23年の超長期在任だった志位和夫氏に代わり、共産党初の女性委員長に就任した田村智子氏。彼女はいったいどんな人物なのだろうか? 果たしてこの女性は共産党のイメージを刷新できるのか? 党関係者や政治評論家に話を聞いた!
■その人物像は"ザ・共産党"
「タムトモ」、あるいは「桜の人」とも呼ばれることがある田村智子参議院議員が1月18日、共産党初の女性委員長に就任した。23年ぶりのトップ交代劇にあえて女性を起用した狙いを全国紙政治部デスクがこう説明する。
「2020年に27万人だった党員が現状では24万人台。ピーク時の1980年には355万部を誇った機関紙の『しんぶん赤旗』も今では85万部前後に落ち込み、23年の統一地方選もマイナス135議席に終わった。
今や共産党の低迷は明らかです。そこで女性初の委員長誕生というサプライズで有権者の支持を増やし、党勢を盛り返そうとしているのでしょう」
政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏もこううなずく。
「共産党が党勢を拡大するには若い世代、女性層の支持が不可欠。男性の党首が子育て支援拡充を叫んでもさほどピンとこない。でも、1男1女の母である田村さんが言えば、世の若いお母さんたちは共感するはず。党員の高齢化も進んでいる。このタイミングでの田村さんの起用は時宜にかなった人事といえます」
とはいえ、今回の女性委員長の誕生劇は永田町ではサプライズではなく、既定路線と受け止められていたという。
「昨年6月に小池晃書記局長が突然、次期衆院選で田村さんの比例代表東京ブロックへのくら替えを発表したことに続き、11月の第10回中央委員会総会で志位和夫委員長(当時)に代わって田村さんが決議案を報告し、結語までしたんです。
しかも、志位さん、小池さんがそれぞれ20分ほどの発言だったのに対し、田村さんは110分もしゃべりまくり。翌日の『赤旗』も田村さんの演説光景のカットがデカデカと1面に掲載されました。
その異例ともいえる売り出しぶりに、永田町では田村さんが次期委員長になるとの声がもっぱらでした」(前出・政治部デスク)
そこまで共産党が力を入れて推した田村智子氏とはいったいどんな人物なのか?
田村氏は65年、長野県小諸市にある文房具店の次女として生まれた。地元の高校を卒業後、84年に早稲田大学に入学。そこで学費値上げ反対闘争をする民青(日本民主青年同盟・15~30歳までが参加できる共産党傘下の青年学生組織)に共感、共産党に入党する。
「反核運動にも熱心で、学内で"反核クッキー"などを配布しながら、軍縮への賛同署名を集めていた。とにかく活動熱心な民青メンバーだったと聞いています」(都内在住、50代の男性共産党員)
早大卒業後は就職せずに民青の専従職員になった。
「そのときにはご両親は涙ながらに反対したそうですが、田村さんはブレずに民青入りした。民青では論客ぶりを発揮し、『朝まで生テレビ!』に出演したこともある。右派団体の若手と日本の戦争責任を巡って激論する姿をよく覚えています。
田村さんが注目を集めたのは16年の『桜を見る会』疑惑で安倍晋三首相(当時)を鋭く追及してからですが、国会での弁舌ぶりを見て変わっていないなと感じました」
95年に民青職員から共産党国会議員団事務局に転籍、共産党議員の秘書を務めた。その後、都委員会副委員長などを経て、10年の参院選に初当選。5度目の国政チャレンジだった。16年には二十数人しかいない党中央委員会常任幹部委員(副委員長兼任)に昇格した。
「桜を見る会」疑惑当時、テレビ番組で共演したこともあるという政治評論家の有馬晴海氏がこう語る。
「経歴を見ればわかるように、"ザ・共産党"という印象の人物。とにかく頭の回転が速く、弁舌力もある。もっと早くに女性委員長に起用されてもよかったのではと思うくらい、力量は確かな政治家です」
■"原理原則重視"の姿勢が裏目に?
とはいえ、気にかかる点も。
「生真面目で人当たりが良く、語り口もソフトなんですが、原理原則を振りかざすことが多くて、近寄り難いなと思わせるところもあります。多くの人の意見をまとめなくてはいけない政治家には多数を納得させる器量、包容力が必要で、その部分に不安があるといえるかもしれません」(有馬氏)
実際、先の党大会ではそんな田村新委員長の"原理原則重視"の姿勢が物議を醸した。討論の場で党首公選制導入を主張した党員の除名処分に苦言を呈した大会出席者を、壇上から「党員としての主体性、誠実さを欠く発言で、政治的本質をまったく理解していない」と非難したのだ。
「ネット配信でこの発言を見て、SNS上では『田村新委員長の発言はパワハラでは?』と炎上中です。初の女性委員長起用でイメージを一新したい共産党としてはなんとも苦しい船出となりました」(前出・政治部デスク)
党勢拡大に加え、田村委員長のもうひとつの課題ともいえる野党共闘の先行きにも不安が残る。
「あまり認識されていないが、野党共闘では自党候補を自主的に引っ込めて共闘を成立させるなど、共産党が現実的な対応をしてきた。その調整に水面下で汗をかいてきたのが小池書記局長でした。
その小池さんのサポートを受けて、田村新委員長がほかの野党に対して現実的な対応を取れるかどうか? それが共闘の成否のカギを握るはずです」(前出・鈴木氏)
座右の銘は「開拓精神」という田村新委員長。アンチ共産層の懐にまで飛び込んで新たな支持を開拓し、党を盛り上げられるのか? 26日から始まった今国会にでも、その真価が問われることになる。