解決するには直接、トップに会って話し合うしかないのか......(写真:バンコク‐共同) 解決するには直接、トップに会って話し合うしかないのか......(写真:バンコク‐共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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ここのところ、中国の対日本攻撃がすさまじい。福島原発の処理水放出に対する激しい抗議、そして日本からの水産物輸入禁止。さらに中国一般市民からも電話突撃が日本国内で多発している。

――これは、どうなっているのですか?

佐藤 中国はここのところ、対日姿勢がちょっと変ですよね。福島原発の処理水の話でも、ほとんど実体から乖離(かいり)したような対応じゃないですか。

――すさまじい数の国際電話が中国から日本の企業や飲食店にあり、意味の分からない中国語と日本語で明確に罵倒してくるそうです。

佐藤 そんな状態になっているのは、常識としておかしい。常識でおかしなことは外交でもおかしいのです。しかも、本来はそれを止めなければならない中国の外交官も国民を煽(あお)っています。

――8月14日には中国国防省報道官が、太平洋で合同パトロールをしている中露連合艦隊に対する日本艦艇の追跡監視を止めるように要求しました。これも「変」に入りますか?

佐藤 そうですね。日米が太平洋で軍事演習をする時、中露艦艇がそばに来て見ています。なのに、逆の立場になると止めろと大騒ぎするのは、やはり中国がかなりおかしな感じになっていると見た方がいいと思います。

――何が原因なんですか?

佐藤 習近平さんの「思い込み」が激しくなっているのではないでしょうか。

――それは怖くないですか?

佐藤 怖いですよ。習近平が日本を敵視して、ちょっと締めてやろうと思い込んじゃっています。すると習近平の周辺は日本について悪い情報しか持っていきません。だから悪循環になります。

――「王様の耳はロバの耳」じゃないですけけど、トップが喜ぶ情報しか持参しない。ということは、日本がどんどんと追い込まれているという情報を持っていかないとならない。すると、この一連の中国の対日行動は終わらないですかね?

佐藤 習近平に「福島原発の汚染水がかなり危険です」という情報をどんどん上げているんだと思います。

――それは怖い。

佐藤 北朝鮮の方がまだましです。北の声明だと、まだ日本と対話する姿勢を感じますから。それに対して、中国の方は取り付く島もない感じです。

それから、日本産の高級魚を中国は全面禁輸にしました。これは日本では誰も予測できなかったことです。もう日本の水産業は、中国相手の商売を怖くてやれません。

一方で、中国国内の外食産業もおもいっきり影響を受けています。中長期的に中国がどれくらい損をするか......後先考えず、無茶している感じがします。

――全ては中国トップの決断......。

佐藤 トップが誤った判断をしていて、周りがそれに忖度するという悪循環に入っているので、日中関係の調整はこれから結構大変だと思いますね。

――解決策はありますか?

佐藤 当面はないでしょうね。

――困りましたね......。

佐藤 やはり日本の政治家が習近平と直接話さないと駄目です。

――8月28日からの公明党・山口那津男代表の訪中では、それが期待されていましたが、延期されました。

佐藤 中国が公明党に来るなと言っているわけです。つまり「今、来たって、習近平に会えない」、あるいは「会っても決裂になるから来ない方がいい」という中国側の判断かもしれません。

ただ、中国と公明党の特殊な関係を考えると、いつになるか分からないですけど、山口代表と習近平との会談を取り付けるでしょう。だから山口代表が中国へ行くのは関係改善の大きなチャンスになりますね。

――そこが突破口になるかもしれないのですね。

佐藤 ただし、中国は妥協できるようなカードがない限り、山口代表を受け入れられません。今の両国の政治日程で、日中首脳会談は入って来ません。入って来るのは山口さんが訪中する時ぐらいでしょう。

――すると長期戦になりますね。何かのきっかけで日中が戦争状態になる事はありえますか?

佐藤 それはありません。

――何か希望が持てる話はないでしょうか?

佐藤 ひどい話だけが中国から出て来ていますよね。中国関係で変なことを言っているのは、現象面に関して。この処理水の対する話もそのひとつです。やはり習近平がかなりゆがんだ対日感を持っているのでしょう。

――それを変えるには、直接、習近平と会って話し合うしかない。

佐藤 習近平はインドネシアのジョコ大統領に「一緒に日本に文句を付けよう」と言ったぐらいですからね。ということは、習近平の頭はすでにそういう方向になっています。だから本人と直接話さないと、周囲からでは無理ですね。

――今月6日に行なわれたASEAN首脳会議の席上で、岸田首相は中国の李強首相と短時間立ち話をしました。しかし、この方は習近平の周囲の人だから......。

佐藤 無駄ではないですが、習近平の認識を変えるまでには至らないでしょう。

次回へ続く。次回の配信は9月29日(金)予定です。

●佐藤優(さとう・まさる) 
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