたのは、彼が9歳のとき。父のロバート・F・ケネディはその5年後、今の彼と同じように民主党の大統領候補予備選に立候補した直後に暗殺されました。

子供時代に偉大な伯父と父が相次いで暗殺され、いずれの事件も背後になんらかの陰謀があったとささやかれました。そうした悲劇の中で育った彼の心には陰謀への不安や恐怖が深く刻まれたとしても不思議ではありません。

そのためか、暗殺されたケネディ兄弟の"敵"であった軍産複合体や白人至上主義者への憎しみが特に強く、それが彼を『巨大企業≒悪』とか『軍や国家≒悪』といった思い込みの先にある左派的な陰謀論の世界に引きずり込んだのかもしれません」

暗殺された父親のひつぎを運ぶ当時14歳のロバート・F・ケネディ・ジュニア(写真手前)。伯父や父の暗殺が彼を陰謀論に引きずり込んだ? 暗殺された父親のひつぎを運ぶ当時14歳のロバート・F・ケネディ・ジュニア(写真手前)。伯父や父の暗殺が彼を陰謀論に引きずり込んだ?

■献金しているのは共和党支持者!?

そんな彼だが、民主党支持者を対象にした最新の世論調査では支持率13.8%で現職のバイデンに次ぐ2位をマークしている。支持率60%超のバイデンに大差をつけられているのは事実だが、共和党でトランプに次ぐ2位につけるデサンティスの支持率も14%前後だということを考えると、あながち泡沫(ほうまつ)候補ともいえない気がしてくる。

名門ケネディ家出身の反ワク陰謀論者が、バイデンに代わって民主党の大統領候補になってしまう可能性はないの?

アメリカ現代政治が専門の国際政治学者で上智大学教授の前嶋(まえしま)和弘氏は「現実的に考えれば彼は泡沫候補のひとりでしかない」と前置きした上で、「私も含めて多くの人たちが、RFKJr.の支持率が10%を超えたことに驚いています」と語る。

「ただし、その主な理由は民主党の予備選にバイデン以外の有力候補がいないからで、これは共和党の予備選の候補者が11人も乱立した結果、トランプ以外の票が分散してしまい、支持率が14%前後にとどまっているデサンティスとは対照的です。

つまり、RFKJr.は民主党支持者の中で『バイデンはイヤだ!』という人たちの受け皿になっているに過ぎません。実際に積極的にRFKJr.を支持しているのはおそらく1~2%程度だと思われます」

また、彼が訴える政策も問題だらけだという。

「彼の主張には『メキシコ国境を完全に封鎖する』というトランプ風のモノもあれば、『海外の米軍基地をすべて撤退させる』や『ロシアに妥協してでもウクライナは即時停戦すべき』など、政策として現実味がないものばかり。

とうてい予備選で支持を得られるとは思えません。ただし、民主党を支持する左派の中にも、熱心な反ワクチン主義者やおかしな陰謀論を信じてしまうような人たちが存在するのは事実です。

今後、民主党支持層の中からRFKJr.に共鳴する人が掘り起こされていき、支持率をキープするようなことになれば、今のところは開催しない予定の討論会に、RFKJr.を呼ばなきゃいけなくなるかもしれません。

歴史的に見ると、現職の大統領が出馬した予備選に同じ政党の対立候補が出ると、党内分裂のイメージがついて本番の大統領選で負けることが多いのですが」

そこに目をつけたのが共和党だ。実は、主にRFKJr.に選挙資金を提供しているのは、これまで共和党やトランプに大型の献金をしてきた保守派で、FOXニュースなどの保守系メディアも積極的に彼を取り上げているのだ。

「そうやって共和党支持者や保守系メディアがあえて"ケネディ現象"とあおる背景には、おそらく、意図的にケネディを支援することで民主党内を分断して、バイデンの足を引っ張ってやろうという狙いがあるのだと思います」

しかし、やりすぎると逆に足をすくわれる可能性も。

「RFKJr.が展開する陰謀論の中には、トランプ支持者に重なるものも少なくない。また、民主党の極左という票田も持っている。民主党候補になる可能性は低いですが、選挙の盤面を動かす可能性はあります」(前出・冷泉氏)

そんな注目株の彼だが、果てにはこんな噂話が......。

「真偽のほどはわかりませんし、実現するとも思えませんが、ほかならぬトランプ自身が副大統領候補としてケネディにラブコールを送っているとか(苦笑)」(前出・前嶋氏)

Qアノンを信じる共和党のトランプ支持者と、反ワク陰謀論者で構成されるRFKJr.支持者がひとつになるかも!? 次期大統領選、ますます見逃せないんだけど!