ヒズボラの事実上のオーナーであるイラン(資金提供は年間7億ドル規模との試算も)は近年、ヒズボラとハマスの連携ネットワーク強化に注力しているという。資金援助だけでなく戦闘技術や兵器製造技術の移転も加速化していた可能性が高い ヒズボラの事実上のオーナーであるイラン(資金提供は年間7億ドル規模との試算も)は近年、ヒズボラとハマスの連携ネットワーク強化に注力しているという。資金援助だけでなく戦闘技術や兵器製造技術の移転も加速化していた可能性が高い

壁やフェンスで囲われ"青空監獄"と呼ばれるガザ地区を17年間統治してきたハマス。イスラエル軍によるガザ侵攻が迫る中、北側からハマスへの援護射撃のように攻撃を繰り返すヒズボラ。両組織の関係を、中東情勢のエキスパートが解説する。

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■ハマスとヒズボラの邂逅が歴史を変えた?

10月7日にパレスチナ自治区のガザ地区からイスラエルに越境攻撃を行ない、10月25日現在も200人規模の人質を拘束しているハマスは、軍事部門のほかに政治部門もあり、2006年からガザ地区を統治している。インフラの維持、病院や学校などの運営にも携わっている。

イスラエルが「血みどろの怪物」と称し、根絶を宣言しているハマスとは、いったいどんな組織なのか? 中東情勢に詳しい国際政治アナリストの菅原 出氏が解説する。

「1987年に発足したハマスは、PLO(パレスチナ解放機構。現在ヨルダン川西岸地区を統治するファタハはPLO内の最大派閥)がイスラエルとの和平交渉に乗り出した1990年代以降も、対イスラエル強硬路線を貫きました。2006年のパレスチナ自治評議会選挙でファタハに勝って以来、現在までガザ地区を統治しています。

今もガザ地区の一部の役人はファタハから給料をもらっていますが、ハマスはファタハから資金提供を受けられないため、イランからの支援、地下トンネルを通じたエジプトからの密輸、あるいは独自の徴税などで資金を賄っています。軍事部門トップはガザ地区にいますが、政治部門トップはカタールに拠点を置いています」

ハマスの軍事部門「カッサム旅団」のトップ、ムハンマド・デイフ氏 ハマスの軍事部門「カッサム旅団」のトップ、ムハンマド・デイフ氏

ハマスの政治部門トップ、イスマイル・ハニヤ氏はカタールの在外拠点をベースに活動。対イスラエル奇襲攻撃の1週間後にはイラン外相と会談を行なっている ハマスの政治部門トップ、イスマイル・ハニヤ氏はカタールの在外拠点をベースに活動。対イスラエル奇襲攻撃の1週間後にはイラン外相と会談を行なっている

かつてハマスを取材した経験のある国際ジャーナリストの河合洋一郎氏はこう言う。

「もともとハマスは、慈善団体の色が強いエジプトのムスリム同胞団のガザ支部として発足していますから、住民に社会サービスを提供するのは自然な行動でもあります。

私は2003年、後にハマスの2代目指導者となったアブドルアジズ・ランティスィにガザの自宅でインタビューしましたが、警備の〝緩さ〟には正直驚きました。入り口こそ弾痕がいくつも残る鋼鉄の扉で、いかにも過激派の首領の家という感じでしたが、持ち物検査やボディチェックはごく普通。ボディガードもひとりだけでした。

彼はその翌年、車両での移動中にイスラエル軍のヘリコプターから発射されたミサイルで殺されてしまいました。前任に当たる初代指導者もそのわずか1ヵ月前に同様の形で殺されています。これをきっかけに、ハマス内部でセキュリティと諜報(ちょうほう)能力を上げる努力がなされたであろうことは想像に難くありません」

そのハマスと深い関係があり、〝第三勢力〟として参戦してくる可能性が指摘されているのがヒズボラだ。

マロン派キリスト教徒、スンニ派イスラム教徒、シーア派イスラム教徒が混在するレバノンで活動するシーア派組織のヒズボラは、イスラエルとの国境に近い南部を拠点としている。

保有するミサイルやロケット弾はハマスをはるかにしのぐ約15万発、最大兵力も4万5000人以上という強力な民兵組織だ。さらに、ハマスと同じく議会にも進出し、レバノン政府の閣僚ポストまで手にしている。

前出の河合氏が解説する。

「イスラエルがレバノンに侵攻した1982年、ヒズボラの発足と同時に、シーア派の領袖(りょうしゅう)であるイランは戦士を訓練するために自国のエリート部隊であるイスラム革命防衛隊1500名と資金、そして大量の武器・弾薬をレバノンのベッカー高原へ送り込みました。ヒズボラはイランによってつくられたと言っても過言ではなく、悪く言えば〝傀儡(かいらい)〟です。

しかし、ヒズボラのトップであるハッサン・ナスララー師とイランの最高指導者アリ・ハメネイ師は互いを理解し尊重する仲ともいわれており、ただの使い走りではない。実際、ヒズボラはイランにとって極めて重要な戦略的アセットとなっています。

ハマスとヒズボラが最初に接触したのは、1992年にハマスのメンバーら415人がイスラエルによりレバノン南部に強制追放されたときのことです。1年弱の間にハマスのメンバーたちはヒズボラから自爆用ベストや自動車爆弾の作り方、そして『自爆攻撃がどれほど効果的か』を教えられています」

ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララー師 ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララー師

しかし、シーア派のヒズボラに対し、パレスチナ人中心のハマスはスンニ派と宗派が異なる。この点は問題ないのだろうか?

