派閥パーティー問題で記者団の質問に答える岸田首相。支持率も10%台に突入した 派閥パーティー問題で記者団の質問に答える岸田首相。支持率も10%台に突入した
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――ついに岸田首相の支持率は10%台に到達。不支持率も70%を越えました。さらに安倍派パーティーの裏金キックバックで、ついに政権がやばくなってきました。このままだと岸田首相は大きな足跡を歴史に残せないのでは?

佐藤 すでに残していますよ。まず、ウクライナ戦争でゼレンスキー政権に殺傷能力のある兵器を供給していません。たぶんこの戦争が終わるとき、これは大きな意味を持ちます。日本からウクライナとロシアの仲介国になることができるようになります。

そしてガザ紛争においても、イスラエル支持の立場を初めて日本は鮮明にしました。ハマスの人質の家族にも上川陽子外務大臣が会っています。1970年代のオイルショック後、これだけイスラエルに軸足を置いた日本の政権はありません。だから、外交では功績を残しているのです。

さらに、中国とは戦略的互恵関係を再確認しました。福島原発の処理水問題があっても、それはそれとして利益が共通する分野では戦略的互恵関係を構築するとしたのです。こういった形で、あの中国との関係改善にも舵を切りました。つまり、日中の掴み合いの喧嘩が終わり、出口を探すプロセスに入ったのです。だから、良くやっていると言えます。

――しかし、その素晴らしさがなぜ国民に伝わせないのでしょうか? あのインボイス制度の評判が悪いからですか?

佐藤 インボイスは絶対に必要ですよ。税金というのは皆、平等に負担しないといけません。しかし、今までは売り上げ1000万円までの個人や法人は免除されていました。

1000万円の売り上げとはすごい金額ですよ。日本人の正社員の平均年収は460万円ですからね。あまり経費がかからない職種を含め、売上1000万円までの法人や個人が、今まで消費税を払ってこなかったというほうがおかしいです。だから、インボイス制度でちゃんと追跡できるようにして、皆から税金、消費税を平等に取ることは民主主義の原則に照らして正しいです。

消費税はそもそも預かっているようなものなので、一部の人たちはなんやかんや言っても今までそれをガメていたということです。ガメていたカネがなくなったことに文句を言っても、それは権利ではありません。今までの制度の上に乗っかって得られていた利得です。

そこを税金として払う形にしたら「今の売り上げから一割を払うことになったら、自分の仕事は続けられない」と言いますが、それは申し訳ないですけど、廃業するしかないと思います。資本主義とはそういうものですよね?

――はい。

佐藤 税は公平に徴収しないといけません。だから、岸田政権がインボイス導入で非難される筋合いはないと、私は思うんですよね。

――確かに正論です。ただ、支持率は底無しで落ちて行く......。

佐藤 私がよく分からない点がひとつあります。

――どこですか?

佐藤 岸田政権は所得税・住民税の減税を表明しましたが、税収が増えたから減税するという理屈が、私にはよく分かりません。本来ならば税収が増えたら財政の再建(特に国債を減らすこと)、あるいは教育支援に使えばいいはずです。増税したのになぜ減税するんでしょうか? 筋が通っていません。

――ですよね。

佐藤 その辺りのところで、岸田政権が支持率のあまりの低さに世論に阿(おもね)ることが、逆効果になっていると思いますね。

世間に媚びず、「今まで税を取っていなかったところから公平に取ります。税の公平性を担保したわけです」と説明した上で、「物価高で皆苦しいのは分かります。だから本当に必要な所に給付しましょう」と言えばいいはずなんです。

――それなら、誰からも文句は出ないと思います。

佐藤 だけど、「少しでも自分の可処分所得は税に払いたくない」「給付金はできるだけ多く欲しい」「財源のことは知らない」と多くの人が言っています。それは、成熟した国家の国民の発想ではないですよね。

――たしかに小賢しい盗人の発想のようです。そう説明しても支持率は上がりませんか?

佐藤 それはないでしょうね。これは相対的な問題です。簡単に言えば、岸田首相ら自民党が野党に下野して、泉政権や玉木政権、馬場政権、さらには志位政権になって欲しいか?という選択です。

そういう状態になると大混乱が起きます。国民は岸田政権による低位安定か、政権交代による大混乱かというメニューを突き付けられて、思考を停止しているように思います。

次回へ続く。次回の配信は2024年1月5日(金)予定です。

佐藤優

佐藤優さとう・まさる

作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

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小峯隆生

小峯隆生こみね・たかお

1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊(近刊)』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。

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