日英伊三国共同開発が決まった次期戦闘機F3。その計画にサウジが参画希望した(写真:防衛省)日英伊三国共同開発が決まった次期戦闘機F3。その計画にサウジが参画希望した(写真:防衛省)
8月11日、サウジアラビアが日英伊三カ国共同計画の次期戦闘機・F3開発に参加を希望した。英伊は賛成、日本は反対を表明したと報道されている。

マイナ保険証の導入問題などで日本国内は荒れているが、実はこの次期主力戦闘機F3の開発計画には国の将来の命運がよりかかっているといえるかもしれない。

世界の戦闘機を撮影し続けるフォトジャーナリスト・柿谷哲也氏は、「サウジアラビアが参加を希望するのは予想できた」と断言する。

「英軍とサウジ軍の関係は自衛隊より古く、サウジ空軍の前身であるヒジャーズ空軍は1921年に英空軍の協力で始まりました。以来、サウジ空軍は英国戦闘機を主力としています。古くは、BACストライクマスター戦闘機にはじまり、ハンター、ライトニングなど120機を購入。最近はイタリア・ドイツも開発参加したパナビアトーネード戦闘機と攻撃機を計120機、ユーロファイターは72機購入しています。

英国とサウジの武器貿易の歴史を鑑(かんが)みれば、サウジが参画するのは容易に想像できたはずです」

写真はサウジ空軍でも採用されているユーロファイター。サウジ空軍は大昔から英空軍と繋がりがあり、英国の作った新型戦闘機を常に購入している(写真:ユーロファイターGmbH)写真はサウジ空軍でも採用されているユーロファイター。サウジ空軍は大昔から英空軍と繋がりがあり、英国の作った新型戦闘機を常に購入している(写真:ユーロファイターGmbH)
この事情を日本は知らないのか、サウジの参画に反対を表明している。

「原油、LPG取引に影響が出るかもしれません。先日、サウジ王族一行のアジア旅行では、日本をキャンセルして韓国に行っています」(柿谷氏)

日本はすでに東アジアでは、韓国の後ろに控える後進国になろうとしている。その影響がこの日英伊三カ国共同計画に出てくる可能性があると、柿谷氏は続ける。

「この日英伊三カ国共同計画は、英伊が共同開発していた次世代戦闘機『テンペスト』が資金難で苦しんでいて、その供出先に日本が出てきたので、三カ国開発がまとまりました。そんななかでサウジが資金を拠出するとなると、開発のイニシアチブやデリバリーの優先をサウジが申し出る可能性があります」(柿谷氏)

1980年代にトーネード戦闘機もサウジは英国から買っている(写真:米空軍)1980年代にトーネード戦闘機もサウジは英国から買っている(写真:米空軍)
一方で、日本国内の最大の障壁は、自民党と公明党の与党間で、戦闘機の第三国輸出を可能にしようと話し合いがずっと続いていることだ。しかし、自公の実務者協議では英伊と共同開発する次期戦闘機を含めて、装備品の第三国輸出を解禁したいとの考えが示された。

万事、うまく展開すると思われたが、航空自衛隊の那覇基地302飛行隊隊長を務めた杉山政樹元空将補は、そうでもないと指摘する。

「次期戦闘機F3の輸出解禁はまだ決まっていません。何も決まっていないのにそのような話が出来上がってしまい、積極的な閣僚や官邸の官僚たちが動き始めています。ただし彼らは決して、ビジネスライクな形でやっているわけじゃない。閣僚と官邸の官僚が『俺たちは戦略的に考えてやっている』と言うバカな考えでやっているので、何も一致していないのです。

サウジの日英伊三カ国共同開発に参加についても、日本のメーカーは反対だと言っていません。おそらく『反対だろう』と言っているだけ。英伊がサウジを歓迎しているというのも、それは無いと思いますよ」(杉山氏)

全ての報道にはひとつも真実が存在していないのか......。杉山氏はこの報道の背景をこう推測する。

「この裏を考えると、今後のサウジはオイルマネーだけでは難しく、サウジの皇太子は自国になんらかの産業を持とうとしています。そのひとつが、航空産業と第6世代の特徴でもあるネットワークを含む軍事産業。自国に生産工場を持って外貨を稼ぐという目標があります。F3に参画するのもそのビジョンに当てはまっています」(杉山氏)

英伊は、テンペスト開発で資金難に陥っていたが、日本がそれを救う形で三カ国開発に。オイルマネーの有り余るサウジ。英伊は、簡単に日本を切るかもしれない(写真:BAEシステムズ)英伊は、テンペスト開発で資金難に陥っていたが、日本がそれを救う形で三カ国開発に。オイルマネーの有り余るサウジ。英伊は、簡単に日本を切るかもしれない(写真:BAEシステムズ)
そしてサウジが日英伊F3開発に加わると、混沌とした状況に陥るという。

「めちゃくちゃにややこしくなります。日英伊は現在、各国の技術の得意な部分を主導させ、作り分ける形を交渉しています。しかし、そこに金にモノを言わせて何の技術力もないサウジが入って生産だけは自分たちで行ない、さらに『ブラックボックスの生産もやるから、秘密も全てくれ』となります」(杉山氏)

さらに杉山氏は、今回の発端に日本が関係していると続ける。

「サウジがここまでやる気になっているのは、先日の岸田文雄首相のサウジ訪問があります。岸田首相が『日本の技術もありますから、一緒にやりましょう』とものづくりに誘ったからです。

もはや、岸田首相の政治的手腕でどう収めていくかです。そう言っておいてF3開発になったら『それはできませんよ』と言えませんから。岸田首相は色んな分野に種を蒔いて、ちゃんと回収しないから、正に混沌としている状態にしてしまう。その問題のひとつがこれです」(杉山氏)

国内のマイナンバーだけではなく、岸田首相自らが、四カ国にまたがる国際問題にしてしまった。岸田首相に収束できる力はあるのか......。

「英伊にとって、サウジのお金が入るなら別に日本に入ってもらう必要はありません。米国は今、英伊と組んだ日本を笑ってみていますよ。米国からすればこの事態は計算済みだと思いますけどね」(杉山氏)

日英伊でF3は作れなくなり、もちろん日米共同開発は不可能。日本は空軍として二軍になるのか。

「その可能性はあります。日本は第二次大戦後、米国から最新鋭の戦闘機をもらいながら、空自は"空軍"として成長してきました。

今回それがなくなることによって、アジアで戦うのがとても難しくなります。空自は第五世代戦闘機として142機のF35を所有していますが、F35がフライト停止になった瞬間に空自はなくなりますから」(杉山氏)

第6世代戦闘機であるF3の開発計画が頓挫(とんざ)すれば、今後、中国・ロシアと対峙しなければならない時に空自が消滅している可能性もあるのだ。

この問題が日本の未来を左右する。岸田首相の今後の手腕に、全てがかかっている。