「ざっくりした説明になりますが、両派の発端は西暦680年に起きた次期カリフ(預言者ムハンマドの代理人)候補のひとりを殺害した事件です。このとき殉教した候補者の支持者たちの『慚愧(ざんき)の念』を宗教的信条とするのがシーア派。

一方、スンニ派は候補者を殺した側の末裔(まつえい)の教義です。信者数が圧倒的に多いのはスンニ派で、アルカイダを創設したオサマ・ビンラディンやIS(イスラム国)のような極端な例を除けば穏健派がほとんど。概してスンニ派のほうが現実主義者が多いようです。

ただ、ヒズボラもハマスもイスラエル殲滅(せんめつ)という点では完全に一致しており、両者の関係は良好です。ちなみに、ヒズボラなど過激シーア派組織の〝最大の功績〟は、教義を理由に自爆攻撃(=自殺)を否定していたスンニ派にも自爆攻撃を受け入れさせたことだといわれます。

スンニ派が自爆を容認していなければ、その後の『9.11』(2001年のアメリカ同時多発テロ)はなかったかもしれない。レバノン南部におけるハマスとヒズボラの邂逅(かいこう)は、まさにその後の歴史を変えたといっていいでしょう」

■北朝鮮のトンネル技術は「ジハード建設財団」へ

2006年にイスラエル軍の侵攻を受けたヒズボラは、地下トンネルを駆使したゲリラ作戦で迎撃。イスラエル軍は事実上の敗北を喫し、撤退を余儀なくされた。この〝勝利〟に、なんと北朝鮮が大きく関わっているのだという。

北朝鮮はかつて南北境界線の地下を通る「南侵トンネル」計画を進めるなど、軍事用トンネル建設の歴史は古い。前出の菅原氏が解説する。

「ヒズボラと北朝鮮は1980年代後半からイランの仲介で関係を構築し、水面下でトンネル技術の〝密輸〟が行なわれていたようです。2000年代以降に表に出てきたものを紹介しますと、

●2005年、北朝鮮の建設会社「KOMID」がイランで核開発施設建設の共同事業。

●2007年、ヒズボラの指揮官100人が北朝鮮を訪問し、地下トンネルを使った侵攻、戦闘術、防諜術、サバイバル術を学ぶ契約を締結。

●2014年、北朝鮮のKOMIDがヒズボラの「ジハード建設財団」にトンネル建設の技術と資材を譲渡する契約を1300万ドルで締結。

14年の契約ではヒズボラからレバノン、中国、タイ経由で北朝鮮に資金が支払われたようです。しかし北朝鮮は国連制裁を受けており、まともな取引はできませんから、それ以外はおそらく〝現物取引〟。ヒズボラがコカインやヘロインを渡し、北朝鮮はそれを売りさばいて資金化していると推測されます。

なお近年、イランのイスラム革命防衛隊はヒズボラ、ハマス、イラクのシーア派民兵組織の連携を強化するネットワーク作りに注力しています。イランやヒズボラ経由で、ハマスにも資金やトンネル技術を含めたさまざまな技術の提供がなされているはずです」

また、ハマスが保有する武器の一部も北朝鮮から流れてきているようだ。韓国の軍事ライターが解説する。

「韓国軍合同参謀本部は10月17日の報道向けブリーフィングで、『中東地域で北朝鮮製の砲弾が発見された。明確な証拠はまだないが、北朝鮮とハマスは関係を持っている可能性がある』と説明しました。

現在の北朝鮮とパレスチナのつながりはPLOの時代ほど強固ではありませんが、イランなどを経由して対戦車ミサイルやRPG(ロケット砲)、AKライフルなどがハマスに流れているようです」

イスラエルのガラント国防大臣は10月20日、「ハマスとの戦闘は3段階に分かれる」と述べた。

1.空爆に続く地上侵攻でハマスの戦闘員を排除し、(指揮所などの)インフラを破壊。

2.ハマスの小さな拠点を残らず潰し、抵抗勢力を排除。

3.ガザに新たな「安全保障体制」を構築。

これは達成可能な目標なのか? 前出の菅原氏が言う。

「1、2の時点で相当な長期化が危惧される上、3は誰が主体となるのかまったく見えません。ファタハはガザでは人気がない。そもそも国連決議に反する形でパレスチナ問題が深刻化している以上、国連統治も無理です。

だからバイデン米大統領は、アフガニスタンやイラクでの失敗を例に出してまで『(イスラエルによる)ガザの占領は大間違いだ』とクギを刺したのです。

そして、ハマスが根絶されようがされまいが、イスラエル殲滅を掲げる勢力は今後も、イスラエルに家族を殺されたパレスチナ人たちをリクルートしていく。このままでは〝終わりのない戦争〟になってしまいます」