映画『NO 選挙,NO LIFE』主演・畠山理仁氏(中央)とその「弟子」プチ鹿島氏(左)、ダースレイダー氏(右)が語り尽くす「選挙漫遊」の魔力とは? 映画『NO 選挙,NO LIFE』主演・畠山理仁氏(中央)とその「弟子」プチ鹿島氏(左)、ダースレイダー氏(右)が語り尽くす「選挙漫遊」の魔力とは?

選挙が始まれば、すぐに現場に行き、有名無名問わず立候補者を全員取材する! このストロングスタイルを貫く男、それがフリーランスライターの畠山理仁(みちよし)氏だ。彼の仕事に密着したドキュメンタリー映画が11月18日(土)から公開される。

今回は畠山氏と彼を「選挙取材の師匠」と慕う芸人・プチ鹿島氏&ラッパー・ダースレイダー氏が集結! 畠山氏が提唱する選挙の楽しみ方「選挙漫遊」の魅力を語り合った!

■「選挙漫遊」の師匠

――プチ鹿島さん、ダースレイダーさんは畠山理仁さんを選挙取材の師匠と慕っているとか。

プチ鹿島(以下、鹿島) まさに師匠。畠山さんとは、僕が2001年に当時の所属事務所だった「大川興業」が自民党総裁選をマネて行なった総裁選に出馬した頃からのお付き合いです。そのとき、同事務所のトップである大川豊総裁のそばで密着取材していたのが畠山さんだった。

以来、いろんなイベントで顔を合わせてはいたんですが、ダース(レイダー)さんとやっている『ヒルカラナンデス』という時事ネタウオッチのYouTube番組で、畠山さんに選挙の解説をしてもらっているうち、こちらも選挙の面白さにはまってしまった(笑)。

ダースレイダー(以下、ダース) それで、畠山さんが言うところの「選挙漫遊」をわれわれもやってみようと。

――「選挙漫遊」とは?

畠山理仁(以下、畠山) 自分に投票権がない地域の選挙も、スポーツ観戦するようなノリで見に行く旅のことです。僕がその楽しみ方の提唱者です(笑)。

ダース 21年衆院選の香川1区や東京8区などに実際に足を運びました。体験してみると、選挙はまさにお祭り。しかも無料だし、こんな楽しい催し物はなかなかないですよ。

畠山 おふたりの活動は『劇場版センキョナンデス』というドキュメンタリー映画にもなりましたし、選挙報道という地味なグラウンドからスターが出てくれて、僕はうれしく思っています。

――ところで、選挙の醍醐味(だいごみ)ってなんでしょう?

畠山 選挙は一期一会で、二度と同じ選挙はありません。候補者は国政選挙の場合は供託金として300万円を払ってまで出馬しているわけで、常人にはない圧倒的なパワーがあります。当然、その主張もエネルギーに満ちている。

無名の候補が大物政治家よりも世の中の核心をズバッと突くこともある。20、30年後を予見した政策を、いち早く掲げることもけっこうあるんです。いうなれば"宝探し"のような面白さが選挙にはあります。

2022年の参院選の候補者のひとりである「スマイル党」代表の込山洋氏(左)を取材する畠山氏(右)。込山氏の衣装のSはもちろんSMILE(スマイル)のS 2022年の参院選の候補者のひとりである「スマイル党」代表の込山洋氏(左)を取材する畠山氏(右)。込山氏の衣装のSはもちろんSMILE(スマイル)のS

鹿島 直接本人と出会うことでニュースで知るだけではわからない候補者の人柄も見えてくるんですよね。それが面白い。

例えば、"エッフェル姉さん"こと自民党の松川るい参議院議員。最近、党女性局によるフランス研修中にエッフェル党の前で撮影した写真をSNSに投稿して、そのアピールぶりが炎上した方です。実は22年の参院選のとき「選挙漫遊」で会ったんです。

