ロシア軍が誇る地対空ミサイル拠点を撃破。さらにはクリミア半島にウクライナ軍の特殊部隊が上陸を成功させるなどなど。順調に進行しているように思えるウクライナ軍の反転攻勢だが、西側各国からは「厳しい局面」との指摘も!? そんな、ウクライナ侵攻に登場する両軍の新兵器や珍兵器を紹介ですっ!
* * *
■ドローンは空中から水中の時代に投入!
侵攻から1年半以上が経過し、ドローン兵器の活躍、誘導ミサイルの撃ち合い、さらには第1次世界大戦の定番戦術だった塹壕(ざんごう)戦が復活するウクライナの戦況。
そんな中、西側諸国から供与された新兵器からウクライナ開発の珍兵器まで登場中。今回は、元陸上自衛隊幹部で自衛隊の兵器・戦術の研究機関である富士学校の研究員を務めた、ジャーナリストの照井資規さんに、各種兵器の解説をしてもらいますっ!
――現在、各種SNSや動画共有サイトで【Ukraine Drone】で検索すると、テレビやYouTubeでは公開不可レベルのドローンや無人機の攻撃による衝撃動画が大量ヒット。両軍が活用する兵器の注目は?
照井 ウクライナのゴキブリです。
――これは珍兵器確定かと!
照井 ネーミングも見た目も残念な感じですが、実はリモート操作での攻撃や輸送任務が行なえる優秀な無人小型車両です。民生品の運搬用小型車両を改造したことで、低コストで大量生産が可能な設計になっています。
行動範囲は1.5㎞で、対戦車地雷の除去、そしてロシア軍の塹壕への自爆攻撃用としての活躍が期待されています。
――飛行型のドローンは?
照井 ルバカに注目です。これまでウクライナで活躍していた、民生品を改造して手榴弾(しゅりゅうだん)や迫撃砲弾を投下するドローンとは違い、ルバカは専用設計かつ飛行機型の自爆ドローンです。
飛行機型は、民生品の改造型に比べ圧倒的に航続距離が長いのが特徴。ルバカは航続距離が500㎞あり、ウクライナ国境からモスクワを攻撃することも可能です。このスペックと、その外観から、7月末から8月初旬に行なわれた自爆ドローンによるモスクワ攻撃は〝ルバカによる作戦〟だと噂されています。
しかし現在、飛行機型のドローンは各種対空兵器、さらに操作・映像の送受信電波を遮断する指向性電磁波兵器の急速な発展で無力化されつつあります。その一方で、無双状態になっているのが、水中ドローンです。
――でも、水中ドローンの活躍が伝わってきませんけど?
照井 秘匿部分が大きいからです。イギリスはアメリカが開発した自律型の水中ドローン、REMUS 600をウクライナへ供与しています。これは全長3.25m、直径32.4㎝という、見た目は魚雷そのものですが、本来は海洋調査に使用されるものです。
――それ、調査用だから攻撃には使用できませんよね。
照井 いえ。爆薬を搭載できるスペースも確保されています。7月17日に行なわれたクリミア大橋の攻撃について、ロシア政府は「ウクライナの水中ドローンに攻撃された」と発表し、それに対してウクライナ側は「水中ドローンがロシアの海中警備網を突破した」とコメントしました。
REMUS 600の搭載できる爆薬量、そしてクリミア大橋の破壊状況から考えると、REMUS600が使用された可能性が高いのです。
――REMUS 600の優秀な部分とは?
照井 小型で水深600mまで潜航でき、航続距離は500㎞。さらにモーター駆動で音・熱をほぼ発しません。つまり、現状でいかなる海上警備網も突破できる性能なのです。今後の改良で爆薬搭載量がアップすれば、間違いなく海上の無双兵器となるでしょう。
■ロシア軍が誇る最強攻撃ヘリ!
――では、ロシア側の注目兵器はどうでしょう。各種SNSや動画共有サイトには、鳴り物入りで前線に投入されたドイツ戦車やアメリカの装甲車両がフルボッコにされている動画がありますけど?
照井 それを実行したのがロシアの攻撃ヘリコプター、Ka-52です。通常ヘリコプターは機体後方に、飛行方向を安定させるテールローターが配置されています。
攻撃ヘリに遭遇した場合は、そのテールローターを攻撃するのが各国軍隊の基本戦術ですが、Ka-52はヘリの弱点であるテールローターがなく、一般的な戦術が通用しません。
さらに重装甲かつ重武装にもかかわらず機動力もある。それもあってウクライナ軍の戦車や装甲車をカモにしている状況です。
そしてドイツ供与のレオパルト2は上部装甲が弱点で、特にヘリの攻撃には弱い。なので、その強化モデルであるスウェーデン供与のStrv.122が投入されています。
――では、ロシア軍の地上兵器の注目は?
