佐藤優さとう・まさる
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT OpenSourceINTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――今回は忙しいビジネスパーソンのために、2024年「世界早見表」をご提示いただけませんでしょうか?
佐藤 まず、ウクライナ戦争はウクライナは勝利できすに終わってしまいますね。
――いよいよNATOと最終決戦かと思ったら、プーチンは「NATOとはやらない」と言っています。
佐藤 むしろNATOのほうがロシアと戦うことを恐れています。勘違いしている評論家や記者が多いのですが、ロシアはEUにウクライナが入ってもらったほうがいいと思っているんです。
――なんと、偉大な大国の懐の広さ!! でも、なぜですか?
佐藤 大量の安価なウクライナの小麦がEUに入ったら、EUの農家はどうなると思いますか?
――欧州の農家は全滅です。欧州全土で農民一揆が起ります。
佐藤 EUは大混乱ですよね?
――はい。
佐藤 次に、ウクライナの優秀で安い労働力が、EUに大量に流入すると?
――例えばドイツには外国人労働者が約355万人います。しかし、優秀なウクライナ労働者が来れば、その外国人労働者の仕事を奪いますから、混乱が生じます。
佐藤 そうです。さらにウクライナはマフィア組織が強いんです。管理売春システムや麻薬がEUに入って行くことになります。それで、戦争が終われば大量に余剰となった兵器の横流しが始まり、これもEUに流れるでしょう。ジャベリン銀行強盗とか、出て来る可能性もありますよね。
――横流しはすでに準備万端らしいです。米国防省によると、米国とその他の国から送られた16億9000万ドル(約2450億円)相当の兵器のうち、10億ドル(1450億円)分が追跡不能とのこと。米国防省がまとめた報告書は、「盗難や流用のリスクを高めかねない」と警告しています。もしジャベリン乱射事件が発生すれば、ライフル一丁の乱射事件と桁違いの凶悪事件になります。
佐藤 だからロシアからすると、ウクライナのEU参入は良いことばかりです。ウクライナに早くEUに入ってもらって、人物・お金・物品の移動を自由にして下さいということなんです。
――大国ロシアの懐の広さはまさにシベリアの寒さ。悪いモンは全て自国に来ないで、EUに行く。
佐藤 ババ抜きのババをとったようなものですね。
――すさまじいトランプゲームです!! これで、米国大統領にトランプがなれば、まさにEUはさらにジョーカーを握らされる!!
佐藤 ヤバいものが全部きますね。
――今でも、ウクライナからの難民で周辺国は四苦八苦していますよ。
佐藤 EUに入れば難民ではなく、普通の労働者として来れますからね。
――国境無き農産物、マフィア、麻薬、横流し兵器団は最強であります。
佐藤 それが分かっているから、EUはなかなかウクライナを入れませんよ。
――でも、ウクライナはNATOに入ったらダメですよね?
佐藤 NATOには入れません。それはロシアが停戦する時の絶対条件です。もし、NATOに入るなら、緩衝地帯として別の国をひとつ作る必要が生じます。
佐藤 それからイスラエルとハマスの争いは、イスラエルが勝ちますが、引き続きガザ地区はグチャグチャでしょうね。パレスチナ自治政府が入っても相当、混乱しますから。だから、中東の混乱は続きます。
――どこが一番、得をしてるんですか?
佐藤 パレスチナ問題はそんなに大きな問題ではありません。今回の紛争でイランの存在感が増したことが今後、地政学的に無視できない状況を与えると思います。
――イランは実に上手くやっていますよね。
佐藤 ただし、イランの目標はイスラエルを地図上から抹消することなので、一気に勝負を掛けて来るかもしれません。だから、イスラエルがガザでもたついていると、まずイランが支援するテロ組織「ヒズボラ」が本格的にイスラエルを攻撃してくることも考えられます。
――それは第五次中東戦争では......。
佐藤 イスラエルは今動員で55万人、人口は950万人でユダヤ人は750万人です。この動員数は、管理経済に大きな打撃を与えます。
――動員率は7.3%を越えています。第二次世界大戦の動員率は、勝利した米国が最大7.62%で、負けたドイツが14.57%でした。イスラエルはそう長く戦争を続けられません。
佐藤 勝利宣言するならば、ハマスがどの程度残っている段階でやるかですよね。すでに統治機関として、ハマスをガザから追い出すことには成功しています。しかし、完全に絶滅させる事はできません。
だから、どの程度まで弱らせるかということで、軍事指導者、政治指導者の要所にいる人物をピンポイントで中立化していくということだと思います。
――はい。
佐藤 その後は多分、二重に壁を作り、間を地雷原にします。そうすれば今回のような事態の再発は防げます。
――朝鮮半島38度線の非武装地帯のようにして、高い塀を築く。『進撃の巨人』のような世界観であります。
佐藤 今回、イスラエルとしては警戒心が足りなかったので、インテリジェンス機関の立て直しは必須です。また、イスラエルの政局は混乱します。諜報機関も政治も皆、責任を取らないとならないですから。本件は終わってからが大変ですね。
――はい。イスラエルの戦後国内体制の立て直しですね。ちなみに、米国と日本の関係は今年は?
佐藤 日本の報道がずれているのは、米国に日本産パトリオットミサイルを渡して、それを米国がウクライナに横流しをするという憶測をしているという点です。
――そのように騒いでいます。
佐藤 仮に、その地対空ミサイルをウクライナに横流ししたら、ロシアは黙っていると思いますか?
――黙ってないです。怒ります。そして、ロシアから広島へのガスが止まります。
佐藤 ロシアは静かです。多分、米国に備蓄しないとならないパトリオットミサイルは、今、イスラエルにも出しているから最低ラインを下回っているはずです。日本産のパトリオットは、それを埋める分をくれというのがおそらく真相でしょう。日本産パトリオットは、米国のライセンスで作っていますから、なかなか断れないはずです。
――親分の所で「チャカの弾が切れかけとるから、お前んところで作っとる弾をちょいとくれんか?」という感じですね。
佐藤 向こうの図面で作ったものですからね。
――親分の言うことに逆らってはダメです。最新鋭ステルス戦闘機・F35Bを売ってくれなくなりますから。
次回へ続く。次回の配信は2024年2月2日(金)予定です。
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞
1959年神戸市生まれ。2001年9月から『週刊プレイボーイ』の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしている。日本映画監督協会会員。日本推理作家協会会員。元同志社大学嘱託講師、筑波大学非常勤講師。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)、『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼 ブルーインパルス』『赤い翼アグレッサー部隊』『軍事のプロが見た ウクライナ戦争』(並木書房)ほか多数。