批判から逃げる政治家が多い中、彼女はぐいぐいと有権者に近づいてコミュニケーションを取ろうとする堂々とした政治家でしたが、今回はアピールを間違えた。そういう見比べができるんです。

■「育てゲー」という視点

ダース これは畠山さんの教えでもあるんだけど、選挙期間中にどんどん変化する候補者の姿を追うのも楽しいよね。初日はグダグダの演説だった人が、最終日には見違えるような演説巧者に変身していたりとか。

畠山 日本の選挙期間は最長でも17日間ですが、その短い間でも候補者はどんどん成長します。スピーチでの拍手や有権者とのやりとりを参考にして、演説の内容を刻々と変えてくる。そんなことを目の当たりにすると、こんな面白い「育てゲー(育成ゲーム)」を見ないわけにはいかないと思ってしまう。

鹿島 候補者が所属する党の存在を意識させられるのも、なかなか興味深い。21年の衆院選で、ある時点から自民・公明の候補者が一斉に「立憲共産党」というフレーズを口にしたでしょ? 

選挙を野次馬的に楽しむ3人から、楽しい政治談議が聞こえてくる 選挙を野次馬的に楽しむ3人から、楽しい政治談議が聞こえてくる

――その選挙では立憲民主党と共産党が票を食い合わないよう、選挙区の候補者をどちらかの党に一本化するなど、2党間での選挙協力を積極的にやっていましたね。

鹿島 それに対して自公は、有権者の共産党アレルギーを利用した戦術を取ったわけです。与党中枢から全国の自公候補にお触れが回ったんだろうけど、こうした駆け引きをリアルタイムで鑑賞できるのも「選挙漫遊」の楽しさのひとつですね。

ダース そういえば、21年の衆院選では、東京8区の石原伸晃(のぶてる)さんの戦い方が面白かったですね。

その当時の8区は「れいわ新選組」の山本太郎代表の出馬辞退で野党候補が立民の女性候補に一本化されたことで、野党陣営が活気づいていたけど、石原陣営はというと、支持者の前だけで演説して票固めをする"ステルス選挙"だったんです。

僕は、彼に会いたくて会いたくて仕方なかったんですが、なかなか遭遇できなかった(笑)。

畠山 当時、僕も8区の取材をしましたが、石原事務所に演説会のスケジュールを何度聞いても「予定はない」としか答えてくれなかった。

なのに、杉並公会堂で演説会があると聞きつけて駆けつけると、会場は支持者でいっぱい。事前に支持者だけに予定が告知され、入場券が配布されていたんです。メディアは入場できずじまいでした。

――結局、その選挙では伸晃さんは落選してしまいました。

■とにかく大変な「候補者全員の取材」

――畠山さんは「候補者全員を取材しないと記事にしない」というルールを自らに課しているとか。なぜです?

畠山 新人候補の多くは落選し、次の選挙に出馬できない。新規参入のない業界はレベルアップしません。だからこそ、注目度の低い新人候補の声を誰かがきちんと伝えないといけない。新人を含む候補者全員を取材し、その主張を記事に反映させないと発信しないルールを決めたのはそういう思いからです。

――ただ、短い選挙期間中に候補者全員を取材することは大手マスコミでも難しいですよね。

畠山 昨年の参院選の東京選挙区は特に大変で、34人も候補者がいましたから、本当に秒刻みのスケジュールで選挙区を走り回っていました。中には連絡先を公表していないし、演説もしない候補者もいますから。

――そんなマイナー候補にはどうやって会うんですか?

