タイで圧倒的に支持されている日本車。この国では道を走る車の約8割以上が日本産という。だが、その分というべきか、違法な密輸車もかなり多い。今回、その密輸の実態を巡りタイ各地を取材。すると「なんでこんな所に!?」と思わず驚く日本車やその部品があちこちで見つかった!
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「これは数ヵ月前に入荷したものですが、エンジンがないため売れ残りました」
タイの首都バンコクから車で1時間半ほど走った所にあるサラブリー県。同県にあるミリタリーショップの店員が、店先に並べられた複数台の中古車の中から1台の大型車を指して、そう言った。
一見するとなんの変哲もないボロボロの車だが、これは日本の陸上自衛隊の防衛装備品「高機動車」である。同車両には、ヘリなどで車両をつり上げる際に使うフックや、銃を立てかけておくための銃架など、自衛隊車両特有の仕様が随所に見られた。
また同店には、「73式」と呼ばれる三菱製の小型トラックも売られている。その運転席には、敵から気づかれないようライトの光を調整するためのロータリースイッチ(管制灯火スイッチ)が装備されていた。
だが、これらの自衛隊車両は、日本国内で払い下げられ、契約業者には解体・破砕が義務づけられている。つまり、本来は"ここにあってはいけない車"なのだ。
タイは自衛隊車両だけでなく、そんな日本車であふれている。
そんな文字がフロントガラスに書かれた日本製の小型バスを見つけたのは、バンコク郊外のアユタヤ県にある中古車店だ。
この県には100を超える自動車部品販売店が密集する地区がある。一帯には、まっぷたつに切断された車や、バンパー、エンジンなどが、山積みになって売られているが、そのほとんどが日本車の部品だ。中には、自動車のナンバープレートを売る店まである。
「日本語のナンバーはオシャレでしょ。1枚300バーツ(約1200円)ね」(店員)
この店では、日本各地のナンバープレートが売られており、同店近くの路上には手書きで作った習志野(千葉県)ナンバーを飾っている車まで見かけた。この街には救急車からタクシーまで、あらゆる車が日本でバラバラにされ流れてきているのだ。
「部品は日本から密輸されてきたものもある。中には盗難車も含まれているはず」
そう話すのは、自動車の密輸に関わっているパキスタン人の男性。彼によれば、日本から密輸された部品は、職人によって一台の自動車に組み立てられ、タイや東南アジアの各地に運ばれていく。また、タイには部品ではなく、自動車そのものを日本から密輸するグループもいるという。
ただ、タイでは2019年から、中古車を原則輸入できない省令が出ている。ならば、いったいどのようにして、日本車がタイに運ばれるのか。そして日本の中古車はどこに流れていくのか。
情報筋によると、国境の街・メソトには、密輸した日本車をさらに隣国のミャンマーへ横流しするための拠点があるという。実際に、現地へ行くと驚いた。ナンバーがついていない日本車が堂々と公道を走り、車を積んだ大型トレーラーが列をなしている。
そして、密輸のカラクリに迫るため、問題の"拠点"への潜入取材を試みた。そこにはタイのみならず、ミャンマーの軍事政権も絡む、深い闇があった!