照井 まだ実戦では確認されていませんが、侵攻当初から投入が噂されているのが、自律型の無人戦車、Markerです。対戦車ミサイルや機銃を装備でき、監視・偵察・攻撃を自動で行なえる車両で、ロシア軍での通称は〝レオパルトハンター〟。これが大量投入されると、ウクライナ軍の戦車兵力はより厳しくなるでしょう。
――Markerに対抗するウクライナ軍の新兵器は?
照井 アメリカ軍が供与したクラスター弾です。クラスター弾は250発の子弾をバラまき、装甲の弱いMarkerにも有効。スウェーデンがウクライナに供与したアーチャー自走榴弾砲でもクラスター弾を発射することができます。
――でも自走榴弾砲や、それを護衛する戦車もロシア軍のKa-52に撃破されてしまうのでは?
照井 それもあって、開戦当初からゼレンスキー大統領は各国に空対空、空対地攻撃が可能なマルチロール機の供与をリクエストしています。その〝本命〟となっているのが、スウェーデンのJAS39グリペン戦闘機です。
グリペンのウリは攻撃力だけでなく、整備性が突出している点です。本国スウェーデンでは一般的な自動車整備士に短期間の訓練を施しただけで、グリペンの整備が行なえるほどです。
また、各国との合同演習ではタイ空軍の使用するグリペンが、中国軍のSu30を圧倒し、世界的に〝スホーイキラー〟と呼ばれています。
ウクライナは映画『トップガン マーヴェリック』で活躍したF/A-18戦闘機をオーストラリアに供与打診していますが、ロシア側からすればグリペンのほうが脅威です。
現状、グリペンに関しては、スウェーデン側からの供与承認がありません。しかし、ウクライナ軍による実機を使用した運用評価は認めています。なので、供与の可能性は高いといえるでしょう。
――このほか、照井さんが気になった兵器はありますか?
照井 ウクライナが開発した戦闘カヤックです。
――これは弾がかすっただけでも沈むやつ!
照井 カヤックは装甲を装備しませんが、構造的に小銃弾の貫通程度では沈没しません。そして、水中ドローン並みに隠密性が高く、実は各国軍隊の特殊部隊では100㎞圏内の長距離偵察、湾内破壊活動のトレンド兵器となっています。
そもそもカヤックは第2次世界大戦から、港に停泊するドイツ軍の艦船を攻撃するための連合軍の定番兵器でした。なので、この戦闘カヤックもロシア海軍の停泊地へ無音で潜入し、艦船に時限爆薬を設置する用途が期待されています。
――あと、ゲームの『エーペックスレジェンズ』に出てきそうな小銃はなんですか?
照井 弾倉と機関部を本体後方に配置したブルパップ小銃です。各国が採用を廃止する一方、塹壕戦がメインとなったウクライナで再評価されています。
ブルバップ小銃は一般的な小銃に比べ15㎝前後も全長が短く、狭い塹壕内でも射撃しやすく、抱えたまま格闘ができるほど取り回しに優れています。それが再評価され、ウクライナの軍需メーカーは既存のAK-74をブルパップ小銃に改造するキットを積極的に開発しています。
――日本車のランクル70系も魔改造されていますけど!?
照井 信頼性、部品の入手が容易な整備性の良い日本車に機銃やミサイルを搭載する世界中で人気の簡易戦闘車両です。ウクライナでもランクルの装甲車仕様などが開発されています。
――では最後に、今後のウクライナの反転攻勢で最も役立つと思う兵器とは?
照井 グリペンです。攻撃力は申し分なく、短期間で行なえる製造、整備面、さらに短い滑走路でも離着陸可能な設計。スウェーデンが対ロシア兵器戦を徹底的に研究して開発した機体です。
ただ、現在の戦況を見ていると目まぐるしく兵器の価値が変化しています。オワコン兵器が再評価される一方で、その逆も多い。なので、実戦でグリペンがどう立ち回れるかを、各国の軍事関係者が注目している状況です。
写真/ArmyInform BlackStorm Dylan Malyasov Ukrainian Front Vivakot アメリカ海軍 ウクライナ国防省 オーストラリア空軍 スウェーデン陸軍 スウェーデン空軍 ロシア国防省