畠山 基本的には立候補届をする選挙管理委員会の場所は決まっているから、そこで数日にわたって待ち伏せです。候補者本人が来たらそのまま話を聞いて、本人ではない関係者だったら連絡先を聞いて、たどっていくという感じですね。

鹿島 張り込みの刑事みたい。

畠山 ただ、関係者だと思って声をかけたら宅配業者だったこともありました。その候補者は、立候補届の提出と、選挙管理委員会から交付される「選挙七つ道具」(選挙事務所の標札、街頭演説用の旗など)の受け取りと、自宅までの配送を依頼していました。

今までこんなケースは見たことがなく、「この発想はなかった!」と驚きました。ご本人に連絡したら「自宅から選挙管理委員会まで遠い。受け取る荷物も多いから」という理由でした。宅配業者の人もこんな依頼は初めてだったようで、とても困惑していました。

■引退宣言はしたけれど......

――現在50歳の畠山さんですが、かつて「50歳を機に選挙取材にピリオドを打つ」と宣言されたそうですね。

畠山 僕の選挙取材は、経費は膨大なのに実入りが本当に少なくて......(苦笑)。家族にも迷惑をかけられないので、50歳を機にきっぱりやめようと決心したんです。

ダース でも結局、やめていない(笑)。

畠山 いや、やめるつもりだったんですよ! 今春の統一地方選で、杉並区議選に出馬した69人全員に取材したときに、1日に29人に会うという記録を達成したんです(それまでは1日18人が最高)。

それでもう潮時かな、と思ったんですが......選挙取材をやめると出費が減って、少しお金に余裕ができるんですよね。今年8月に埼玉県知事選があったんですが、僕は都内に住んでいるので、近場だから経費もあまりかからないだろうとフラっと出かけたんです。

そしたら、やっぱり選挙って面白い(笑)。気がつくと、盛岡市長選や岩手県知事選にも出かけていました。毎回、引退試合のつもりで出かけるんですが、やっぱり選挙取材はやめられないというのが正直なところです。

鹿島 畠山さんにはずっと選挙取材を続けてもらいたい。だから、最近はダースさんとの番組に畠山さんをゲストで呼ぶときは引退宣言を撤回させるところから始めている。それぞれの「選挙漫遊」を山にたとえると、ハードな全員取材をこなす上級者の畠山さんがエベレストだとすると、初心者の僕らはせいぜい高尾山くらい。

全候補者の政策などは畠山さんに発信してもらい、こちらはのんびりとお祭りとしての選挙の楽しさを発信していきたいな。

畠山 おふたりにそう言われて、ますますやめるわけにはいかなくなりました(笑)。

●畠山理仁(はたけやま・みちよし)
1973年生まれ、愛知県出身。1998年にフリーランスライターとして独立。タレント事務所「大川興業」の大川豊総裁と共に選挙取材を重ねる。2017年、『黙殺 報じられない"無頼系独立候補"たちの戦い』(集英社)で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)など

●ダースレイダー
1977年生まれ、仏パリ出身。東京大学中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビュー。MCバトルの大会主催や講演、若手ラッパーの育成にも尽力。2010年に脳梗塞の影響で左目を失明し、以後は眼帯がトレードマーク。11月30日に新著『イル・コミュニケーション――余命5年のラッパーが病気を哲学する――』(ライフサイエンス出版)を発売予定

●プチ鹿島(ぷち・かしま)
1970年生まれ、長野県出身。新聞14紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルのニュースを読み解く芸風で、新聞や雑誌などに多数寄稿。TBSラジオ『東京ポッド許可局』、YBSラジオ『キックス』に出演中。昨年出版した『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(双葉社)が話題に。新著は『教養としてのアントニオ猪木』(前同)

■『NO 選挙,NO LIFE』
11月18日(土)よりポレポレ東中野、TOHOシネマズ日本橋ほか全国順次公開予定
監督:前田亜紀 プロデューサー:大島 新
地方選、国政選問わずあらゆる選挙の現場を取材し続けるフリーランスライター・畠山理仁氏(50歳)の仕事に密着したドキュメンタリー映画。2022年の参院選、東京選挙区で34人の候補者全員への取材で駆け回る畠山氏。その目線の先には普段メディアが取り上げない超個性的な候補者たちの姿があった!